裏投げでスクバットを下し、全国1勝を手にした帯広農業・宮北啓史【写真:宮内宏哉】

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柔道インターハイ、男子個人戦

 柔道の全国高校総体(インターハイ)は10日、北海きたえーる(北海道立総合体育センター)で男子の個人戦が行われた。地元・北海道の帯広農業からは81キロ級で宮北啓史、90キロ級で千田優瑚(ともに3年)が出場。人気漫画「銀の匙」の舞台として知られる同校で自然とともに学びながら、全国の舞台に辿り着いた。

 十勝平野に広大な敷地を持つ帯広農業。農業高校生たちの日常と青春を描いた漫画「銀の匙」のモデルとなったことでも知られる。

 酪農科学科で学びながら柔道に打ち込んだ宮北は、初戦でスクバット・エンフオチラル(明徳義塾)にリードされながら、最後は裏投げで合わせ技一本。全国1勝を手にしたが、2回戦では知念輝音(沖縄尚学)に背負い投げで敗れた。「(裏投げは)最後にとっさに出た。負けた相手は、組み手が段違いにうまかったです」と晴れ舞台を振り返った。

 北広島の実家は肉牛関係の経営をしており、アンガス牛や和牛を約200頭ほど育てている。「酪農、肉牛の勉強も、柔道もできる」。将来を見据えて帯広農業に進学した。

 朝実習の時は午前4時に起床。眠い目を擦りながら牛の乳しぼりや掃除に励んだ。一番心に残っているのは、自分たちで育てた鶏を屠殺(とさつ)し、食肉として食べたこと。将来、仕事で直面する厳しさを、学生の間に授業で学んだ。「卵から見てきたので、悲しい思いはある。でも、それがなければ自分たちは生きていけない」。食のありがたみを痛感した。

「追い込みたいときは追い込める」自主性が部活にも好影響

 農業科学科の千田は初戦、ツェレンドゥラム・ダグワドルジ(福井工大福井)に巴投げで一本負け。「全国大会は初めてでしたが、相手は体つきも大きさも全然違う。歯が立たなかった」。それでも、もとは同じ階級のライバルだった宮北と切磋琢磨して掴んだインターハイで確かな足跡を残した。

 千田の実家は、十勝に66ヘクタールの広さの農地を持ち、小麦やジャガイモなどを作っている。東京ドーム約14個分の広さだ。「学校でもトラクターに乗って、畑を耕したりできるのは帯農ならでは。楽しいです」と笑う。

 冬は気温−10℃以下になることも珍しくない。1時間程度、屋外で実習を行ってから部活動に移るなど肉体的に厳しい時もあるが、それで心も体も鍛えられた。

「勉強、学びの場で自分がどれだけ取り組めるかを考えてこれましたし、部活でも自分で練習量を決められて、追い込みたいときは追い込める」と千田。実習などで培った自主性は部活動にも好影響を及ぼした。

 2人とも、卒業後はより学びを深められる大学へ進学予定。宮北は柔道を続け、千田は一区切りをつける。「最後の最後に自分の技を掴めた」と宮北の表情は晴れやかだった。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)