潜水艇「タイタン」の事故やフジテレビでの2週に渡る映画放送で、最近なにかと話題な「タイタニック号」。同船はかなり深い深海に沈んでいますが、実はそれよりも深い位置に眠っている船もあります。

タイタニックよりも深い位置に沈む船

 フジテレビ系列で2023年7月1日に映画『タイタニック』のデジタルリマスター版後編が放送されます。前編の放送は6月24日で、折しも、実際に海底で眠るタイタニック号を見学する小型潜水艇「タイタン」の事故と重なり、Twitterの世界トレンドで「タイタニック」が1位を記録するなど、大きな話題となりました。


2023年現在一番深い場所で発見された沈没船である「サミュエル・B・ロバーツ」(画像:アメリカ海軍)。

 現在タイタニック号の残骸は水深約3800mに横たわっています。これは深海の中でも、深海帯といわれるかなり水圧の強い場所にあたります。しかし、これよりも深い位置に沈んでいる船が存在します。

 2023年現在、確認されている中で最も深い位置に沈んでいる船は、タイタニック号よりさらに3000m以上深い、約7000mの海中に沈んでいます。アメリカ海軍の護衛駆逐艦「サミュエル・B・ロバーツ」です。

 同艦は第2次世界大戦中の1944年10月25日にレイテ沖海戦中に行われたサマール沖海戦で戦没しています。海戦が行われたサマール島の沖にはフィリピン海溝があり、他の海域よりもかなり海底が深い場所として知られています。

実はもっと深い場所に沈む船が存在する?

 日本海軍との遭遇戦となったこの海戦で同艦は、所属していた第77任務部隊第4群第3集団(タフィ3)の要である護衛空母を守るため、戦艦「大和」を含む大型艦の砲撃の中、積極的に前に出て盾になりました。その間も果敢に砲撃を行い沈没したことから、アメリカ海軍では「戦艦のように戦った護衛駆逐艦」と称えられ、伝説的な扱いを受けています。


「サミュエル・B・ロバーツ」より深い位置に沈んでいるとみられる護衛空母「ガンビア・ベイ」(画像:アメリカ海軍)。

 また、その称賛は艦そのものだけではなく、乗組員にも送られています。後部5インチ砲塔担当のポール・H・カー兵曹は325発もの砲弾を発射し、最後の一発を抱えたまま戦死したという勇敢さを称えられ、オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートの1艦が兵曹にちなみ「カー」と名付けられたこともあります。

 実は同艦の沈没場所が特定されたのは2022年6月25日、割と最近のことです。探検家のビクター・ベスコボ氏が、潜水艇を提供した企業カラダン・オーシャニックとの共同探査で明らかにしました。

 ちなみに、同艦以前に1位だったアメリカ海軍フレッチャー級駆逐艦「ジョンストン」に関しても、このチームが、同じ海域の水深6500m地点で発見されています。さらに「サミュエル・B・ロバーツ」「ジョンストン」と同じくサマール沖海戦で沈んだ護衛空母「ガンビア・ベイ」は、もっと深い場所に沈んでいるとされており、2023年現在調査が続けられていますが、未だ発見には至っていません。

 なお、「サミュエル・B・ロバーツ」が沈んでいる地点は約700気圧の圧力がかかることになります。これは小指の先に軽自動車1台くらいの重さである700kgの荷重がかかっているのと同じです。調査に使われた有人潜水艇「リミティング・ファクター」は、水深1万4000mまで耐えられる設計になっているそうですが、困難を伴う探査であるのは間違いありません。