阪神が巨人を4対3で下し、2005年以来となる18年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた。2位に10ゲーム以上の差をつけるなど圧倒的な強さを見せつけたが、その要因はどこにあったのか。阪神OBである藪恵壹、岩田稔の両氏に今季の戦いを振り返ってもらい、強さの秘密に迫った。


18年ぶりの優勝を果たし、胴上げされる阪神・岡田彰布監督

【選手に安心感を与えたポジションの固定】

── 今シーズンの戦いを振り返って、18年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた一番の要因は何だと思いますか。

藪 岡田彰布監督の采配、起用法がすごくシンプルでしたね。打線では、1番・近本光司、2番・中野拓夢、4番・大山悠輔、8番・木浪聖也の4人が、シーズンを通してほぼ固定できた。守備でも、大山を一塁、佐藤輝明をサードに固定し、中野をショートからセカンドにコンバート、そしてショートに木浪が入った。ポジションを固定すると安心してプレーできますから、そういう意味で選手は迷いなくプレーできたことが大きかったと思います。

岩田 当たり前のことを、当たり前にできたことが最大の要因だと思います。投手は無駄な四球を与えない、守備では確実にアウトにする、打者はボール球に手を出さない......などです。このなかでも、とくに守備力の向上が大きかったと思います。中野をセカンドに、そして肩のいい木浪をショートにしたことでダブルプレーが増えました。また、大山の一塁の守備にも相当助けられたと思います。守備力が格段に上がったことで、投手陣も安心して打者と勝負できるようになったのではないでしょうか。

── 投手陣では、村上頌樹投手、大竹耕太郎投手の奮闘が光りました。

藪 村上は、ファームでは無双していましたが、なかなか一軍では結果を出せず、今年にかける思いは強かったと思います。もともとコントロールがいい投手で、自滅することはありませんが、ボールに強さがなかった。それが今年はボールのキレ、強さとも格段によくなり、ストライクゾーンで勝負できるようになりました。

岩田 村上は彼の1年目の時にキャッチボールをしたことがあったのですが、その時もほとんど胸付近にボールがくる。キャッチボールの時からコントロールのよさは際立っていました。それに球種も豊富で、私のなかでは近い将来、三浦大輔さん(現・DeNA監督)のような投手になるだろうというイメージはありました。

── 大竹投手はいかがですか。

藪 大竹も村上同様コントロールがよく、自滅することがありません。左右の違いはありますが、タイプ的にはよく似ていると思います。昨年末の現役ドラフトでソフトバンクから阪神に移籍してきましたが、よく獲れたなと。彼がいなかったら、こんなシーズンにはなっていなかったと思いますし、まさに救世主的な働きを見せてくれました。

岩田 大竹は左投手でありながらコントロールがよく、全球種が決め球にもカウント球にもできる珍しいタイプです。相手にしてみれば、ものすごく的を絞りづらい投手だと思います。キャンプの時に大竹のピッチングを見て、坂本誠志郎と組ませたら面白いかなと思っていたら、その通りになったので岡田監督も同じことを考えていたんだなと。

── 坂本選手と組ませたら面白いという根拠は?

岩田 坂本は投手の持っている球種をうまく使ってリードできるタイプの捕手で、ストレート中心の投手よりも緩急や制球力を駆使して投げるピッチャーとの相性がすごくいいんです。村上にしても、大竹にしても、坂本のリードがうまくハマったんじゃないかと思いますね。

── リリーフですが、シーズン当初は湯浅京己投手がクローザーとして投げていましたが、コンディション不良もあって、途中から岩崎優投手が抑えに抜擢されました。

藪 湯浅に関しては、WBCに出場したこともあり、岡田監督のなかではダメージを負って帰ってくるだろうと想定していたはずです。だから、湯浅が投げられなくなった時も慌てることなく、岩崎に任せた。岩崎は抑えの経験もあって、さすがのピッチングを見せてくれました。早い段階で勝ちパターンを確立できたのは大きかったですね。

