MFA(made-for-advertising)サイトをめぐる賛否は、表面上は自明に見える。この種のサイトは有益なコンテンツという薄いヴェールで真の意図を覆い隠しながら、その実、ユーザーの邪魔になる広告で溢れんばかりだ。

しかし、その表面の裏側をよく調べてみれば、もっと複雑な絵が見えてくる。意外なことに、マーケターたちは透明性と品質を管理する仕組みさえあれば、MFAサイトは有用だと主張する。

しかし、この主張を紐解く前に、まずはMFAサイトの定義についておさらいしておこう。幟(のぼり)のようなバナー広告が立ち並び、いくつもの動画プレイヤーが戦略的に配置され、本来のブラウジングが儲け主義とカオスの悪夢に変わるWebページ、それがMFAサイトだ。

ブランドには選択の自由がある



批判的な観察者の目には、この煩わしい広告と怪しげなコンテンツの寄せ集めは、さながらデジタル版黙示録と映るだろう。ところが、その背後に潜み、広告の配置を決めるアルゴリズムは、こうしたサイトを極上の機会と見なす。MFAサイトはほかの広告機会よりも人目につきやすく、しかも財布に優しい。当然、このようなサイトで広告を買うチャンスを、広告主たちが見逃すはずもない。

何やらごまかされた感じがしないでもないが、業界の常識に照らせば、MFAはまったくの犯罪者ではなく、かと言って紛うことなき天使でもない。本物と潜在的な無効トラフィック(IVT)の境界線をまたぐ存在なのだ。だからこそ、マーケターにとっては、心理的に解釈をねじ曲げて、この苦い薬をなんとか飲み込む余地も残される。

プログラマティック広告のコンサルタントであるトム・トリスカリ氏は、ANA(全米広告主協会)がこのほど報告したMFAを含むプログラマティック広告の調査にも参画した。同氏いわく、「MFAサイトの広告を買うも買わないも、ブランドには選択の自由があるし、ログデータで検証するしないも同様だ」と言う。本記事では、MFAサイトの広告をめぐるブランドやマーケターの賛否両論について紹介する。

MFA在庫を支持する意見



念のために言っておくが、これはMFAサイトへの広告出稿を推奨するものではなく、こうしたサイトの存在理由を考察するものだ。そこには、考察に値する、合理的だが深刻な欠陥のある理由がある。

潜在的にもっとも重大な理由は、「パフォーマンスがすこぶる高く、かつ安価な広告を」という広告主の無茶な要求だ。そんな広告は現実的に存在しない。そこでMFAが発明された。しかし問題は、MFAサイトの広告は確かに安価だが、パフォーマンスは決して高くないということだ。というよりも、事業運営を左右する主要な業績指標に照らせば、それほど高いパフォーマンスではないというべきか。その反面、なにしろ広告を詰め込んだサイトであるため、大量のクリックやインプレッションは大いに期待できる。短期的な利益追求を優先するマーケターには、まさにうってつけと言えるだろう。

プログラマティック広告のサプライチェーンマネジメントを支援するジャウンスメディアの創業者、クリス・ケイン氏はこう説明する。「広告主にとっては頭の痛い問題だ。なにしろ、エージェンシーにMFAをブロックしろと言えば、キャンペーンの指標は悪化するうえ、メディアコストは上昇する。多くの場合、広告のビューアビリティは下がり、動画の視聴完了率も下がる。非常に基本的な話として、エージェンシーにMFAのブロックを要求するなら、それは欠陥のあるKPIを押しつけているのと同義だと、広告主側は認めなければならない」。

また、ある程度の複雑さは免れないが、比較的理解しやすいということもある。それは広告主にとってのブランドセーフティの重要度に由来する。通常、広告主はキャンペーンの周囲に堅い防護柵をめぐらせて、自社のブランドにふさわしくないと判断したコンテンツから広告を遠ざける。

しかし、こうしたブランドセーフティ対策は、実際には適切なコンテンツであっても、意図せずブロックしてしまうことがある。逆に、悪質なコンテンツのスクリーンショットを見たら、ほとんどのマーケティング担当者から強い反対を引き起こす可能性が高いにもかかわらず、MFAはこれらの保護手段を完全に回避する。マーケターがそうしたスクリーンショットを見ることはほとんどないだろう。そもそも、ブランドセーフティツールを導入するのは、目視で確認する必要をなくすためだ。

多少なまくらで不完全なブランドセーフティ対策であっても、その目的はあくまでも予防だ。MFAサイトに与えうる影響はこの際関係ない。そしてどんなに用心しても、それで罰を食らうことはない。ブランドセーフティの基準を緩めたところで、潜在的なデメリットが浮かび上がるだけで、潜在的なメリットは曖昧なままだ。

