Huluオリジナルドラマ「THE SWARM」出演の木村拓哉をはじめ、大型予算の海外ドラマデビューを果たす日本人俳優がここにきて続出している(C)Hulu Japan

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。

本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

第3話から登場する、主要キャストのキムタク

ファン層の厚い日本人俳優が海外ドラマに初進出するケースが相次いでいます。しかも、各国で組んだ大型予算のものばかり。

10月16〜19日、フランスのカンヌで開催された世界最大級の国際コンテンツ見本市「MIPCOMカンヌ2023」では、木村拓哉出演作ドラマ「THE SWARM(ザ・スウォーム)」が受賞実績を作り、また中島健人(Sexy Zone)出演ドラマ「Concordia(コンコルディア)」の大規模なワールドプレミア上映も行われました。いずれも海外俳優と肩を並べて、ほぼ英語で演じる作品です。なぜここにきて、こうした動きが増えているのでしょうか。それには実は理由があります。


全8話独占配信中のHuluオリジナルドラマ「THE SWARM」は多国籍の俳優陣とともに日本人役として木村拓哉(前列・右)と平岳大(後列・右から2番目)が出演する。先日開催されたMIPCOMカンヌ2023のTBI主催アワードで受賞する快挙を果たした(C)Hulu Japan

「THE SWARM」のケースから見ていくと、木村拓哉が海外ドラマデビューを果たしただけに終わらず、作品として十分な成果を上げていることがわかります。

ドイツのベストセラー小説「深海のYrr」を原作にしたいわゆるパニックもので、人間を襲うクジラに、謎の感染症を蔓延させるロブスター、大量発生するカニや貝など世界中の海で突如巻き起こる不可解な現象の不気味に釣られて、まずは見進めていくことができます。

深海の未確認生物というワードが飛び出すSF要素も加わりながら、異変に気づいて行動を起こしていく研究者役のドイツ、スウェーデン、ベルギー、イギリスなどヨーロッパ拠点の俳優たちによる渋い演技も堪能していると、ふと気づけば、キムタク出演作であることを忘れてしまいそうになります。第2話までは1ミリも登場せず、その後も登場場面が余りにも少ないからです。ただし、ミフネという名の資産家役としての見せ場はしっかり終盤に残されています。

全8話を通じて、ヨーロッパ最大級の水中スタジオで撮影された映像美も見どころとなって、作品に対する評価が高まっています。世界100カ国から1万以上のエンタメ業界人が参加する「MIPCOMカンヌ2023」の期間中、現地時間10月18日夕方に開催されたイギリス最大手のテレビ業界誌TBI(Television Business International)主催の「コンテンツ・イノベーション・アワード」で「Best New Scripted Series=ベスト新作ドラマ」賞を受賞する快挙を果たしたところです。

日テレ傘下Huluジャパンの働き

カンヌでの「THE SWARM」の受賞は、本作が国際間で製作と流通を成立させ、なおかつ市場性のある作品に仕上げたことが評価されています。世界のテレビ市場トレンドの成功例として認められた結果でしょう。

実際に、企画・製作はドイツの老舗配給会社ベータ・フィルムと、同じくドイツの公共放送傘下のZDFスタジオ(旧ZDFエンタープライズ)の2社が設立した新合弁会社インタグリオ・フィルムズが中心となって、投資リスクを抑えて日本を含む各国のパートナー企業から計4000万ユーロ(約63億円)の資金調達計画を立て、国際的なドラマを実現させた経緯があります。具体的な総製作予算は明かされていませんが、日本のドラマ予算規模では考えられないような額の製作費がかけられていることが想像できる数字です。

またドイツの新会社に協力した日本の企業とは、日本テレビグループ傘下のHuluジャパンを指します。つまり、Huluジャパンも国際共同製作の枠組みに入ったため、木村拓哉が海外ドラマに初出演することになったのです。

カンヌでは「THE SWARM」を主題にしたケーススタディ・セッションも行われ、登壇したZDFスタジオの国際共同製作ドラマ担当ヴァイスプレジデントのロバート・フランクは、国際的な製作体制を構築する苦労話を語るなかで、「日本のHuluの助けがなければ、『THE SWARM』は完成しなかった」とまで発言していました。偶然か否かわかりませんが、まるで木村拓哉演じるミフネが劇中で救いの手となる描写と重なるようです。


2024年独占配信予定のHuluオリジナルドラマ「Concordia」に中島健人(Sexy Zone)が最高技術責任者役で出演する。MIPCOMカンヌ2023でワールドプレミア上映作品に選ばれ、注目を集めた(C)Hulu Japan

