ステランティスは中国合弁会社の工場資産を東風汽車集団に売却する。写真はプジョー車を生産する合弁会社の生産ライン(神龍汽車のウェブサイトより)

中国とヨーロッパの合弁自動車メーカーである神龍汽車(東風プジョー・シトロエン)が、中国戦略の大転換を進めている。同社の中国側パートナーである国有自動車大手の東風汽車集団は10月19日、神龍汽車が湖北省武漢市と襄陽市に保有する土地と建物を、総額17億1400万元(約351億円)で買い取ると発表した。

これらの土地と建物は、神龍汽車がプジョー・ブランドとシトロエン・ブランドの自動車を生産している工場にほかならない。とはいえ、神龍汽車は自動車生産から撤退するわけではない。取引の完了後、東風汽車集団は買収した工場を神龍汽車にリースするとしている。

出資比率や役員構成は変わらず

神龍汽車は1992年、フランス自動車大手のPSA・プジョー・シトロエンと東風汽車集団の折半出資で設立された。その後、PSA・プジョー・シトロエンは国際的な買収・合併を経て、現在はステランティスとなった。

今回の取引により、ステランティスは中国における自社保有の工場資産を失うことになる。しかし東風汽車集団は発表のなかで、同社およびステランティスの神龍汽車に対する出資比率や役員構成に変更はなく、両社が引き続き共同で合弁会社の発展をサポートすると強調した。

神龍汽車の工場売却の背景には、中国市場における深刻な販売不振がある。同社の販売台数は2015年の71万台をピークに減少し続けており、2023年1月から9月までの販売台数は前年同期比29.5%減の6万4000台に落ち込んでいた。


ステランティスは中国合弁会社の輸出拠点化を進める計画だ。写真はヨーロッパ市場に輸出する「シトロエンC5X」(神龍汽車のウェブサイトより)

内情に詳しい関係者によれば、神龍汽車の社内ではステランティス側と東風汽車側の(経営方針をめぐる)軋轢が長年続いてきたという。

ステランティス側は、グローバル市場におけるプジョー車とシトロエン車の売れ行きが順調なことを根拠に、中国市場の販売不振はクルマ自体の問題ではなく、東風汽車側の販売体制に問題があると主張。これに対して東風汽車側は、ステランティス側が中国市場のニーズを理解しておらず、ブランドイメージで競合他社に差をつけられたと反論するという具合だ。

急速なEVシフトが背中押す

そこに追い打ちをかけたのが、中国市場における過去数年の急速なEV(電気自動車)シフトだ。外資系合弁メーカーはこの変化に乗り遅れ、中国ブランドのEVに市場シェアを奪われている。そのため神龍汽車の苦境がさらに深まり、ステランティスの戦略転換につながったと見られている。

ステランティスは、合弁会社の資産売却を通じて中国事業へのエクスポージャー(リスクにさらされている資産の割合)を下げるとともに、今後は神龍汽車をプジョー車とシトロエン車の輸出拠点と位置付け、東風汽車集団と共同で育成する計画だ。


本記事は「財新」の提供記事です

具体的には、神龍汽車で生産しているSUVの「プジョー4008」と「プジョー5008」を東南アジア市場に、「シトロエンC5X」をヨーロッパ市場に輸出する。東風汽車集団によれば、神龍汽車はすでに2022年に3万7000台の自動車を輸出しており、それをさらに伸ばしていくという。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は10月21日

(財新 Biz&Tech)