新NISAで注意すべき点とは(写真:sumito/PIXTA)

2024年1月、新NISAが始まる。NISAとは、通常であれば資産運用で得られた利益に対してかかる約20%の税金が、非課税になる制度。従来は、「一般NISA」であれば最大600万円、「つみたてNISA」であれば最大800万円が、NISAを使って投資できる限度額だったが、新NISAでは1800万円へと大幅に拡大される。

資産運用をしたい人にとって朗報だが、この制度を使ううえでは注意すべき点も。その1つが「分散投資」をすることだと、セゾン投信創業者で、今年、なかのアセットマネジメントを創業した中野晴啓氏は言う(本記事は中野晴啓著『50歳からの新NISA活用法』の内容を一部抜粋したものです)。

分散投資で価格変動リスクを抑えられる

分散投資には2種類あります。「時間分散」と「資産クラス分散」です。このうち時間分散は、積立投資のことを指しています。では、資産クラス分散とは何か、ですが、これは株式だけ、債券だけに投資するのではなく、世界中のさまざまな資産に分散して投資することです。

基本的に、株式と債券の値動きは逆相関関係になる傾向があります。逆相関関係とは、お互いの値動きの方向性が異なるということです。

1つのセオリーとして、株価は景気がいい時に上昇する傾向があります。景気が徐々に過熱ぎみになると、インフレ懸念を抑制するために金利が上昇します。金利が上昇すると債券価格は値下がりするので、株価と債券価格は逆相関関係になりやすいのです。

また、景気が悪化して株価が下落している局面では、景気を刺激するための金融緩和政策がとられるため、金利が下がり、債券価格は値上がりします。つまり、景気後退局面においても、株価と債券価格は逆相関の値動きを示す傾向があるのです。

したがって、株式と債券を同じポートフォリオに組み入れておくと、株価が下落した時のリスクを、債券価格の値上がりによって軽減できます。しかも、世界中の株式と債券を組み合わせた国際分散型の投資信託なら、さまざまな国々に分散しているため、特定国の株価や債券価格の変動による影響も受けにくくなります。

分散投資は闇雲に行えばいいというものではありません。

銀行や証券会社などの販売金融機関から勧められた投資信託を買っているような人のなかには、確かに複数の投資信託を保有しているのですが、いずれも同じ資産クラスに投資するものだったりすることがあります。たとえば、日本株を組み入れて運用する投資信託ばかりを5本も買っているようなケースです。

運用会社も運用方針も、そしてファンドマネジャーも異なるから、それで分散されていると思うのは大きな間違いです。

同じ資産クラスに投資している投資信託は、ものによって多少の差はあるものの、基本的に、マーケットが上昇すれば同じように基準価額が値上がりしますし、マーケットが下落すれば同じように値下がりします。つまり、日本株に投資する投資信託だけを何本も保有していたとしても、それは価格変動リスクのヘッジにはならないのです。

複数の資産クラスに分散投資するには

なお、投資信託で複数の資産クラスに分散投資をする時は、たとえば米国株投資信託、日本株投資信託、米国債券投資信託、国内債券投資信託など、単独の資産クラスに投資する複数の投資信託を自分で選び、組み合わせるよりも、複数の資産クラスに分散投資しているバランス型投資信託を1本購入するほうが、余計な手間がかからなくていいと思います。

自分で複数の投資信託を選んで組み合わせようとすると、それぞれの資産クラスに投資しているたくさんの投資信託のなかから1本ずつ選んでいかなければなりません。結構な時間がかかります。それぞれの投資信託をどの程度の比率で買うかも考えなければなりません。

しかも、これを一括で購入するならまだしも、長期にわたって、毎月、複数の投資信託に分散させて積立投資するのは、結構面倒です。

さらに、運用を開始して一定期間が経過すると、値上がりした投資信託、値下がりした投資信託が出てきます。これを放置しておくと、運用開始時に決めたポートフォリオの比率が変わり、リスク・リターンも変わってきます。

そこで、そんなに頻繁に行う必要はないのですが、たとえば1年に1度くらいの頻度で、値上がりした投資信託の一部を解約し、値下がりした投資信託を追加購入して、当初のポートフォリオ比率に戻す「リバランス」を行わなければなりません。

このように、資産クラス分散を自分で行おうとすると、結構な手間がかかるのです。

でも、複数の資産クラスに分散投資する「バランス型投資信託」を購入すれば、この手の面倒な手間はすべてプロのファンドマネジャーが行ってくれます。特に初めて投資信託を購入する人は、まずバランス型投資信託を1本選んで、それに毎月一定金額で積立投資していくことをお勧めします。

バランス型投信を選ぶ際の注意点

ただ、バランス型投資信託を選ぶにあたっては、ひとつだけ注意点があります。それは、国別の組入比率です。

バランス型ファンドでよく見られるポートフォリオに、「国内株式」「国内債券」「海外株式」「海外債券」という4つの資産クラスに4分の1ずつ投資するというタイプがあります。何となく理に適っているように思えるのですが、実はこれは、適切な分散投資とはいえません。なぜなら、国内株式と国内債券でポートフォリオ全体の50%を占めているからです。