Huluジャパンはドイツのこのチームと再び組み、2024年に世界同時放送&配信される完成したばかりの作品もあります。それが、中島健人にとって海外ドラマ初出演となったドラマ「Concordia」です。

トレンドのAIがキーワードとなる作品で、実験的なユートピアのコミュニティを舞台に監視社会を描く内容です。カンヌでワールドプレミア上映された1話から最高技術責任者役の中島健人がさっそく登場し、ドイツやアイルランドの女優たちが演じる登場人物とともに緊迫した雰囲気の中で英語の長ぜりふを発していました。この作品においても背景にあるHuluジャパンの働きによって、日本人俳優の活躍の場が海外にも広がっているのです。

別の視点から見ると、海外のメディア企業にとってもファン層の厚い日本人俳優を起用することの利点に気づき始めたとも言えます。

これまでは海外ドラマの中でまれにある日本人キャラクターに対して、オーディションで勝ち取った役者だけが出演する場合がほとんど。たとえば、先の木村拓哉のドラマで木村の部下役として出演している平岳大はそんな実力主義の中で海外でも認められている役者の1人です。

大物プロデューサーも太鼓判、山下智久と福士蒼汰

ただ、それだけでは狭き門のままだったわけですが、日本市場でファンから支持を集めているという実力を武器に海外進出することがあってもよさそうです。人気があれば誰でもいいわけではありませんが、製作の段階から日本が入ることで日本側が日本の俳優を配役でき、結果的に役者の潜在能力を早い段階から引き出すことにつながるからです。


全6話独占配信中のHuluオリジナルドラマ「THE HEAD」Season1に出演する山下智久(左)。製作陣から反響の高さを驚かすきっかけを作った(C)Hulu Japan

Huluオリジナルにはほかにもフランスとアメリカとともに作られた日本の漫画原作の「神の雫/Drops of God」に、スペインほか10カ国以上の俳優が出演する「THE HEADシーズン1/シーズン2」があり、「神の雫」と「THE HEAD」シーズン1は山下智久が、「THE HEAD」シーズン2では福士蒼汰が出演し、それぞれ海外ドラマデビュー作となっています。


全6話独占配信中のHuluオリジナルドラマ「THE HEAD」Season2に出演する福士蒼汰(左端)。英語で演技した初めての作品になった(C)Hulu Japan

この動きは「THE HEAD」から始まったもので、日本人キャラクターをストーリーに加えることを大物プロデューサーで、本作の製作総指揮を務めたラン・テレムが興味を持ったことも大きかったのです。10月3〜6日、スペイン・マドリードの国際ドラマ祭「イベルセリエス」の会場でテレムが話してくれました。

「本来、ヨーロッパの作品に日本人のキャラクターが登場することは馴染みのないもの。でも、Huluジャパンから提案を受けた時、新鮮味を覚えました。多国籍の登場人物で構成され、お国柄の違いが作品の面白さでもあるからです」

ストーリーによっては日本人キャラクターが活かされ、そもそも日本人キャラクターを作り出す交渉の余地があることを象徴する話です。

一方、演技によっては母国語ではない英語のせりふが違和感を作り出すことがあります。そこでテレムは演技指導にも力を入れ、撮影開始の3週間前からマドリードで役柄を理解してもらうための時間を十分に取ったそうです。

「トモ(山下智久)もソータ(福士蒼汰)も英語での演技はその時が初めて。撮影前に、演技する時に英語のせりふを話していることを意識しない状態にまで持っていきました。これは役者が本当にいい演技するための重要なポイントだと思っています。初めてのことで難しいことだったと思いますが、2人ともやってのけてくれました」と、信頼を寄せていることまで伝わってきました。

ファンの反応は世界の中で日本が一番強い


10月3〜6日スペイン・マドリードで開催された国際ドラマ祭「イベルセリエス」でドラマ「THE HEAD」の成功ストーリーを語った製作総指揮を務めたラン・テレム(筆者撮影)

また驚いたことがあったそうです。「ファンの反応は世界の中で日本が一番強い。応援することは日本の文化なのでしょうね。日本からの反響の大きさはいつでも最強です」とテレムは話し、共感を得るファンビジネスが世界的に注目されているなかで、日本の強みとして再認識できる発言です。

イベルセリエスの会場では、世界的に成功している「THE HEAD」シーズン3の製作が決まったことも発表されました。再び新たな日本人俳優が配役される可能性は十分にあります。

日本が出資しているという忖度的な理由だけでなく、日本の役者のポテンシャルが認められ、場合によっては日本人キャラクターがストーリーの面白さを引き上げるからです。日本人俳優の海外ドラマ進出はまだまだ続いていくことに期待せざるをえません。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)