中国・深圳のテクノロジー系インフルエンサーであるナオミ・ウー氏は、独創的なDIYやテクノロジー方面の豊富な知識に加え、露出の多い格好や豊胸手術を行った経歴から「セクシーサイボーグ」とも呼ばれています。レズビアンであることを公言してLGBTQコミュニティからの支持も高いウー氏が、中国政府の圧力を受けてSNSでの投稿を停止する事態になったことについて、サイバーセキュリティ専門のライターであるジャッキー・シン氏がウー氏に直接インタビューした内容も交えて報じています。

EXCLUSIVE: Naomi Wu and the Silence That Speaks Volumes

https://www.hackingbutlegal.com/p/naomi-wu-and-the-silence-that-speaks-volumes



ウー氏は3Dプリンターなどを駆使した電子工作で注目を集めるインフルエンサーであり、YouTubeチャンネルの登録者数が記事作成時点で約161万人、Xのフォロワーが約24万8000人、Instagramのフォロワーが約17万5000人となっています。

Naomi Wu - YouTube

https://www.youtube.com/@Naomi-Wu/featured



ウー氏は多様な知識に基づいたDIYやガジェットレビューを得意としており、以下の動画ではRazerの「N95グレードフィルター」をうたっていたハイテクマスクが、実際にはN95相当でないことを指摘しています。なお、Razerはウー氏のレビューを受けて、すべてのマーケティング資料から「N95グレードフィルター」の表記を削除することを余儀なくされました。

The Razer Zephyr Is Useless- But It Has Potential - YouTube

ウー氏はホットパンツなど露出の多い目立つ服装をしていることに加え、豊胸手術をしていることも公言しているほか、ウイグル族のカイディさんというパートナーを持つレズビアンでもあります。こうした特徴はウー氏に対する注目を高めると共に、さまざまな批判を集める要因にもなっているとのこと。

西洋のメディアはウー氏に一貫して不利な報道をしてきたとシン氏は指摘しており、テクノロジー系雑誌・Makeの創刊者であるデール・ドハティ氏は2017年に「ウー氏は複数人によって運営されるコンテンツで、実在する人間ではありません」と主張し、後に「私の反応は無意識の偏見を反映していました」と認めて謝罪しました。

また、2018年には海外メディアのVICEがウー氏に密着取材を行い、同氏に関する記事を掲載しました。ウー氏が私生活にまつわる情報の公開を拒否したにもかかわらず、掲載された記事にプライベートな情報が記されていたそうです。これに対してウー氏はVICEの編集者の住所を公開することで対抗しましたが、VICEは「私たちがこれらの主題を避けた場合、私たちが報告した物語は不完全になるでしょう」と主張しており、記事作成時点でも記事を公開し続けています。

シン氏は、「ウー氏の視聴者は主に西洋にいるにもかかわらず、ウー氏は一環して西洋のメディアから不利な扱いを受けており、それはしばしばミソジニー(女性蔑視)の色を帯びています」と述べています。

そんなウー氏は2023年7月8日、Xへの投稿で「皆さんはまだ気づいていないかもしれませんが、私は翼を切られてしまいました。彼らは穏やかな態度ではありませんでした。ですから、もうソーシャルメディアに投稿することは、非常に限定されたテーマ以外ではないでしょう。私はここを去ることができますが、パートナーのカイディは去ることができませんから、新しいルールに従うことになります。もし、私が以前のように『いいね』を押したり返信したりしなくても、悪く思わないでください。これからはお店と、時には動画に集中します。理解してくれてありがとう、今まで楽しかったです」と述べ、それ以降はSNSでの活動を止めてしまいました。



シン氏は過去にもウー氏が中国当局の精査を受けたことはあったものの、西洋メディアの報道が欠如していることは疑問だと主張し、中国当局をむやみに刺激しないよう意図的に報道を控えているのではないかと疑っています。

レズビアンであるウー氏はグローバルなLGBTQコミュニティにとっても大きなアイコンであり、中国当局による監視と検閲の手がウー氏に及んだことは、ウイグル族などに続く新たな弾圧対象としてLGBTQコミュニティが浮上した可能性を示唆しているとシン氏は指摘。実際、近年はLGBT運動に携わる人々に対して警察関係者が嫌がらせ行為を行っており、これは「お茶を飲む」という隠語で呼ばれているそうです。

また、中国のLGBTの人々を支援する目的で2008年に設立された北京LGBTセンターは2023年5月に解散することとなり、SNSアカウントでは解散理由について「不可抗力」とのみ記されました。

シン氏が一連の事態についてウー氏にインタビューしたところ、ウー氏は「この数年間、私をインターネットにつなぎ留めていたのは、当局が『こいつを取り締まったら中国の印象が悪くなる』と心配するだろうという考えでした。今の当局は、私が明日ドブで死んでいても誰も気にしないし、何も言わないであろうことを知っています」と述べ、身の危険を感じていることを示唆したとのこと。

今回の中国当局による圧力は、テンセント傘下の中国語入力ソフトウェア・Sogouの脆弱性(ぜいじゃくせい)がカナダの研究機関であるシティズン・ラボによって明らかとなった一件と関連している可能性があるとウー氏は考えています。ウー氏は2019年の時点で、Sogouなどのキーボードソフトウェアに脆弱性があった場合、メッセージングアプリのSignalに存在するセキュリティを回避し、入力内容を盗み取ることができるという内容をツイートしていました。今回の一件で、このツイートが中国当局の目に留まった可能性があるとのこと。



ウー氏はシン氏に対し、「中国から発信される最も率直な声のひとつが、8年間毎日ツイートした後にプラットフォームから削除されました。誰もそれを気にしていません。私はドブの中で死ぬかもしれませんが、私たちは実際のところ人間ではなく、欧米の人々がイデオロギー戦争で互いに手を振り合うための看板に過ぎないのです」と述べたとのことです。