いわゆる「袴田事件」で注目を浴びている再審=裁判のやり直しについての問題です。2008年に発覚した旧天竜林業高校での調査書改ざん事件でも当事者たちが裁判のやり直しを求めていましたが、2023年、棄却されました。弁護側は裁判官と検察官によって審理の進み方が変わる「再審格差」を指摘します。

5月27日、浜松市で行われた「袴田事件」の支援集会に参加した北川好伸さん(75)。北川さんは自らの再審=裁判のやり直しを求めています。

天竜林業高校の校長を務めていた北川さんは、当時、孫を通わせていた元天竜市長から孫の入試の調査書を改ざんする見返りに、2度にわたって賄賂として現金20万円を受け取ったとして2008年、逮捕されました。北川さんは取り調べに対し、一貫して容疑を否認。当時の取り調べをこのように振り返ります。

<元天竜林業高校校長 北川好伸さん>

「まず言われたことは、ここは『人権などというものは認めないからな』と最初に言われて、『北川、お前はそこでただ見ていただけだったんだろう。そして、その祝儀袋を懐に入れたんだよな』というようなことを(検察官が)自分で作って自分で表現して『北川そうだろう』という風に認めさせようとするんですね」

北川さんは裁判でも否認し続けましたが、2010年、追徴金20万円などの有罪判決が確定しました。北川さんはその後も無実を訴え再審を請求しましたが、23年3月、最高裁は北川さんの訴えを退ける決定を下しました。

<元天竜市長 中谷良作さん>

「私は北川さんに10万円を渡していません」

北川さんに賄賂を渡したとして罰金70万円の略式命令を受けた元天竜市長の中谷良作さん。裁判では賄賂を渡したことを認める証言をしましたが、厳しい取り調べの末、うその自白をしてしまったと2011年、北川さんに謝罪しました。そして、自らも裁判のやり直しを求めましたが、5月8日、浜松簡裁は棄却の決定を下しました。

審理の中で弁護側は当日の中谷さんの足取りに関する証拠の開示を検察に求めましたが、それが法廷に出ることはありませんでした。

<中谷さんの担当弁護士 杉尾健太郎弁護士>

「検察は出さなかったです、証拠を一切。裁判所も最終的に証拠開示命令を出さないという判断をしましたので、当日の中谷の動きを示すものは何も出てこなかったです」

再審についての審理では検察の証拠開示に法的な義務はなく、弁護側が請求しても、それに応じるかどうかは検察側の裁量に委ねられています。裁判官が勧告すれば検察は開示をしなければいけなくなりますが、これもまた裁判官次第です。裁判官によって開示される証拠の量や質が左右されることは「再審格差」と呼ばれ、問題視されています。

<中谷さんの担当弁護士 杉尾健太郎弁護士>

「全部の証拠を出されて『やっぱり中谷にアリバイはなかった』と言われるなら納得できる部分もあるんですけど、こちらが見たいと言っている証拠を隠されたまま、この結論ではやっぱり納得ができないんですね」

最高裁に請求を棄却された北川さんは、2度目の再審請求をする方針です。

<元天竜林業高校校長 北川好伸さん>

「『なんだ北川、偉そうなこと言ってきたけれども、結局10万円欲しかったんじゃないのか、20万円もらったんじゃないのか』という風に(世間から)今、見られてますのでね。でも教え子たちは私を信じて『そんなことしない北川だ』という風に、そういう子たちに『北川は無実だったんだぞ』と、あなたたちが信じてくれた通り…(涙)」

<井手春希キャスター>

中谷さんの審理では弁護側が求める証拠が開示されなかったということですが、一体どういう証拠の開示を求めていたんでしょうか。

<山口駿平記者>

2回目に賄賂を渡したとされている日、学校関係者の証言から賄賂の受け渡しは午前11時半ごろとされています。しかし取り調べメモの中では、10時半ごろに中谷さんは近くの銀行に入店し、本人は1時間は窓口にいたと証言しています。

さらに、メモには「12時26分中谷退店」という記述も残されていました。中谷さんの担当弁護をする杉尾弁護士はこの具体的な時間から防犯カメラなど中谷さんの退店時間を示す証拠があるのではと、証拠開示を検察に求めましたが、そのような記録が存在するかどうかさえ回答はなかったといいます。

<井手キャスター>

事件に関連する証拠が当事者側に示されないというのはアンフェアに感じてしまいます。

<山口駿平記者>

杉尾弁護士は「もちろん、証拠が開示されても中谷さんのアリバイが証明されないかもしれないが、証拠を見ることもできないのは納得がいかないと」と答えていました。北川さん、中谷さんは再審請求を続ける方針です。