日野・三菱ふそうの統合は安全保障にも影響? 日野が生産するトヨタ製の自衛隊トラック どうするか防衛省に聞いた
2023年5月末に突如発表された日野自動車と三菱ふそうの“統合”。自衛隊には納入元トヨタ、生産は日野という車両が多数ありますが、それらはどうなるのか防衛省に聞きました。
表向きはトヨタ製、でも実際は日野が生産の自衛隊車両
2023年5月30日、日野自動車と三菱ふそうが2024年度を目途に、統合新会社を設立することを発表しました。この統合により、多くの日野自動車製トラックを調達している自衛隊、特に陸上自衛隊に影響が出るようなことはあるのでしょうか。
陸上自衛隊の高機動車。オーソドックスな幌付きの人員輸送仕様(武若雅哉撮影)。
たとえば、陸上自衛隊が調達し運用している「高機動車」はトヨタ自動車が納入元となっていますが、生産は日野自動車が行っています。同様に、高機動車とシャシーの共有化を図っている「1 1/2tトラック」や「1 1/2t救急車」も該当するでしょう。
これらは、陸上自衛隊にとってなくてはならない車種で、最低1車種は全国の駐屯地にほぼ確実に配備されています。
例に挙げた車両を解説すると、高機動車は全国の普通科連隊などを中心とした部隊に広く配備されている4輪駆動車です。最低地上高が高いため、車体下部に広いクリアランスを持っています。そのため、様々な地形を走破することが可能で、さらには運転席で操作するだけでタイヤの空気圧も変更できることから、大型トラックや装輪装甲車などでは進むことが難しい地形であっても走り抜けることができます。
なお、高機動車は自衛隊専用モデルですが、一時期、民生仕様として小改良が施された「メガクルーザー」がトヨタから販売されていました。同車は、すでに製造は終了しているものの、高機動車と同等の優れた悪路走破性とその希少性から中古車でも高値で取引されている模様です。
災害派遣などで目にするクルマも
1 1/2tトラックは「1t半」や「中型トラック」などと呼ばれ、全国の部隊に満遍なく配備されています。いわゆる「3 1/2tトラック(大型トラック)」と「1/2tトラック(小型トラック」と併せ「自衛隊3大汎用トラック」の構成車種で、大小様々なイベントや災害派遣で使用されていることから、我々の目に触れる機会も多い車両です。
高機動車譲りの悪路走破性を持ちつつも、キャブオーバー型のため高機動車よりも積載スペースが広く、荷台に多くの人員や物資を載せることができる一方で、3 1/2tトラックよりも車体そのものはコンパクトであるため運転しやすい特性を持っています。非常に使い勝手の良いトラックであるといえるでしょう。
通信器材を搭載する1 1/2tトラック(武若雅哉撮影)。
この1 1/2tトラックのコンポーネントを流用して野戦救急車に仕立てたのが、1 1/2t救急車です。同車は法律で定める緊急車両にも指定されている陸上自衛隊専用の車両で、車内には寝台が4床設置されているほか、医療キットも搭載されているため、病院までの移動中に最低限の応急処置が行えます。
これら車両は、日野自動車と三菱ふそうが統合されたら、どうなるのでしょうか。今後の納入だけでなく、今ある車両の部品調達など補給面についても大きくかかわる可能性があります。そこで筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)が気になったいくつかのポイントを、陸上幕僚監部広報室に聞いてみました。
数日経って返ってきた回答をまとめると、結論としては総じて「問題ない」とのことでした。
陸上自衛隊&トヨタの見解は?
まず、部品の供給面に関しては、「すでに契約しているものや、令和5年度契約予定のものについては影響ありません。また、2024年度末までに契約会社内の体制などを整理するということなので、現時点で今後のことについては不明です」との回答でした。
また、これを機に高機動車や1 1/2t トラック、1 1/2t救急車の後継車両を開発したり、もしくは新型に生産を切り替えたりするのかといった質問には「現時点ではありません」とことでした。
では納入元であるトヨタはどう考えているのでしょうか。トヨタ自動車広報部に質問を投げてみたところ、こちらは日野と三菱ふそうの経営統合については、まだ「統合に合意した」だけであり、それに関する具体的な変更や新体制などについては、今後詰めていく状況とのこと。ゆえに現時点では具体的なことは決まっていないというものでした。
ここからは筆者の主観ですが、確かに現状のままの車両でも陸上自衛隊の任務遂行に大きな影響を及ぼすものではないでしょう。しかし、さすがに調達開始から30年以上も経過しているため、そろそろ新モデルの取得に向けた動きが見えても良いのではないかとも考えます。
1 1/2t救急車。現場部隊などでは救急車の英称アンビュランスを略して「アンビ」などと呼ばれることも(武若雅哉撮影)。
一方で、実は一見すると気がつかないようなマイナーチェンジを繰り返しており、外観はほぼ一緒ながらエンジンや装備品などは初期モデルと一新していたりします。また、長年使っていることから、整備や補給体制、そして運用面に関しても成熟し、補給処やメーカーにノウハウと部品の双方で潤沢な蓄えがあるともいえます。
何でもかんでも新しければ良いというワケでもりません。使い慣れているからこそ、その装備が持つ性能を最大限発揮させることができるとも考えられます。ひょっとしたら、現状のままの装備で大きな不満はないのかもしれません。
いずれにせよ、2024年の新会社発足でどうなるのか、状況を注視していきたいと思います。