G7サミット開催中の広島を、ウクライナのゼレンスキー大統領が突如、訪問しました。来日の情報が出たのは前日午後。現地入りしていたカメラマンが、大統領を写真に収めるまでの一部始終を振り返ります。

来日初日は広島空港で特別機を激写

 ウクライナのゼレンスキー大統領が2023年5月20日から21日にかけて来日し、広島市内で行われていた主要7か国首脳会議(G7広島サミット)に参加しました。広島市周辺で航空機や船の撮影をしていた筆者(深水千翔:海事ライター)は、ちょうど平和記念公園へ向かうゼレンスキー大統領の車列に遭遇。その姿を捉えることに成功しました。


特別車の窓越しに捉えたゼレンスキー大統領。市民に向けて手を振っていた(深水千翔撮影)。

 ゼレンスキー大統領の来日とG7サミットへの参加が報じられたのは19日のこと。一時はアメリカ軍機で移動する可能性も指摘されましたが、最終的にアラブ連盟の首脳会議へ出席するため使用していたフランス政府専用機のエアバスA330-200(機体記号:F-UJCT)で広島空港へ飛来することが明らかになります。

 アメリカ大統領専用機VC-25A「エアフォースワン」を始め、めったに見られない特殊車両などを撮ろうと広島入りしていた筆者は、ゼレンスキー大統領の来日を聞いて、まず広島空港で大統領を運んできた特別機を撮ることを決めました。

 しかし、20日午後の広島空港は「超」が付くほどの厳戒態勢。前日までは立ち入れたエリアも警備を理由に封鎖されており、撮影スポットを探して右往左往。ここなら機体側面を全て写せるだろうという場所をなんとか見つけ、そこで待ち構えることにしました。こうして15時過ぎ、広島空港に飛来したゼレンスキー大統領の搭乗機は無事に撮れたものの、広島市内に向かう警護の車両や本人の姿は、写真に収めることなく終わりました。

ビビッと来て急きょ撮影態勢へ

 G7サミットの最終日となる21日。筆者は警備のため広島湾内に展開している船舶を撮ろうと、高速船とフェリーを使って広島港と江田島、呉の間を往復していました。

「エアフォースワン」は撮影済み。各国首脳を乗せた特別車も、アメリカ大統領専用車の「ビースト」も含めてほぼ撮ったので、残るは海上保安庁の巡視船「しきしま」ぐらい。加えて江田島には、G7の首脳を乗せて宇品島と宮島を往復した観光型高速クルーザー「SEA SPICA(シースピカ)」が接岸中。近くで撮るチャンスを逃してはならないと考え、さっそく乗船券を買って船に乗り込みました。


5月20日15時半過ぎ、広島空港に降り立ったゼレンスキー大統領搭乗のフランス空軍エアバスA330-200型機(深水千翔撮影)。

 大小さまざまな船の撮影を堪能し、広島港電停から広島電鉄で広島駅に戻ろうとすると、何やら交通規制がかかっている様子。しかも長時間にわたって電車が動けない可能性があるとか。ここで筆者はピンときました。「これは重要人物が来るに違いない」と判断、何度も通った元宇品口電停へ向かいます。

 現地に到着すると、これまで以上の人だかりができていました。スマホでTVを見るとグランドプリンスホテル広島の上空映像が流れているではありませんか。ゼレンスキー大統領が平和記念公園へ移動すると確信すると、撮影ポイントを探します。今回は車列ではなく、大統領を撮るため慎重に位置を決め、あえて人垣の少し後ろでカメラを構えることにしました。

 周囲を見ると、緊急車両を追っているマニアから地元住民まで大勢の人が、今か今かとゲートの方へ顔を向けています。待っている人の中には子供と一緒に見にきた家族連れや、買い物帰りにふらっと立ち寄った人までおり、注目の高さが伺えました。

国旗のない黒塗り特別車の登場

 17時、交通規制が始まり広島電鉄の線路に移動式の柵が設置されます。あらゆるカメラが宇品島の方向を向く中、白バイに先導された車列が近づいてきます。

 中央には国旗を掲げていないBMW。間違いなくゼレンスキー大統領が乗った「BMW 760Li High Security」です。構えたカメラのピントを後部座席に合わせ、一気にシャッターを切ります。その瞬間、沿道に詰めかけていた人々から歓声が上がりました。

 ゼレンスキー大統領がこちらに向けて手を振っていたのです。この瞬間、心の中でひとりガッツポーズをしたのは言うまでもありません。とはいえ、窓越しに見た彼の表情は硬く、戦時下の指導者という雰囲気が感じられました。


サミット直前の5月17日に撮影した広島平和記念公園(深水千翔撮影)。

 ロシアによる侵攻を受けているウクライナの大統領が、広島という日本の地方都市でG7サミットに参加し、原爆死没者慰霊碑へ献花し、合わせて平和記念資料館を見学したことなどは、まさに「歴史的な瞬間」だったに違いありません。

 筆者自身、ゼレンスキー大統領の顔を至近距離で見たことで、いままで遠い異国の地で起きているといった感の強かったウクライナでの戦いが、グッと身近に感じられました。加えて日本とウクライナという2つの国の友好を感じたこの時を、忘れることはないでしょう。

 改めて、ウクライナでの戦闘が一日でも早く終わるようにと祈った、今回のゼレンスキー大統領来日でした。