どうする「戦車動物園」 ウクライナ復興のカギになる車種整理 自国開発か欧米製導入か
なお収束の兆しを見せないロシア・ウクライナ戦争。しかし復興へ向けた議論は加速しています。未来を見据えた時、復興そして防衛のカギとなるのは戦車ですが、供与されるなどで多種多様の戦車が混在する中、その整理が課題となりそうです。
入り乱れる東西・新旧の戦車
ロシアとウクライナの戦争は現在進行形で、先行きもどうなるかわかりません。しかし、いつか必ず問題になるのが戦後復興です。2023年6月21日から22日にかけて、イギリスでウクライナ復興会議が開催されました。また5月の広島サミットにはゼレンスキー大統領が来日し、大統領は広島原爆記念館で、日本に期待するのは「復興」であると語りました。
ウクライナ軍が前線に投入した、ドイツ製のレオパルト2A4(画像:ウクライナ国防省:WM.Blood)。
復興には当然防衛力も含まれます。ウクライナは、2020年には858両の戦車を保有していましたが、6月20日付けの情報サイト「オリックスブログ」によれば、550両を喪失したとされています。しかし欧米からの供与やロシア軍からの鹵獲(ろかく)などで数は変動し続けており、実際戦力になる戦車がどのくらいあるのか、当のウクライナも正確に把握していないのではないかと思われます。
上述の通り、ウクライナの戦車戦力は欧米からの供与やロシアから鹵獲で何とか維持している状況ですが、その分、東西新旧の雑多な戦車が混じって「戦車動物園」と揶揄されるほど。主力戦車だけでもT-55、T-62、T-64、T-72、T-80、T-84U、T-90、PT-91、レオパルト1、レオパルト2、チャレンジャー2、M1A1エイブラムスとなり、同じ車種でも様々なバリエーションがあり、細分すれば40車種以上に及びます。
ウクライナ軍の反攻が始まっているとされますが、今のところ戦局にあまり変化が見られないのは、これら雑多な戦車の混在状態で、数や性能に見合った活動ができていないことも一因とみられます。
復興へ向けた3つの選択肢
防衛力復興の課題は、この動物園状態の整理です。現在は戦時下であり短期的には目をつぶらなければなりませんが、これでは兵站面からも持続的な防衛力にはなりえません。整理するにはどんな方法があるのでしょうか。
方向性ははっきりしており、旧ソ連・ロシア系列に戻らずNATO標準に準拠していくことです。しかし、それはハード、ソフトを大幅に転換する大事業になります。
第一の選択肢は、欧米製の戦車にそっくり入れ替えることです。どの戦車を選択するかが問題ですが、有力候補なのは市場に多く出回っているレオパルト2でしょう。ただし需要を賄えるかはわかりません。新車もすでにノルウェーが発注しており納期がかかるうえ、コストは天文学的な金額になるでしょう。
第二の選択肢は、このまま絶対数の多いソ連時代の装備を運用し続けることです。ただしNATO標準に合わせなければなりませんので、戦車の主砲を125mm砲から120mm砲に換装するなどの改修が必要になります。規格の違う東西の兵器を融合させるという技術的な困難がありますが、ウクライナには戦車を生産、改造、修理ができる工業基盤があり、実際に旧ソ連製のT-84戦車にNATO標準の120mm砲を搭載して輸出しようとした「ヤタハーンプロジェクト」というのがあったので、実行可能です。
ウクライナには戦車を生産、改造、修理ができる工業基盤がある。ロシア製T-80UDをウクライナ向けに改修したT-84U(画像:アメリカ陸軍)。
第三の選択肢が、T-64のように自国開発することです。しかし現代は一国で主力戦車を開発するのは困難で、国際的なパートナーを求めるのが一般的です。すでにいくつかの動きがあり、この選択肢に一番実現性があるでしょう。特にレオパルトのメーカーであるドイツのラインメタルの動きが目立ちます。
「復興」のウラでうかがうビジネスチャンス
ドイツ政府が今年初めまでレオパルト2の供与を認めないほど慎重だったのとは対照的に、ラインメタルのアーミン・パッパーガーCEOは2月初旬、「ドイツ政府が承認すれば、ウクライナへ最新型戦車KF51『パンター』を供与する可能性があり、生産工場まで建設する用意がある」とぶち上げています。ゼレンスキー大統領とキーウで直接会談するなど盛んにトップセールスを行っています。
5月13日には、ウクライナの国営軍事企業「ウクロボロンプロム」との提携による装甲車分野の合弁会社の設立を発表しました。ラインメタルはこの新会社の51%の株式を保有し、事実上の経営権を握っています。2023年7月頃には新会社を稼働させる予定とされます。
ラインメタルは同じドイツのクラウス=マッファイ・ヴェクマン(KMW)と共同で、MGCS(Main Ground Combat System)という次期欧州標準戦車を開発していますが、一方では独自でKF51というコンセプトモデルを発表して、KMWから不興を買っているというややこしい関係です。パッパーガーCEOは「MGCSの完成は2040年以降であり、ウクライナのニーズに間に合わせるためKF51パンターを提案している」と主張しています。本当にKF51をウクライナで生産するかはわかりませんが、ウクライナ復興は有望なビジネスチャンスと見て先手を打ったことは間違いなさそうです。
ほかにも2023年5月30日、イギリスのチャレンジャー2戦車やM777榴弾砲のメーカーであるBAEシステムズがウクライナ事務所を開設することが明らかになっています。
ウクライナ復興会議は6月22日に閉幕しましたが、会議は民間企業の参画の重要性も指摘しており、日本を含む42か国の計500近くの企業が復興や再建を支援するとの意向を示したとされます。しかし、実際の民間企業の動きはすでに活発化しています。「復興」といえばポジティブなイメージですが、多くの政治経済的思惑が絡んだきれいごとではないことも見せつけられます。