急成長してきたテスラだが、業績は伸び悩みを見せている(撮影:尾形文繁)

写真拡大 (全8枚)


急成長してきたテスラだが、業績は伸び悩みを見せている(写真:テスラ)

EV(電気自動車)市場のトップを走るテスラが減速している。10月18日に発表した2023年第3四半期(7月〜9月)は、売上高が前年同期比8.8%増の233.5億ドル、営業利益は同52.2%減の17.6億ドルとなった。

業績のスローダウンを嫌気してか、決算発表翌日の19日には220ドルと発表前日の17日から13.6%、18日からでも9.3%下落。足元でも220ドル前後で推移している。

2023年7〜9月の出荷台数は前年同期比26.5%増の43.5万台。同83%増だった4〜6月から伸び率が大幅に鈍化した。ただし、これは前年4〜6月(約25.4万台)と7〜9月(約34.3万台)の水準による影響が大きい。

前四半期比で減収、単価は3四半期連続で下落

むしろ懸念すべきは、2023年7〜9月の出荷台数が4〜6月(46.6万台)から6.7%減少したこと。テスラの出荷台数が前四半期比でマイナスとなることはこれまでも数回あった。過去と同じように一時的な踊り場なのか、成長ステージが終わりつつあるのか気になるところだ。

売上高を出荷台数で割った1台当たり単価は前年同期の約6万2400ドルから約5万3600ドルへ14%ダウンした。これは3四半期連続である。EVの競争が激化する中で車両価格を値下しげたことに加え、より高級な「モデルS/X」が減り、中価格の「モデル3/Y」の比率が増えたことが影響している。


結果、稼ぐ力も低下している。2023年7〜9月の営業利益率は7.6%。前年同期は17.2%だった。2021年第2四半期以降、自動車業界では極めて高い2桁の利益率をたたき出してきたが、9.6%と大台を割り込んだ4〜6月からもう一段、利益率が悪化した。


今四半期には生産効率化のための改修工事で一部工場の生産ラインを一時的に停止した影響があったほか、新車種「サイバートラック」の量産に向けたパイロット生産の費用がかさんだこと、研究開発費を前年同期比58%増やしたといった事情もある。

もっとも、車載バッテリーのコストが高いEVは利益を出すことが難しいとされる。既存の大手自動車メーカーのEV事業は軒並み赤字と思われる。7%台というテスラの利益率が依然、驚異的であることは確かだ。

アメリカではGM、フォード、ステランティスの「デトロイト3」が、全米自動車労働組合(UAW)のストライキを受けて大幅な賃上げをのまされた。相対的なテスラの競争力は強まる可能性が高い。

テスラを猛追するBYD

しかし、世界に目を向けるとテスラの1人勝ちの状況ではなくなっている。

世界最大のEV市場である中国で、現地の自動車メーカーが力をつけてきているからだ。その筆頭となるBYDの2023年7〜9月のEV(乗用車)販売台数は43.1万台。46.6万台のテスラは完全に射程圏だ。

BYDは昨年3月にガソリン車の生産を終了し、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)のみに絞っている。7〜9月にはPHV(乗用車)も39万台販売しており、新エネルギー車ではすでに世界一といってもいい。



車載バッテリーやモーターといった主力部品を内製しておりコスト競争力も高い。BYDの2023年7〜9月の営業利益率は8%とテスラを上回った。

EVとPHVの二刀流で、高級車種から手ごろな車種まで顧客層が幅広く、新モデルを次々に投入するBYDに対し、テスラはほぼ4車種、しかも主力のモデル3は量産開始から6年が経過する。勢いに差が出るのはやむをえないのかもしれない。


BYDは「ジャパンモビリティショー」にも出展。大きな注目を集めていた(撮影:鈴木紳平)

BYDは東南アジアや欧州向けの輸出を拡大している。今年1月には日本へも参入し、コンパクトSUV(スポーツ多目的車)「ATTO3」やコンパクトハッチバック「ドルフィン」を投入している。タイとブラジルでは乗用車の工場を建設するなど海外進出に拍車をかけている。

中国メーカーという地政学上のハンディキャップはあるものの、当面、BYDの拡大は続きそうだ。

カギを握る新工場とサイバートラック

もちろん、テスラが成長をあきらめたわけではない。今年3月にはメキシコで新工場「ギガファクトリー」の建設も発表したほか、インドでのEV生産についても前向きな姿勢を示している。


ピックアップEVの「サイバートラック」はアメリカのユーザーに受け入れられるのか(写真:テスラ)

イーロン・マスクCEOが「過去最高の製品」と評するサイバートラックの生産が2023年7月からテキサス工場で始まっている。「プロトタイプから量産にいたるまでが難しい」(マスクCEO)ため立ち上がりに不安は残るが、2025年には25万台まで生産を拡大する計画だ。

ピックアップトラックはGMとフォードが得意とする車型で利益率が高いことで知られる。これが成功すれば再び勢いを取り戻せるだろう。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)