日本市場への投資が半分にも達しているポートフォリオは、適切な国際分散投資が行えているとはいえません。バランス型投資信託を購入する時は、まず国別の投資比率で、日本の比率が過度に高くないかどうかをチェックする必要があります。

なぜ、日本への投資比率が50%ではいけないのかというと、これでは世界の株式・債券市場の動向を正確に反映しているとはいえないからです。

2023年3月時点における世界45カ国の株式市場の時価総額を比較すると、国別のシェアでアメリカが占める比率は59.6%です。そして、日本はわずか6.3%に過ぎません。

といっても、日本の株式市場の時価総額が45カ国全体に占める割合は、世界2位の規模を持っています。以下、イギリスが4.1%、中国が3.7%、フランスが3.1%、カナダが2.6%、スイスが2.5%、ドイツが2.2%となっています。それ以外は新興国と考えていいでしょう(myINDEXによる)。

アメリカが59.6%で、日本が6.3%ということは、シェアで見ると、アメリカの株式市場は日本の9倍強もあります。そうであるにもかかわらず、バランス型投資信託の国別組入比率で、日本の比率が単独で50%も占めているのは、いささかおかしいと思うのです。それでは、世界の資本市場を正確に反映したポートフォリオとは、到底いえません。

より高い分散投資効果を目指してバランス型投資信託を購入するのであれば、ここまでしっかり配慮する必要があります。

国別の組入比率などは、投資信託のレポート、運用報告書などに詳細に記載されていますから、複数のバランス型投資信託のレポートなどを比較して、国別組入比率の違いを見比べてみてもいいでしょう。

とにかく、日本の組入比率が滅茶苦茶に高いような投資信託は、日本という国から受けるバイアスが強すぎるため、投資対象の候補からは外したほうが無難です。

取り崩すタイミングも分散させよう

最後にもう1つだけ、分散で注意しなければならない点を挙げておきましょう。それは、投資対象や購入タイミングの分散ではなく、取り崩す際の分散についてです。

たとえば一定期間運用を続けた結果、合計で2000万円の資金ができたとしましょう。そして、毎月の生活費が5万円不足するので、この2000万円から毎月5万円ずつ取り崩していくとします。

この時、2000万円分の投資信託をいったん解約して現預金にし、そこから毎月5万円ずつ取り崩していくべきなのか、それとも2000万円の運用は継続したまま、毎月5万円ずつ解約して生活費に充てていくべきなのかという、2つの選択肢があります。

これからの時代は、公的年金の受給額が減らされたり、医療費負担が増やされたり、あるいは海外からのインフレ要因で生活レベルが低下したりするリスクが想定されます。これらのリスクを念頭に置くと、やはり運用は継続しておいたほうが、大事な資産を守れる可能性が高いと考えます。

したがって、前出の2つの選択肢のどちらを選択すべきかと問われれば、やはり後者、つまり運用しながら取り崩していくことになります。

ただ、取り崩していく際には、ちょっとしたテクニックが必要です。といっても、そんなに難しい話ではありません。購入する時のように、毎月定額を解約するのか、それとも、毎月同じ口数を解約するのか、という話です。皆さんだったら、どちらを選びますか?

毎月5万円を定額で解約するのは、あまり利口な方法とはいえません。なぜなら、マーケットが悪化して基準価額が大きく下がると、たくさんの口数を解約しなければならなくなるからです。

たとえば、基準価額が1万口あたり1万円の時、5万円分を解約しようと思ったら、5万口を解約すれば済みます。

では、基準価額が1万口あたり5000円になったら、どうなるでしょうか。この場合、1口あたりの基準価額は0.5円ですから、5万円分を解約して引き出そうとしたら、

5万円÷0.5円/口=10万口

となり、10万口を解約しなければなりません。

これはいささか極端な例ですが、金額ベースで定額解約を続けていると、基準価額が下がった時に多くの口数を解約しなければならず、その分だけ受益権口数の減り方も速くなってしまう恐れがあるのです。

お勧めは「口数ベース」での解約

そこでお勧めしたいのが、口数ベースでの解約です。つまり、毎月5万円の定額解約ではなく、5万口の「定口解約」をするのです。

ただ、この方法だと、たとえば1万口あたりの基準価額が7000円まで値下がりすると、その月に引き出せる金額は3万5000円になります。つまり、投資の運用成果が悪い時は、少し倹約してお金を使わなければなりません。


でも、一方で基準価額が1万4000円まで値上がりしていたら、その月に解約して引き出せる金額は7万円になります。マーケットがいい時はご褒美、悪い時は我慢、というわけです。これをゲーム感覚で楽しんでもいいのではないでしょうか。

当然、口数ベースで解約していけば、定額解約のように、基準価額を大きく下げた時により多くの口数を解約しなければならないということにはならず、その分だけ受益権口数の減り具合を抑えることができます。

しかも、運用しながら解約していくわけですから、解約によって少しずつ口数は減っていきますが、一方で運用を継続していくことによって資産の額がさらに増えていく期待に鑑みれば、一段と資産の目減りを最小限にできるのです。

(中野 晴啓 : なかのアセットマネジメント社長)