マスクを外す機会が増えてから、口臭が気になることがありませんか?  歯科医の宝田恭子先生によると、口の中で悪玉菌が繁殖すると強い口臭の原因になるそうです。コロナ禍で悪玉菌は増える傾向にあり、さらに脱マスクで口が乾燥してさらなる悪玉菌の増殖を招いてしまうのだとか。どうすれば口の中の悪玉菌を減らすことができるのか、対策を教えてもらいました。

悪玉菌が増えるのは風邪や疲れが原因

口の中には400〜500種類以上の細菌が生息しています。その約7割は善玉菌で残りが悪玉菌です。歯周病の原因菌はだれの口の中にも潜んでいますが、善玉菌優勢の状態であれば悪さをしません。しかし、風邪をひいて体力が落ちたり、疲れやストレス、栄養の偏り、不規則な生活などによって全身の免疫力が低下すると、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れて悪玉菌が悪さを始めます。

また、風邪やインフルエンザにかかったあとは口腔免疫が低下し、歯周病にかかりやすくなります。逆に歯周病があると、風邪やインフルエンザにかかりやすいこともわかっています。

 

●口腔内の乾燥でも悪玉菌が増える

唾液には食べかすや多数の細菌を洗い流し、口内を清潔に保つ働きがあります。通常であれば口の中の粘膜や歯は唾液に覆われていますが、乾燥すると唾液が行き渡らなくなって自浄作用が低下、悪玉菌が繁殖しやすい環境になってしまうのです。

「口内が乾燥する大きな原因は3つあり、その1つは口呼吸です。マスクを着用していると息苦しさから口呼吸になることが多く、マスクを外す生活になっても口呼吸が習慣化してしまっているケースです。2つ目はストレス。コロナ禍で思うように外出できなかったことは、大きなストレスになったと思います。ストレスは自律神経を乱し、交感神経が優位となって唾液量を低下させてしまいます。3つ目は加齢です。年齢と共に唾液腺の機能が低下し、舌周辺の筋肉の老化するため唾液の分泌が減っていくのです」(宝田先生、以下同)

悪玉菌を取り除くには「歯みがき」が重要

悪玉菌の集まりであるデンタルプラークは、時間が経つとネバネバ成分をつくり出しバイオフィルムという防壁をつくります。台所やお風呂などで掃除を怠るとヌルヌルしてきますが、あれもバイオフィルムです。悪玉菌を取り除くには、まずこのバイオフィルムを壊さなければなりません。そのためにやるべきことは、“歯みがき”。「それだけ!?」と思ってしまいますが、きちんと磨けている人は少ないと宝田先生は言います。

そこで、歯みがきのポイントをピックアップしてもらいました。

 

●1:みがき方は小刻みに1カ所を10回程度

力を入れてブラッシングをするのはNG。力を入れ過ぎると歯茎の血流が一時的に止まり、何度も繰り返すと歯茎が酸素不足になって退縮しやすくなります。歯茎はとてもデリケートなので、丁寧にやさしく時間をかけて磨くようにしましょう。

「歯ブラシは鉛筆を持つような軽い力で持ち、歯肉の境目に45度の角度で当てて歯周ポケット(歯と歯肉のすきま)に入ることを意識しましょう。1か所につき10回程度、小刻みに動かします。歯の裏側や歯並びの悪いところは、ハブラシを縦にしてブラシの毛先を歯の表面にあてます」

筆者も1か所につき10回を意識して歯みがきをしてみたら、いつもよりツルツルになって気持ちがよかったです。

「磨き残しをしないためには、歯をみがく順番を決めておくことが大切。そして、ただ漫然と磨くのではなく、途中で何度も舌先で歯をチェックします。ヌルっとしたところがあったらそこにはまだプラーク(歯垢)が残っている証拠ですから、その部分は再度やり直しをしましょう」

 

●2:歯ブラシは植毛、形、やわらかさの3つに注目

歯ブラシはナイロン毛で植毛が密なものを。毛の硬さは歯周病症状がある方や歯ぐきから出血しやすい方はやわらかめを、歯ぐきが下がっていない健康な状態の方はふつうがいいそうです。形は小さめで歯周ポケットを磨きやすい平らな形状のものを。柄はストレートタイプが奥まで届きやすいとのこと。歯間ブラシやフロスを使うと、さらに歯垢除去効果がアップします。

「歯間ブラシは歯の隙間ができてきた中高年向き、フロスは歯の隙間が少ない若年層にオススメです。歯間ブラシはサイズが大き過ぎると歯の隙間が広がる可能性があるので、注意してください。かかりつけ歯科医院でチェックしてもらうのがベストです」 

●3:歯みがき粉の成分に注目、つける量も肝心

歯みがき粉には、悪玉菌の除去に効果のある成分が配合されたものがあります。清掃剤、歯周予防の薬用成分である殺菌剤、抗炎症剤が配合の有無をチェックしてみてください。

「最近注目されている清掃成分は、重曹(炭酸水素ナトリウム)です。重曹はキッチンのお掃除にも使うほど汚れを落とす力を発揮する成分。加えて虫歯予防になる高濃度フッ素、歯肉の血行を促進するビタミンEなどをチェックするとよいでしょう」

また、歯ブラシにつける歯みがき粉の量は少なすぎないように、適切な量が必要になります。

「6歳以上は歯ブラシのブラシ部分全体と同じ量、だいたい1.5〜2cmが適切です。とくに高濃度フッ素配合の歯磨き粉は、適正量を用いることで予防効果を発揮するので、しっかりつけてください」

 

●4:夜寝る前の歯みがき、10分はかけよう

毎食後に歯みがきできることが理想ですが、1日1回だけでもしっかり時間をかけて丁寧に磨くことが大切。悪玉菌が食べかすを栄養源としてプラークを形成するのは食後約8時間で、さらに留まるとバイオフィルムを形成します。寝る前にみがき残しがあると、睡眠中にバイオフィルムができてしまうのです。

「朝、昼は忙しいのでしかたありませんが、夜寝る前の歯みがきは1本1本丁寧に磨きましょう。必要に応じて歯間ブラシやフロスを使ってみがき残しがないようにすれば、安心です」

 

●唾液腺マッサージをプラスして口腔乾燥を予防

口腔乾燥の予防には、唾液の分泌を増やすのも効果的。耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つの唾液腺を刺激するマッサージを毎日行うとよいそうです。

(1) 耳下腺のある位置(耳たぶの前方、上の奥歯のあるところの頬)に親指以外の4本の指を添えて、後ろから前に向かって10回ほどぐるぐると刺激。

(2) 顎下腺(あごの骨の内側の柔らかい部分)を親指でグッグッと押して、耳の下からあごの下にかけて5ヶ所ほどを5回ずつ刺激。

(3) 舌下腺(あご先の内側、舌の付け根の位置)を両手の親指で5〜10回ほど押して刺激。

「歯周病は沈黙の病ともいわれ、痛みもなく進行してしまうケースが少なくありません。歯周病が進むと、歯のぐらつくために不調な部分をさけて噛む状態が続き、咀嚼力が衰えてしまいます。咀嚼筋や表情筋が弱って、老け顔にもなりますよ」と、宝田先生。

「口臭の原因は、口の中の汚れを細菌が分解するときに発生するガスですから、丁寧なブラッシングで汚れを取り除き、細菌の繁殖を抑える働きをしてくれる唾液を逃がさないように心がけましょう。そして、普段から歯科医院で定期検診をうけることも大切です」