MFAの恩恵を受けるSSP



最後に、ここでしばし立ち止まり、MFAの普及に対するアドテクの影響について深掘りしたい。基本的に、MFAの普及に関わりのあるアドテク企業は、MFAで行われるありとあらゆる取引で、その利益の分け前にあずかる者たちだ。結果として、MFAの数が増えれば、彼らの収入も増える。この力学は特にSSPに当てはまる。というのも、SSPはプレミアム在庫よりも、MFAの広告在庫により多くの予算を割り当てる傾向があるからだ。大手のパブリッシャーはその交渉力を背景に、SSPの手数料を低く抑えようとする。SSPにとっては、同じ1ドルでも、MFAサイトで使う1ドルのほうが、プレミアムサイトで使う1ドルよりも価値が大きい。

では、MFA在庫が増えなければ、SSPの経済的基盤は損なわれるのだろうか。シェアスルー(Sharethrough)の最高製品責任者(CPO)を務めるカート・ラーソン氏は、「MFA在庫を販売するアドテク企業は、ジャンクフードを販売する食料品店だ」と例える。

買うも買わないも買い手の自由。しかし、買い手は買わなくてもよいジャンクフードを買ってしまう。どうしても食べたいからだ。MFA在庫も似たようなものである。バイヤーが求める数字を、MFAは見事に提供してくれる。「この固定観念が続く限り、アドテク企業にMFA在庫を売るなというのは無理な話だ」とラーソン氏は述べ、「あるSSPがMFA在庫の販売をやめたところで、MFA在庫を求めるバイヤーが別のSSPに流れるだけだ」と話す。そんなことになれば、シェアスルーのような企業にも悪影響が及ぶだろう。

MFA在庫を否定する意見



否定派の議論はもっとずっと直接的だ。(誤クリックを含めた)いわゆる「虚栄の指標」に基づけば、MFAサイトは高い成果をあげているやに見えるかもしれない。しかし、実際の業績に与える影響は微々たるものだ。これは考え方の問題ではなく、数字の問題である。従って、広告主がその効果を認めてMFAを重用するという意見は、客観的証拠を欠いている。

ケイン氏によると、ジャウンスメディアではMFAサイトを判定する3つの基準の1つとして、当該サイトで表示される広告が「マーケターの求める売上を促進する見込み、またはマーケターの求める売上促進に寄与する見込みが、平均的なWebサイトよりも少なくとも50%低い」ケースと定めている。マーケターたちも徐々にこの現実を理解しつつあるようだ。

一方で現在、MFAを否定するもっとも大きな(そしてもっともにぎやかな)議論は、プログラマティックメディアを活用した広告運用において、MFAが二酸化炭素排出の大きな原因となっているというものだ。

実際、デジタルマーケティング(企業の温室効果ガスの排出カテゴリーでしばしば最大とされる)はスコープ3排出量の最大25%を占めるとも言われ、サステナビリティ重視のマーケターは、サプライパス最適化を通じて、あるいはよりサステナブルなプレミアムサイトでの買い付けを優先するなどして、自分たちが参加する広告オークションの削減を模索している。

IABテックラボ(IAB Tech Lab)でプログラマティック広告およびプロダクト部門を統括するヒラリー・スラッタリー氏は、「サプライパス最適化に関する指摘には大いに賛成だ。サプライパス最適化はサステナビリティの視点で語られがちだが、それは純粋によいビジネスでもある。ことさらに環境を気にしなくても、めざす広告在庫に至るもっとも直接的なサプライパスを見つけることを気にしていれば、結果的に環境のためにもなる」と話す。

マーケターが持つ鈍感な基準



結論として、マーケターやエージェンシーはアドテクを用いた十分な精査なく、大量のプログラマティック在庫を買いつけることに、まったく問題を感じていないようだ。それが彼らの選択なら、それは彼らの判断であり、責任だ。しかし、そういう鈍感な基準は必然的により広範な市場に影響を及ぼすだろう。

ANAのグループエグゼクティブバイスプレジデントを務めるビル・ダガン氏はこう話す。「なかには『MFAサイトでもまったく問題ない。リーチが安く手に入る』という態度の広告主もいる。その一方で、こんなに多くのサイトに出稿する必要があるのだろうかと疑問に思う広告主も現れはじめている」。

しかし結局のところ、「ANAはさきの報告書で、広告主はMFAサイトを使うべきではないとの勧告は行っていない」とダガン氏は続ける。「業界団体として、現実的にそういう勧告は出せない。それでも、使わないことのメリットや使うことのデメリットを会員企業に周知することは可能だ。そうすれば、彼らは十分な情報を得たうえで、自律的に決断することができるだろう」。

[原文:The case for and against made-for-advertising sites]

Seb Joseph and Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)