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埼玉県の虐待防止条例の一部改正案に反対するオンライン署名が、10月11日で10万人を突破した。条例改正案は、自民党県議団が提出したもので、小学3年生以下の子どもを自宅に残したまま保護者が外出することや、子どもだけで公園で遊ぶことを禁止することなどを盛り込んでいた。

しかし、埼玉県は保育園や学童保育の待機児童数が多く、「子育てしている親を追い詰める」と強い批判を受けて、自民党県議団は9月定例議会での成立を断念している。

署名は、埼玉県内で2人の子育てをしている野沢ココさんが呼びかけた。

野沢さんらは10月11日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見して、もし条例改正案が成立した場合、埼玉県内で子育てしていくことは難しいとうったえ、自民党県議団に子育て当事者の声に耳を傾けるよう求めた。

また、野沢さんらは、条例改正案が、子どもや子育て当事者の参画や意見反映を定めた「こども基本法」に反するとして、こども政策担当大臣やこども家庭庁長官に対して、同日、同法の周知徹底を求める要望書を提出した。

⚫️自民党県議団のパブコメは「たった1件」の報道

野沢さんはこの日の会見で、条例改正案が「寝耳に水」だったことを明かした。

「10月5日の新聞報道で、13日に可決されるかもしれないと知って驚きました。児童が一人でおつかいに行く、兄の習い事の送迎時に、弟が昼寝をしていたので起こさず外出する、ゴミ捨てに行くため留守番させる、小学校1年生から3年生だけで登下校するといった内容は、普段の生活で起きていることであり、不安になりました」

野沢さんは、市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さんに相談し、10月6日には条例改正案に反対表明するオンライン署名を立ち上げたという。オンライン署名は大きな反響を呼び、会見後の10月11日夕までに10万筆を超える賛同が集まっている。

「子育ての難易度が上がる」「ギリギリまでオープンにしない県議会にも問題があると思う」といったコメントや、「小学生だけで公園で遊ぶのもダメとは何を考えてんの?と思います。この条例を採用させてはダメだと思います」という高校生のコメントにも多くの賛同が集まっている。

一方、自民党県議団は条例改正案に対してパブリックコメントを募ったというが、件数や内容は公表していない。パブコメはたった1件のみだったという産経新聞の報道もある。

天野さんは「オンライン署名には、子育て当事者や高校生の方たちからいくつもの長いメッセージが寄せられています。これこそがパブコメではないでしょうか。自民党県議団の方たちにも署名とともにお渡しして、ぜひ読んでいただきたいです」と話す。

⚫︎「こども基本法」で定められた「手続き」不十分なまま…

今回、自民党県議団が強い批判を受けているのは、子育ての実態や当事者の声が反映されていないことが大きな背景にある。

今年4月から施行されている「こども基本法」11条は、次のように定めている。

「国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」

この記者会見で、野沢さんらをサポートしてきた日本大学文理学部の末冨芳教授(教育行政学)は、この条文に照らし合わせて、今回の条例改正案を次のように批判した。

自民党県議団が実施したパブコメは非公開であり、何人がどのような意見を言ったのかすら明らかにされていないということは、こども基本法の規定を満たすものではありません。

そもそも必要な手続きを認識しないまま、このような条例改正案の提出に至ってしまったのではないかと思います。我が国の法を順守していただきたいです」

自民党県議団は、廃案ではなく、9月定例議会での成立を断念したと報道されていることに、野沢さんらは強い懸念を示している。

埼玉県は待機児童が多く、子どもが安心して過ごせる場が少ないです。まずは、子どもたちが安心安全に過ごせる場所をつくっていただきたい」と野沢さんは話している。