「溺れた人を救って!」東京消防庁10年ぶり披露 知られざる水難救助の最前線 最新のタグ型消防艇も
2023年6月に開催された東京国際消防防災展で、10年ぶりに披露された水難救助の訓練展示。東京消防庁が誇る大小さまざまな舟艇とともに、水難救助のプロフェッショナルたちの「妙技」が、余すところなく披露されました。
「スローバッグ」「環状検索」ってナニ?
2023年6月15日から18日にかけて東京ビッグサイトで開催された「東京国際消防防災展2023」。大小さまざまな消防・救急車両の展示や地震発生時を想定した消火・救助作業の実演などが行われ、4日間合わせて約17万人もの来場者でにぎわいました。
そのようななか、土日限定で公開されたのが水難救助の訓練。東京港に面した会場ならではのイベントとして、有明西ふ頭公園の前面海域で、東京消防庁の舟艇隊と水難救助隊が水中転落者をどのようにして救助するのか、披露しています。
溺者救助のため、海面へ向け飛び込む(エントリーする)東京消防庁の水難救助隊員(深水千翔撮影)。
訓練は釣り人がボートから海へ転落し、それを助けようと飛び込んだ人も溺れるという想定で行われました。まずは、119番通報を受けて水難救助隊に出場命令が下り、日本橋消防署の浜町水難救助隊を乗せた救助艇「はまかぜ」と「きよす」が現場へ急行。「はまかぜ」の隊員が水面にエントリー(飛び込み)し、溺れている人を甲板へと引き上げました。続いて臨港消防署の高速救命ボートが現場海域に入り、「スローバッグ」と呼ばれるロープの入った浮袋を投げ入れて救助を行います。
一方、釣り人は海中に沈んだまま行方がわからなくなったため、臨港消防署の「はるみ」が引き続き捜索を実施。「はるみ」は多くの観客が詰めかけた有明西ふ頭公園の柵の手前まで短時間で近付き、ウォータージェット推進による高速性をアピールしました。
続行するのは臨港消防署の「しぶき」です。同船には現場の情報収集と救助の指揮を執るため臨港水難救助隊長が乗っており、岸壁に上がると周囲の観客に向けて「要救助者の救出にご協力お願いします」と呼びかけ、目撃者から沈んだ場所の聞き込みを行います。
そこで「ボートの下に沈んだ」という証言を得た救助隊長は、水没者を捜索するため、活動中の各隊に対し反時計回りの「環状検索」を命じました。「環状検索」は溺れて水中に沈んだ人を探す「水中検索」の方法のひとつで、設置されたブイの周りを水難救助員が円を描くようにして要救助者を探します。
水に浮くフローティング担架で素早く船上へ
臨港水難救助隊の隊員がブイを設置すると、再び「はまかぜ」に乗った浜町水難救助隊が合流。ブイを基準に6人の隊員が等間隔で並ぶと、潜水を開始し水中で検索活動を行います。陸上では臨港水難救助隊長が海面の隊員と連携しながら水温や視程の情報を共有しつつ、水中に入った隊員の位置を把握し続けました。
しばらくするとブイが浮き沈みを繰り返し、ダイバーが要救助者と共に海面へ浮上。水面に浮くフローティング担架へ収容し、待機していた「しぶき」の甲板上に引き上げます。懸命の救助活動で釣り人は息を吹き返し、最後は全員が立ち上がって手を振りながら水難救助訓練を終えました。
要救助者をフローティング担架へ乗せて、消防救助艇の近くまで泳いできた東京消防庁の水難救助隊員(深水千翔撮影)。
2023年現在、東京消防庁は9隻の消防艇を保有しており、海や川に面する臨港、日本橋、高輪の各消防署に配置されています。水難救助訓練は有明西ふ頭公園の前面という狭いエリアが会場になったため小型の消防艇だけで行われましたが、もうひとつの消火・救助訓練では大型消防艇3隻による一斉放水も実施されています。この大型消防艇も救助訓練の終了後に紹介が行われました。
まず高輪消防署港南出張所の大型化学消防艇「ありあけ」が放水しながら登場。同船は全長23.2m、総トン数40トンで、東京港内の船舶火災や河川での災害にも対応可能な化学消防艇として、同型の「かちどき」と共に配備されています。重心が低く安定したフラットな船体形状が特徴的で、河川航行時に橋の下を通過できるように可倒式の放水塔を採用しています。
新顔も参加した10年ぶりの訓練展示
続行してきたのは、臨港消防署の大型消防救助艇「おおえど」です。全長37.6m、総トン数は198トンで、旋回式のプロペラを2基備えています。
消防機関としては日本初となるタグボート型の消防艇で、航行不能となった7万総トンを超える大型船を、安全な水域まで曳航したり、船首で押して船の向きを変えたりできる性能を持っているのが特徴。同船の導入によって船舶火災への対応能力が向上しました。船体中央には「バスケット付き屈折放水塔体」を装備し、大型化が進むクルーズ船のデッキへ消防隊員や資器材の投入、要救助者の救出を行えるようにしています。
訓練展示終了後、来場者へ向けて手を振る東京消防庁の水難救助隊員たち(深水千翔撮影)。
そして最後にやってきたのは同じく臨港消防署の大型化学消防艇「みやこどり」です。全長43.2m、総トン数195総トンと東京消防庁が保有する消防艇の中では最大級。広域応援隊として東京湾以遠を航行する能力も持っています。
放水砲を計6基備えており、消火能力は、消防ポンプ車35台分に相当する毎分7万リットルを誇り、タンカー火災や沿岸のコンビナート火災にも対処できるほか、大規模災害にも対応可能なよう緊急処置用のベッドや資器材まで搭載しています。
この舟艇隊や水難救助隊による訓練展示は2013年以来10年ぶりの実施で、メイン会場からは徒歩20分程度離れていたものの、時間になると多くの来場者が訪れ、現場は盛況でした。
岸壁では、多くの子どもたちが目を輝かせて訓練を見ていたことから、普段なかなか目にすることのない東京港を守る消防の舟艇隊や水難救助隊を知る、良い機会になったのは間違いなさそうです。