「NG記者」が指されたら聞きたかったことは重要なポイントだった

ジャニー氏による性加害の補償総額はいくらになる? 雑誌・テレビ・映画がジャニーズに依存した理由は? タレント帝国を支えた「ジュニア」育成の仕組みとは?

『週刊東洋経済』11月11日号では「解体!ジャニーズ経済圏」を特集。タレント帝国の知られざる金庫の中身、不動産の保有実態、ジュリー氏が税金を払わないで済む離れワザ、新設会社に原盤権を移転する際の問題点についてお届けする。


10月2日のジャニーズ事務所(当時、現スマイルアップ)の記者会見──。私は質疑応答の最初から挙手していた。司会者の松本和也氏と目も合った。周囲の記者は指されたが、なぜか私は最後まで指されなかった。

会見が終わってすぐに「NGリスト」の存在を知り、私の名前が載っていることを確認した。6人のリストを目の当たりにし、「それで指されなかったのか」と思うと、何か虚しい気持ちになった。

被害者の感情を不用意に傷つけないようにと、「これは聞けないよな」「どう聞くべきかな」と思いを巡らし、自分が指された際の言葉遣いに気を配って準備していた。が、すべて無駄に終わった。

「真贋はわからない」と伝えるべき

旧ジャニーズ事務所は10月10日に「NGリストの外部流出事案に関する事実調査について」というリリースを出した。これは一方的な発表にすぎず、「真贋はわからない」と伝えるべきだ。

ところがリリースに書いてあることがすべて事実であるかのように取り上げるワイドショーもあった。これでは事務所側の誘導に乗せられてしまう。一種の危うさを感じる。

このリリースが出る4日前、10月6日のことだ。NGリストに載った6人のうち5人が、「ジャニーズ事務所に真の説明責任を求めるジャーナリスト有志」として東山紀之社長への質問状を公開した。会見のやり直しや白波瀬傑元副社長の会見参加など、5つの質問・要望をしている。回答期限を10日に設定していた。

なお、私はこの公開質問状に、6人のNG記者の中で唯一、名を連ねていない。それは、私は連名ではなく自分のやり方で追及したいとの思いからだった。

逸失利益の補償は必須

もし私が10月2日の会見で指されていたら、藤島ジュリー景子代表取締役が手紙の中で述べた「法を超えた救済」の具体的な中身を聞いていた。


「法を超えた救済」に触れたジュリー氏の手紙

未成年のときに性加害を受けたことでいまだに仕事に就けない、不眠が続いている被害者をどう救済するのか。「心のケア」や「補償」という言葉が独り歩きしている。具体的な中身の説明もなく使われている。

一方で、タレントを続けていたら得られていたであろう「逸失利益」については何も語られていない。それが気がかりだ。

今活躍している同期のタレントと同水準の報酬を補償するのか。「法を超えて」というのはそういうことなのか。「時効を超えて」なのか、それとも「相場を超えて」なのか──会見で指されたら、そんなことを聞こうと思っていた。

というのも、ジャニー喜多川氏による性加害とテレビ局などへの圧力は、セットになっている。多くの人気男性タレントを擁し、圧倒的な力を持つ旧ジャニーズ事務所を辞めたタレントは、「辞めジャニは使うな」という圧力を受ける。

和解を急ぐ必要はない

こうした構造の中で、被害者は性加害を言い出すことも、事務所を辞めることもできない。辞めればタレントとして活躍する場を失う。だからこそ「逸失利益」の補償は必要だと思う。


鈴木エイト(すずき・えいと)/ジャーナリスト・作家。1968年生まれ。1990年日本大学経済学部卒業。2002年カルト宗教の勧誘阻止活動を開始。2009年「やや日刊カルト新聞」副代表。2011年からジャーナリスト活動を開始(撮影:今井康一)

逸失利益だけでなく、不当に得た利益の配分をすべきだという意見もある。紀藤正樹弁護士の指摘だ。

東山社長は会見で、「11月にも補償を開始したい」と述べたが、私は逆だと思う。

急ぐ必要は何もない。多くの被害者の意に沿わないような低い金額で最初の1人が合意した場合、それが前例になり、後に連綿と続く多数の被害者の補償内容に悪影響を与えかねない。

片っ端から和解を急ぐ必要はない。それなのに11月から補償を開始するというのは、スマイルアップが早期の幕引きを図ろうとしているからではないかと疑われても仕方がないだろう。


(鈴木エイト : ジャーナリスト・作家)