「本当に就職に強い大学ランキング」

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(写真:天空のジュピター /PIXTA)

航空や観光など、特定業種の求人減少や、就活手法のオンライン化など、コロナ禍の影響で大学生の就活は停滞気味となり、大学通信が全国の大学を対象として調査している実就職率の平均値は、2019年3月卒の88.9%から2021年卒は85.3%まで下がった。

そこから現在は回復基調にあり、2023年卒は87.5%まで回復している。その背景にあるのは求人倍率の上昇。リクルートワークス研究所の調査によると、2023年卒の大学生の求人倍率は1.58倍で、コロナ禍で落ち込んだ前年を0.08ポイント上回った。企業の求人意欲の高まりが平均実就職率を押し上げた形だ。


ちなみに、厚生労働省と文部科学省が共同調査している2023年卒の就職率は97.3%。この高い数値は、集計大学数が62校と少なく、就職希望者を対象として算出していることにある。

一方、実就職率の対象大学は、医学部と歯学部の単科大学を除くすべての大学であり、2023年卒は566大学から回答を得ている。さらに、卒業生から大学院進学者を除いた人数を対象として算出しているため、より実態に即したデータといえるのではないか。

2023年卒の学生の就職状況の特徴は、平均実就職率のアップとともに、大学生の満足度も高いこと。リクルートの就職みらい研究所の調べによると、第1志望群に入社予定とした学生は、過去最高の61.5%となっているのだ。

実就職率が大きく上がった大学

就職率と満足度ともに上がった2023年卒の就職状況について、大学別に見ていこう。

平均実就職率が上がっているので当たり前だが、ランキング中の多くの大学が前年の実就職率を上回っている。上位20大学に限ると、下がったのは2大学のみだ。ランキング全体で3ポイント以上上がった大学は20大学。その中でも伸びが大きかったのは、110位の亜細亜大学(+8.3)や103位の岡山理科大学(+7.6)、77位の千葉商科大学(+6.2)、122位の立教大学(+5.0)、121位の熊本学園大学(+4.9)など。

ランキングの上位を俯瞰すると、例年の傾向ではあるが工科系大学が強く、ベスト10の内、半数の5大学を占める。工科系大学の就職の強さは、製造業や建設業などの採用者数の多さとリンクしており、近年は情報化社会の急速な発達により、通信関連業種の採用枠が上乗せされる。さらに、IT技術と無関係でいられる業種がほぼない現状では、銀行や証券、シンクタンクなど、いわゆる文系的な業界も視野に入る。

大学通信は、学部系統ごとの平均実就職率を算出しているが、医学部や看護学部といった就職に直結する資格が取得できる学部系統を除くと、平均実就職率が最も高いのは理工系で、2023年卒は90.8%。ちなみに、文系の非資格系学部で平均値が最も高いのは商学系の88.7%なので、2ポイント以上の差がある。

ランキングの1位は愛知工業大学

ランキングの1位は愛知工業大学。昨年の実就職率を1.1ポイント上回り、2位から順位を上げた。2023年卒の就職者数上位企業は、メイテックの他、矢作建設工業やフジキカイ、トーエネックなどで、地元愛知の企業を中心に多く学生が就職している。

2位の福井大学も昨年の実就職率を1.8ポイント上回り3位から順位を上げている。卒業生1000人以上かつ、複数の学部を持つ国立大学の中で、16年連続でトップをキープしている大学だ。医、教育、工、国際地域と就職に強い学部が大半を占める強みがある。就職者が多い企業は、福井村田製作所やセーレンといった福井に本社を持つ企業の他に、アイシンやトヨタシステムズ、イビデンなど、中部圏の企業も上位に多く入っている。

3位の大阪工業大学も上位2大学と同様に順位を上げており、昨年の実就職率は96.2%で4位だった。就職者が多い企業は、順に大和ハウス工業、NTTデータ関西、デンソーテン、三菱電機ソフトウエア、三菱電機など。

ランキングの4位は金沢工業大学で5位は名古屋工業大学、6位には医療系の国際医療福祉大学が入った。就職に直結する医療系の資格試験に強いことがランキングの順位となって表れている。

7位は工科系の芝浦工業大学で、8位には名城大学が入った。卒業生が少ないほど就職支援が行き届きやすいこともあり、ランキング上位には卒業生数が1000人台の大学が多い。そうした中、名城大の卒業生は3000人を超えている。就職支援の確かさとともに、理工と農といった就職に強い理系学部の卒業生が大学全体の4割以上を占めていることも、高い実就職率の要因になっているようだ。

9位には女子大の東京家政大学がランクイン。2023年春に恵泉女学園大学と神戸海星女子学院大学が募集停止を発表するなど、入り口の入試面で苦戦が続く女子大だが、出口の就職は好調であり、女子大全体の平均実就職率は、常に大学全体を上回っている。就職力を考慮すると、今の女子大の志願者の減少はもったいなく思える。ランキング上位に入っている女子大には、11位の実践女子大学、12位の昭和女子大学、13位の椙山女学園大学、26位の武庫川女子大学などがある。

難関国立大学、早慶上理、MARCH、関関同立は?

実就職率ランキングを見て気づくのは、いわゆる難関大が上位に入っていないこと。優秀で多様な人材が集まるトップ大学では、既存の会社への就職ではなく、自ら起業を目指す学生が少なくない。さらなる知識の獲得を目指して、海外留学や大学に入り直すなど、多様な進路選択をする学生も多いことから、実就職率は上がりにくい傾向にある。

旧帝大に東京工業大学、一橋大学、神戸大学を加えた難関国立10大学、早慶上理(早稲田大学、慶応義塾大学、上智大学、東京理科大学)、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大、中央大学、法政大学)、関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)の状況を見ておこう。

難関国立10大学中、卒業生1000人未満で対象外の一橋大(91.6%)を除くと、ランクインしているのは、名古屋大(111位)、九州大(127位)、東京工業大(130位)、神戸大(143位)、東北大(145位)の5大学。北海道大(83.5%)、大阪大(82.5%)、京都大(77.6%)、東京大(65.8%)はランク外となっている。

早慶上理でランクインしているのは、28位の工科系の強みが生きる東京理科大のみで、慶応義塾大(84.9%)、早稲田大(82.5%)、上智大(80.2%)はランク外。

MARCHは、青山学院大(57位)が最上位で、中央大(88位)、明治大(92位)、法政大(94位)、立教大(122位)が続く。関関同立は、トップの関西学院大(65位)以下、関西大(85位)、同志社大(109位)、立命館大(123位)となっている。

1〜50位


51〜100位


101〜150位


■データについて
(注)データは11月1日現在で卒業生数1000人以上が対象。実就職率(%)は、就職者数÷〔卒業生(修了者)数−大学院進学者数〕×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。一部の学部・研究科などを含まない大学もある。大学名横の*印は大学院修了者を含むことを表す。設置の「国」は国立、「公」は公立、「私」は私立を表す。大阪公立大学は統合前の大阪市立大学と大阪府立大学の実績を掲載した。

(出所)大学通信

(井沢 秀 : 大学通信 取締役情報調査・編集部部長)