岩田 優勝するチームというのは、リリーフがしっかりしています。たとえ先発が崩れたとしても、リリーフがしっかりしていれば試合が壊れない。今シーズンも終盤に逆転する試合がかなりありましたが、それもリリーフ陣がしっかりしていたから。湯浅が離脱しても、今年はいいピッチャーがリリーフ陣に多くいたので、酷使することなくシーズンを乗り切れた。投手陣については、先発、リリーフとも磐石の戦いができたと思います。

【大混戦のMVPを予想する】

── 打線はいかがですか。現時点(9月14日現在)で3割超えの選手はひとりもいませんが、得点はリーグトップです。

藪 先ほども言いましたが、1番、2番、4番、8番を固定できたことが大きかったですね。なかでも大山がシーズンを通して好不調の波が少なく、大山を「不動の4番」にできたことが得点力の高さにつながったと思います。大山のあとを打つ佐藤がもっと安定した成績を残していれば、得点力はさらに増したはずですが、大山がドンと4番に座ったことで相手バッテリーにプレッシャーをかけることができていたんじゃないかと。

岩田 今年に関しては、8番の木浪の働きがものすごく大きいです。チャンスで回ってくる場面も多かったですし、木浪が起点となり上位で還すという得点パターンも確立できた。7番ではなく、8番に固定できたことで打線のつながりは格段に上がりました。あとは各選手が、四球を選ぶ重要性に気づいたことも重要だと思います。四球数リーグトップの大山を筆頭に、近本、中野、佐藤がベスト10に入っています。ボール球を振ってくれないと、相手投手は四球を出したくないから際どいコースに投げづらくなる。そこで甘い球がくると1球で仕留める。そこに関しては、チームとして徹底していたと思います。

── 18年前の優勝時も岡田監督が指揮を執っていましたが、変化は感じますか。

藪 だいぶ変わったと思いますね。以前は、ケガ人が出ても隠したりしていましたが、今はすぐに公表するようになりました。作戦面についても、記者に話していますし、いい意味でオープンになったという印象です。

岩田 目指す野球そのものは変わっていないと思いますが、前回の優勝時と比べて選手の年齢がすごく若くなった印象を受けます。2005年の時はベテランがチームを引っ張っていましたが、今はほとんどが20代でとにかく元気。だから、夏場になってもバテることなく突っ走れたと思いますし、先発投手にしても長いイニングを投げられる。個人的には、まだまだ強くなると思いますし、黄金期に突入するんじゃないかと期待しています。

── 最後にMVPは誰になるか予想してください。

藪 今季の戦いからすれば投手陣のなかから選ばれそうですが、私は中野を推したいです。彼がセカンドに回ったことで内野の守備はしまりましたし、打者としてもしぶとく粘って次の打者につなげた。近本、大山の働きも立派ですが、今年の阪神打線では中野の働きがものすごく大きかった。

岩田 投打とも突出した成績を残した選手がいないので、票は割れると思いますが、個人的には木浪に獲ってほしいと思っています。今年の阪神打線で「8番・ショート・木浪」は大ヒットでした。彼の存在がチームに与えた影響は計り知れません。

藪恵壹(やぶ・けいいち)/1968年9月28日、和歌山県生まれ。新宮高から東京経済大、朝日生命を経て1994年ドラフト1位で阪神に入団。 1年目に9勝を挙げ新人王に輝く。2005年にアスレチックスに移籍し、08年までメジャー、メキシコリーグでプレー。 10年途中に楽天に入団し、同年現役引退

岩田稔(いわた・みのる)/1983年10月31日、大阪府生まれ。大阪桐蔭高2年の冬に1型糖尿病を発症。 同病が原因で社会人チームへの入団内定を取り消されながら、関西大学で反骨心をエネルギーに変え、2005年大学・社会人ドラフト希望枠で阪神に入団。 3年目の2008年に10勝を挙げ、09年WBCでは日本代表に選出され、世界一に貢献。21年に現役を引退