電動モビリティを想定した道交法上の新区分「特定小型原付」がまもなく開始。16歳以上なら無免許で運転できるものですが、自転車と原付の中間的存在であるため交通ルールもちょっと複雑かもしれません。そもそもの経緯から詳しく解説します。

自転車のインフラを使える「原付」

 2023年7月1日より改正道路交通法が施行され、電動モビリティなどを想定した新区分「特定小型原付(特定原付)」がスタート。16歳以上であれば、要件を満たした電動キックボードなどは免許不要で乗れるようになります。それを前に、法改正の立役者となったメーカーが報道向けの勉強会を6月26日に開催しました。


電動キックボードなどの新モビリティ(乗りものニュース編集部撮影)。

 勉強会を主催したのは、ペダル付き電動バイク「GFR」シリーズなどを手がけるglafit(和歌山市)と、日本最大のシェアサイクルサービス「ハローサイクリング」を運営するOpenStreet(東京都港区)です。glafitは経済産業省の「規制のサンドボックス制度」を利用し、新しい電動モビリティの走行環境整備を複数の省庁に働きかけてきました。特定原付は、そのひとつの成果といえます。

「特定原付について、“電動キックボード以外も関係あるの?”とよく言われるのですが、これは電動キックボードのための法律ではありません。そもそも“特定”の意味はすなわち“電動”であること。電動モビリティに特化した新しい車両区分といえます」(glafit 鳴海貞造社長)

 従来は、原動機(エンジンなど)がついたものは全て原付以上に分類されていましたが、それとどう違うのでしょうか。

 今後「一般原付」と呼称される従来の原付は、最高速度30km/h、ヘルメットは着用義務、車道のみを走行でき自転車専用道などの自転車用インフラは走れません。

 対して特定原付は、最高速度20km/hで、車道だけでなく自転車専用道、自転車専用通行帯の走行が可能。「自転車が使えるインフラをほぼ全て使える想定」だといいます。

 ちなみに20km/hという速度は、自転車の平均速度を調査した結果、20km/hをやや上回っていたから決まった数値であり、またヘルメット着用が努力義務なのは、この4月から始まった自転車のルールと横並びにしたものだということです。

 さらに、特定原付では装着が義務づけられている「最高速度表示灯」を点滅させ、車体側で速度を最高6km/hまでに抑制することにより、歩道領域を走行することも可能になります。すなわち、路側帯、自転車通行可の歩道です。この“歩道モード”は「特例特定原付」として定義されます。

定義は「サイズと速度」だけ

 鳴海社長は、いわゆる「セグウェイ」を例に、特定原付の創設の意義を説明しました。

「セグウェイは、現行法令ではどうやっても公道を走ることができません。なぜなら、法令では『二輪車のタイヤは車体の前後についているもの』とされているので、左右についているセグウェイはその定義から外れてしまいます。また、原動機がついていれば全て原付以上の車両であり、その形も全て細かく定義されているため、技術革新で合致しないものが出てきた際に対応ができないのです。原動機と車両の定義、この2つを大きく変更してもらいたいと国にお願いしました」

 そうして実現したのが特定原付だと話します。形を定義しすぎることで法令が追いつかなくなることがないよう、基本的に「サイズ要件と速度要件のみが決まっている」ものであり、それを“普通自転車”に合わせたのだそうです。

 ただ、それゆえに利用者、メーカーや販売事業者ともに注意すべきポイントもいくつかあります。

●「歩道の中の自転車スペース」は走れない
 広い歩道で歩行者と自転車の通行空間がカラー舗装などで区分けされたところの自転車用の空間は、特定原付は走行不可。逆に最高6km/hまでの特例特定原付は、自転車専用道などは走行不可。

●ペダル付き電動バイクは特定原付としては不可
 速度を車体側で制御することが前提のため、少しペダルを漕げば所定の速度以上を出せるものは、特定原付として認められない。


glafitのGFR-02。自転車にもなるため、特定原付ではなく一般原付に分類される(乗りものニュース編集部撮影)。

●サイドミラー不要、最高速度表示灯が必要
 一般原付は右側のサイドミラーが装着義務だが、特定原付は不要。一方で特定原付は車体の前後に緑の灯火の「最高速度表示灯」を装着しなければならない。ただし、シェア事業者は最高速度表示灯の装着が2024年12月まで猶予されているので、全ての特定原付が必ずしも最高速度表示灯をつけているわけではない。

●専用のナンバープレート、自賠責の加入必須
 特定原付は一般原付用よりも小さい10cm四方のナンバープレートが交付される。自賠責保険への加入も義務。しかし、7月に間に合わない一部自治体では、一般原付用のナンバープレートを交付してもよい。そのためナンバープレートでも必ずしも特定と一般の原付を見分けられない。

●販売者にも罰則アリ
 販売時は、交通ルールの理解度を測るテストもしくは動画視聴が必須。実施しない販売事業者は罰せられる。また、運転免許証もしくはマイナンバーカードでの年齢確認をネット販売でも徹底。「納車場所が本人確認書類の住所と一致しなければならない」ルールがあるため、ギフト配送や代理購入は不可。