潜水艇はどこまで水圧に耐える? タイタニック号探検の「タイタン」圧壊 日本艇の驚くべき“安全マージン”
タイタニック号探索ツアーで消息を絶った潜水艇「タイタン」の破片が発見され、乗っていた5人が死亡したと報道されました。日本の潜水艇にこうした事態は起きうるのでしょうか。
かなり厳格な日本製潜水艇の安全基準
北大西洋で1912年に沈没したタイタニック号の探索ツアーに向かった潜水艇「タイタン」が2023年6月18日に行方不明となった事故で23日、その破片が見つかり、同艇が水圧などにより圧壊した可能性が報じられました。乗っていた5人の生存は絶望的と見られています。
海洋研究開発機構の所有する「しんかい6500」(画像:国立研究開発法人海洋研究開発機構)。
同艇はタイタニック号が眠る、水深約4000mまで潜るように設計されていたそうですが、構造に不備があり1300mまでの圧力にしか耐えられないと指摘した従業員が解雇されたとの報道もあります。こうした事態は日本でも起きうるのでしょうか。
本来、有人の潜水艇は人の命を預かるため、安全性に配慮した構造が求められます。日本で調査用の潜水艇を作る場合は、設計深度の1.5倍にさらに300m足した深度まで耐える構造にしなければなりません。
たとえば、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が所有する「しんかい6500」の場合、最大潜航深度を6500mに想定していますが、不測の事態を想定し、実は1万50mまでの水圧に耐えられる構造にしてあるのです。同艇は1990年代から2023年現在まで、マリアナ海溝や中央インド洋海嶺、南海トラフ、沖縄トラフなど、国内外の深海を1500回以上も調査しています。
「タイタン」がカーボンファイバーとチタンの複合材を使った円筒形の構造であるのに対し、「しんかい6500」の乗員が入るコックピットはチタン合金製で、水圧にも強いといわれている球体構造になっているなどの違いがあります。
なお、アメリカでも調査用の潜水艇は設計深度の1.25倍の深さに耐えられなといけないようになっているそうです。中国では、条件次第では設計深度の1.1倍程度の強度でも認められるようですが、安全マージンを取ってあることは変わりません。
しかし、「タイタン」に関しては、国際海域で運用する実験潜水艇という扱いで、厳しい安全基準を設けていなかったという報道もあります。タイタニック号の調査のため潜水艇で何度も潜ったこともある映画監督のジェームス・キャメロン氏も、「タイタン」に関しては懐疑的だったようで、「ひどいアイデアだと思った。深海のエンジニアでもない乗客を乗せるのに実験用の乗りものを使うべきではない」とロイター通信のインタビューで明かしています。
海外の報道などを鑑みると、種類としては日本の「しんかい6500」も今回の「タイタン」も同じ有人潜水艇とは言えますが、構造や安全性などを考えると、全く別物とみた方が適切でしょう。