スタンフォード大学の学長が研究論文の不正で辞任、少なくとも3本の論文が撤回へ
アメリカ有数の名門大学であるスタンフォード大学のマーク・テシエラビーン学長が2023年7月19日に、8月31日付けで辞任することを発表しました。これは、スタンフォード大学が外部に委託して行った調査により、テシエラビーン氏が主執筆者を務めた複数の論文でデータの操作などの不正が発覚したことを受けてのものです。
Board of Trustees Statement - Release of Report and Announcements - Board of Trustees
Message to the Stanford community | Tessier-Lavigne Laboratory
https://tessier-lavigne-lab.stanford.edu/news/message-stanford-community
Stanford president resigns over manipulated research, will retract at least three papers
https://stanforddaily.com/2023/07/19/stanford-president-resigns-over-manipulated-research-will-retract-at-least-3-papers/
Stanford President Resigns After Report Finds Flaws in his Research - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/07/19/us/stanford-president-resigns-tessier-lavigne.html
スタンフォード大学の学生が運営する独立系日刊紙・The Stanford Dailyは2022年11月に、テシエラビーン氏が研究に携わった複数の論文に写真の改ざん疑惑があると報道しました。
疑いがかけられた論文には、2009年の発表当時バイオテクノロジー企業・Genentechの研究者だったテシエラビーン氏が主導した、アルツハイマー病に関する非常に影響力の強い論文も含まれています。
この問題を受けて、スタンフォード大学は外部の学識経験者による特別委員会を発足させ、過去に発表された論文の見直しを行いました。特別委員会が行った検証作業には、50件以上のインタビューと5万件以上の文書の検討、科学誌など多数の組織との協議、法医学画像の専門家による分析などが含まれているとのこと。
その結果から特別委員会は、問題が提起された12本の論文のうち5本で「テシエラビーン氏が監督する研究室のメンバーの一部が研究データの不正操作に関与したか、不十分な科学的慣行に関与したという証拠を発見し、その結果これらの論文に重大な欠陥が見つかった」と報告しました。
報告によると、テシエラビーン氏個人が直接不正行為に関与したり、他の研究者による不正行為を関知していたことを示す証拠はなかったとのこと。その一方で、特別委員会は「テシエラビーン氏が科学的記録の誤りを修正するための十分な措置を講じなかったと判断されるケースがいくつかあった」と指摘しました。
これを受けて、テシエラビーン氏は公開書簡の中で「委員会の報告書は、私に対する詐欺や不正行為の告発を明確に否定していますが、大学の利益のために、8月31日付けで学長を辞任する決断を下しました」と述べて、引責辞任する意向を表明しました。
The Stanford Dailyによると、不正が認められた5本の論文は撤回か大幅な修正が行われる予定で、少なくとも3本は撤回される見通しとのこと。
神経変性疾患の第一人者として知られるテシエラビーン氏は、神経科学者としてこれまで220本以上の論文を発表してきました。辞意表明に対し、スタンフォード大学は「本学の理事会は、テシエラビーン学長がスタンフォード大学の学長として7年間献身的に取り組み、その間に数々の素晴らしい業績を達成されたことに感謝の意を表します」と述べて、これまでの功労をねぎらいました。
また、テシエラビーン氏も「私はこの役職に7年近く携わってきましたが、これは私のキャリアの中で最大の名誉であり、最も充実した経験でした。私はスタンフォード大学の学長としての時間を常に大切にするとともに、在任中にスタンフォード大学の人々とともに成し遂げたことを誇りに思います」と述べました。
2023年9月以降は、後任として西洋史学者のリチャード・サラー氏がスタンフォード大学の学長に就任します。