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日本のトイレではすっかり当たり前となっている「温水洗浄便座」。海外の方が日本に旅行に来た際にトイレの機能に驚いたという話も聞きますが、海外ではどうなっているのでしょうか? そこで、アメリカ・シアトルに住んで十数年。子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカのトイレ事情」について教えてもらいました。

記事の初出は2022年10月。内容は執筆時の状況です。

日本に帰省してトイレの充実ぶりに驚き!

コロナ禍でなかなか帰省できずにいましたが、日本の入国規制緩和を受け、3年ぶりに一時帰国をしました。改めて感じたのが、日本のトイレは約8割が温水洗浄便座完備という、トイレ先進国だということ。アメリカから来ると余計に、トイレ機能にまで心を配る日本の「おもてなし」文化と技術力に感動してしまいます。

●アメリカでは温水洗浄便座が貴重って本当?

と言うのも、アメリカに住んで約20年になりますが、アメリカのトイレ事情はなにも変わらず、渡米当時のまま。これまで公共のトイレで温水洗浄便座を一度も見たことはなく、家庭のトイレでも現地に住む日本人の住まいを除き、温水洗浄便座は極めてまれな存在です。

たしかに、数年前からアマゾンやコストコ、大手ホームセンターなどでも、既存の便器に接続できるタイプの温水洗浄便座が販売され始めたのは事実。トイレットペーパーの品切れが相次いだパンデミック初期には、トイレットペーパーの節約になってエコだとメディアで話題になっていたようです。

しかし実際には、日本と比べて機能が劣る割に高価格帯な製品が多く、既存の便器や水栓金具と規格が合わない、便器回りに電源がない、取りつけが面倒、衛生面に不安などと、なかなか一般に広く普及するまでには至っていません。

ちなみに、日本の某有名ブランドをチェックしてみると、アマゾンの割引価格で購入したとしても売れ筋製品は約5万円から…。さらに日本のようなトイレ本体とのセットになると、アメリカのバカ高い取りつけ工事費、人件費を考えれば、とても庶民には手の出ない高級品であることがわかります。

「こんなものがあるなんて、日本に旅行するまで知らなかった」というアメリカ人もいるくらいなので、この10月の外国人旅行者に向けた新規入国制限の見直しで、アメリカから日本に観光で訪れる人が増えれば、温水洗浄便座の普及率も上がっていくのかもしれませんね。

●アメリカでは「トイレ」と言っても通じない?

アメリカのトイレは、日本のようなトイレだけの個室は珍しく、一般的なアメリカの家屋では浴室の中にトイレと洗面台があるスタイルが多く見られます。

おもにトイレ(toilet)は便器を指し、「トイレに行きたい」などと場所を意味する場合は浴室、つまりバスルーム(bathroom)と言います。日本人の感覚では、「バスルームに行きたい」と聞くと、トイレではなく、お風呂に入りたいのかと思ってしまうかもしれませんね。

アメリカでも広いお宅では、家に来たゲストや業者用に個室のトイレが玄関横やリビングルームの近くに設置されていることがあり、それにプラスして、主寝室とつながる配置で前述の「バスルーム」が存在します。寝室が多い間取りではその分、バスルームも2か所、3か所と増えていきます。

●トイレが寝室と直結しているメリット・デメリット

バスルーム、すなわちトイレが寝室と直結しているメリットとしては、だれとも顔を合わせずトイレに行けることが挙げられます。夜中、あるいは起き抜けにトイレに行く場合も気兼ねなし。洗面台も便器の隣にあるので、そこで手を洗って完結。

なお、お風呂に入る場合は、寝室が脱衣所代わりです。お風呂を出てからも、タオルを巻いたまま、寝室のクローゼットを開けて直接、パジャマや下着を選んで身に着ければいいわけですね。

一方、デメリットももちろんあります。洗い場も脱衣所もないバスルームは、浴槽の隣がすぐ便器。入浴中の子どもが急にもよおしたとき、それこそトイレトレーニング中などは便利かもしれませんが、お風呂でリラックスしたい日本人からすると味気ない限り。

そのうえ、タオルやバスマットを使えば衛生的に問題ないとしても、浴槽から出てすぐ、便器の前の床に、きれいに洗ったばかりの足をつかなくてはならないというのは、いまだに納得がいきません。

●多様化する「バスルーム」としての収納

気になる収納ですが、トイレ=便器のアメリカでは、基本的にトイレ回りにはトイレットペーパーを除いてなにも置いてありません。浴室だと考えれば、それも納得がいきますね。

バスマットはあっても、トイレマットやトイレカバー、トイレ用の履き物もなし。トイレットペーパーホルダーは、日本のようなトイレットペーパーホルダーカバーを見かけないどころか、壁に備えつけていないことも多い印象。キッチンペーパーホルダーのような、縦置きの自立型も決して珍しくはありません。

ではトイレ用品はどこにあるのかと言えば、バス用品と一緒に洗面台の下あるいは横のキャビネットに集約されることになります。洗面道具についても同様。また、洗面台や便器の上部の空間を利用し、キャビネットやラックを設置するケースも一般的です。

最近では、バスルームの面積を広くする間取りが人気を集めており、「ダブルシンク」と呼ばれる2つの洗面台を設置する物件が増加。日本の浴室に続く脱衣所兼洗面所のように、クローゼットやランドリー設備をバスルーム内に設置するインテリアデザインも注目されているようです。

●限りあるスペースを上手に活用!

わが家の場合、バスルームの広さはかなり控えめのため、収納も最小限。それを心配して棚やラックの購入も検討しましたが、じつは「いつも必ずそこになければいけないもの」は案外少ないのだとわかりました。入りきらないトイレットペーパーやハンドソープなどのストック、生理用品、掃除用品は使うときに持ってくればいい。なければないで、なんとかなるものです。余計な生活感も出ず、見た目スッキリ! ゴミ箱も洗面台下のキャビネットに入れて、目隠ししています。

ものがなくなれば、狭いバスルームでも広々として見えるだけでなく、掃除の手間が省け、時短にもなるというもの。今では、収納棚をわざわざ買わなくてよかったと満足しています。置き場所に困り、思いきって捨てたバスケットや使用頻度の低いスキンケア用品についても、処分して正解でした。

日本でもアメリカでも、あくまで人それぞれ、地域や家庭によりますが、ご参考までに。