「あんたバカ!?」いただきました! 固定翼では世界初“燃料電池UAV”「アスカ」エヴァ推し納得 その用途は?
「ジャパンドローン2023」に出展された無人航空機「飛鳥 改五・丙二型」。調べてみたら日本の中小企業の技術が結集した世界初のものでした。しかも名称も、某人気アニメの影が見え隠れする、オタ心くすぐるものになっていました。
日本鯨類研究所のオリジナル国産UAV
2023年6月26日から28日まで千葉県の幕張メッセで民間ドローン専門展示会「ジャパンドローン2023」が開催されました。そこには企業だけでなく、ドローンに関わる大学や研究機関などもブースを出展し、普段はお目にかかれない、珍しいドローンを見ることができました。
特に筆者(布留川司:ルポライター・カメラマン)が注目したのは、一般財団法人の日本鯨類(げいるい)研究所が展示していた無人航空機(UAV)「飛鳥 改五(ASUKA Mk V)」です。
日本鯨類研究所のブースに展示された無人航空機「飛鳥 改五」(布留川 司撮影/加工)。
この機体は、ローターと固定翼を組み合わせたVTOL(垂直離着陸)型の無人航空機で、南極周辺における鯨の生態調査のために同研究所が独自開発したものです。洋上における船舶からの運用を想定して風速10〜15m/秒の強風でも飛び続けられるのが特徴で、飛行距離も日本新記録となる104kmを達成。独自開発の機体ですが実際に研究所が行っている南極での調査にも使用されている実用機です。
ただ、アニメファンならば、その機能よりも惹かれるのが名前ではないでしょうか。形式を示す「改五」とその英語表記の「Mk V」のネーミングセンスは、どことなく人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の汎用人型決戦兵器を連想させます。
加えて、ブースで流れるプロモーションビデオのナレーションも、同作の主要キャラ「惣流(式波)・アスカ・ラングレー」を演じた宮村優子さんが担当しており、ブース内の展示を見る限りは、『新世紀エヴァンゲリオン』への強烈なオマージュを感じさせるものでした。
不思議な雰囲気を醸し出す、このドローンの正体は何なのでしょうか。ブースの日本鯨類研究所の方々に詳細を聞いてみました。
欲しい物ないから作った! 開発には下町の中小企業が協力
日本鯨類研究所はクジラの調査研究活動を行う団体で、水産資源の適切な管理と利用に寄与すべく、実際に南極などへ調査船を派遣し、様々な研究活動を行っています。しかし、これまでの調査活動は熟練した調査員による船上からの目視に限られており、より広範囲を効率的に調査できる手段として、無人航空機の活用に着目したといいます。
当初は既製品のドローンを導入しようと検討したそうですが、調査船からの発着や、洋上での長距離自律飛行といった特殊な運用方法にマッチする製品がなかったため、2019年より独自開発をスタート。その結果、生まれたのが、この「飛鳥」シリーズになります。
日本鯨類研究所では、それまでドローンや無人航空機の開発経験がなかったそうですが、それでも数年の期間で独自に実用UAVを作り出すことに成功しています。その秘訣は一体どこにあるのでしょうか。
開発関係者に聞くと、ひとつは早い開発ペースにあるといいます。今回展示された機体の名前に「改五」とあるように、開発開始から数多くの試作機を製作して試験を繰り返したそうです。
固定翼式ドローンでは世界初となる水素燃料給電システムで飛行する「飛鳥 改五・丙二型」。(布留川 司撮影)。
ちなみに、これまでに作られたモデルを列挙すると、初代となる「試製 飛鳥」を筆頭に、「試製 飛鳥改」「試製 飛鳥改二」「試製 飛鳥改二・二型」、「試製 飛鳥改三」、「試製 飛鳥改四」、「試製 飛鳥改四・二型」となります。これら7種類の試作機を生み出したノウハウを元に、現在の「飛鳥 改五」が開発されています。
また、機体製作や開発には外部の中小企業からの支援を受けているといいます。それら企業は規模こそ小さいものの、大手企業の下請けを担う確かな技術力を持っているほか、オーナーや技術者の世代交代が進み、それまで大手企業や各地の研究機関で活躍していた人々が家業の会社へと戻ってきているなかで、大きな技術革新が起きているそうです。
日本鯨類研究所では、彼ら中小企業が持つ高い技術力に敬意を表して、この「飛鳥」に関わった関連企業を「スーパーハイテク中小企業」と呼称していました。
「飛鳥」の開発は継続されており、より長い航続距離とペイロード(搭載能力)を実現するため、動力をバッテリーではなく水素燃料給電システム、いわゆる燃料電池に変えた「飛鳥 改五・丙二型」(ASUKA Mk V H2)を実験機として製作しています。燃料電池で飛行する固定翼UAVとしては世界初の機体で、飛行距離200km以上(ペイロード10kg時)を目指しているそうです。
アニメとの関係はあくまでも「偶然」、でもファンの影が
国産UAVとして様々な記録を打ち立て、すでに運用実績もある「飛鳥改五」。しかし、一般人として最も気になるのは、そのネーミングとブース内のエヴァ的な雰囲気です。やはり、スタッフ皆がエヴァファンだったりするのでしょうか。
「皆さんに同じような質問を受けるのですが、『飛鳥』という名称は『国産ドローンとして日本らしい名前にしよう』ということで命名したものです。同様な漢字の名称が候補としていくつあり、その中から当財団の理事長が選んで決定しました。試製や改五といった呼び方も、日本での航空機開発の黎明期によく使われた命名方式をオマージュとして採用しています。ナレーションに宮村優子さんを起用したのも偶然ですよ」(日本鯨類研究所の開発責任者)
会場で流れたプロモーション映像のナレーションは、声優の宮村優子氏が担当。『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカ役で有名(布留川 司撮影)。
公式的にはその関連性を否定していましたが、ブースに居た同研究所のスタッフたちに機体の質問に交えて探りを入れてみると「いや、みやむー(宮村優子さんの愛称)がナレーションをやってくれるなんて、驚きですよ」とか、「アスカがキターって感じですね」や、「ナレーターの人は式波・アスカ・ラングレーの中の人ですよ」などと、作品への熱いパトスを感じる返答が聞かれました。これらにより、筆者には間違いなくエヴァファンが潜んでいると映りました。
なお、ブース脇の机には、式波・アスカ・ラングレーがプリントされた手ぬぐいが置かれていましたが、そこには宮村優子氏のサインとともに「あんたバカ!?」というフレーズまで書かれていました。
これらを鑑みると、公式的には否定しつつも、関係者の皆さんの心はアノ作品で繋がっているようです。