アメリカ空軍が、現役続行を決めたパイロットに年間最大5万ドルのボーナスを受取れる制度を発表。大盤振る舞いの背景には、切実な理由がありました。

中国へのパイロット流出も警戒して?

 アメリカ空軍が、現役続行を決めたパイロットに年間最大5万ドル(約700万円)のボーナスを得られる制度を実施と2023年6月5日に発表しました。


アメリカ空軍で現状最高の戦闘機であるF-22「ラプター」(画像:アメリカ空軍)。

 たとえば2023年6月6日から2023年9月15日までの間で、現役を継続する契約をしたパイロットは、最新のボーナスプログラムが適用されることになり、毎年1万5000〜5万ドルのボーナスを受け取ることができます。仕事内容や在籍期間によっては、10万ドル(約1400万円)や20万ドル(約2800万円)のボーナスを一括で受け取ることも可能とのことです。

 対象は、2023年9月30日までに任期を満了する有人機および無人機のパイロット、さらに空戦管理者、戦闘システム担当者も含まれます。また2024年以降は10年契約の期間中、9年目までに再契約した場合、このプログラムの対象者になります。なお、2028年12月末日までこの制度は続くそうです。

 こうした保障制度が新たに設けられた背景として、現地メディアはパイロット不足を指摘。アメリカ空軍では何年も前から人員不足傾向で、2023年現在は、約2000人のパイロットが不足しているといわれています。人員の不足はそのまま空軍の脆弱化につながるため、ボーナスで現役パイロットたちの民間流出を防ぎ、稼働率を少しでも向上する狙いがあるようです。

 また、安全保障上での大きな理由もあるようです。ここ数年、アメリカや北大西洋条約機構(NATO)諸国の退役パイロットを中国政府が引き抜きしていることも明らかになっています。

2022年には海兵隊パイロットが、中国軍の空母パイロットに着艦訓練を行い、軍備管理法に違反したとしてオーストラリアで逮捕されたことがあます。2023年6月に入ってからはドイツの退役軍人が中国人パイロットの訓練を行っていることが明らかとなり、ドイツのボリス・ピストリウス国防相が直接、中国の李尚福国防相に抗議したこともあります。

 中国がNATO諸国からのパイロットをスカウトする際は、かなり高い給料を提示しているという話もあります。アメリカ空軍は人材不足だけではなく、特殊な技能を持った人材も流出にも気を配らなければいけない状況になっています。