休眠アカウントの強制削除について考えてみた!

5月上旬、Twitterは休眠アカウントの削除を開始すると発表し、SNS界隈が少々ざわつく事態がありました。休眠アカウントとは長期間ログインの実績がないものを指すようですが、具体的な例が示されておらず、公式には「少なくとも6か月ごとにログインするように」としか書かれていません。

Twitterが休眠アカウントの削除をほのめかしたのは今回が初めてではありません。2019年11月にも「6ヶ月以上使用されていない非アクティブアカウントを段階的に削除する」と発表して物議を呼び、その後発表を撤回したという経緯があります。

しかし今回はすでに米国などで削除が始まっているとの話もあり、撤回の予定はないようです。削除されたアカウントについては「アーカイブ化される」(イーロン・マスク氏)とのことですが、アーカイブ化されたアカウント情報やツイート内容を外部から閲覧することはできないと思われます。

また、時を同じくしてGoogleも16日(米国時間)に放置アカウントを削除する方針を発表しました。なぜ大手オンラインサービス企業はアカウントの強制削除に踏み切るようになったのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は休眠アカウント削除のメリットとデメリットについて考察します。


休眠アカウントの削除はなぜ必要なのか


■アカウントを削除したい企業の論理とリスク
アカウントを作成したものの、そのまま長期間利用せずに放置してしまっているオンラインサービスを持っている人は少なくないでしょう。かく言う筆者もオンラインショップを筆頭に、何十ものオンラインサービスがそのような状況にあります。

そうした「休眠状態」とも言えるオンラインサービスのアカウントが、企業側の都合により強制削除されてしまうとしたらどうでしょうか。感覚的には「どうしてそんなことを勝手にするんだ」と憤りたくなる人もいるかも知れませんが、実はアカウントを放置しておくことにはいくつものデメリットがあるのです。

【1】セキュリティ問題
最も重要で憂慮しなければいけないのがセキュリティの問題です。

オンラインサービスとアカウントIDおよびパスワードの取り扱い方については常々耳が痛くなるほど注意喚起されていることですが、多くの人は自分のこととして把握せず、未だにパスワードを使い回し、正しいパスワード管理を行っていません。

さらに昨今はパスワードクラッキング技術の向上に加えてパスワード流出(事故・ハッキング含む)も増加し、二要素・二段階認証による本人確認が必須となりつつあります。


筆者はパスワード管理アプリの利用を強く推奨しているが、知人・友人でさえなかなか導入してくれない


そのような中で休眠状態のアカウントが狙われた場合、状況は非常に深刻になります。

実質的に管理者不在状態となっているためにクラッキングされたことに誰も気が付かず、犯罪行為の温床となります。またアカウントが犯罪に利用された場合、アカウント所有者に犯罪の嫌疑が掛けられかねません。

また、昨今ではGoogleやFacebookのような大手オンラインサービスのアカウント情報からほかのサービスへサインインする連携・連動機能も広く活用されているため、不正行為による損害の影響が想像以上に広がる可能性があります。

前述のようにパスワードの使い回しなどをしていれば他のオンラインサービスも同様にクラッキングされる可能性すらあり、管理が行き届かないアカウントを1つ放置していただけでもリスクが跳ね上がります。

そういった状況が想定だけではなく実際に起こり始めているからこそ、TwitterやGoogleは休眠アカウントの強制削除という少々強硬な手段に出ざるを得なくなったのです。


犯罪者は常に人々の放置アカウントを狙っている


【2】プライバシー問題
もう1つ重要な問題となっているのが企業によるプライバシーの保持です。

アカウントIDやパスワードのみならず、そこには個人のメールアドレスや電話番号、時には住所や交友関係の連絡先まで、さまざまな個人情報が登録されています。

企業はこういった情報を外部に漏らさぬよう日々努力していますが、外部からアクセスできる個人情報がそこにある限り、基本的には犯罪者と企業とのいたちごっこです。

企業としてはそういった個人のプライバシーに関する情報は極力外部からアクセスできるところに起きたくないわけであり、ましてやそれが管理者不在の休眠アカウントともなれば尚更です。

コンプライアンス的にも個人情報の長期保有・保管はできる限り避けたいところであり、リスク回避の観点からも休眠アカウントの強制削除は企業的に妥当な判断と言えます。


企業にとってユーザーの個人情報は宝の山である一方、万が一流出すれば信用失墜にも繋がる諸刃の剣だ


【3】維持・管理コスト問題
そして最後に重要なのが維持・管理コストの問題です。

これは100%企業側の論理ですが、上記のように個人のアカウント情報は非常に有益且つ貴重なものである一方、盗まれたり悪用されれば企業の信用を完全に失うほどのリスクも内包しています。

だからこそ企業はアカウントの管理に莫大なコストをかけ、常に万全のセキュリティを維持しようと努力しているのですが、そのコストを掛けているアカウントの多くが休眠アカウントであったとしたらどうでしょうか。

例えばTwitterの場合、イーロン・マスク氏が2022年12月に「Twitterはまもなく15億アカウントのネームスペースを開放し始めます」と語っており、休眠アカウントやフォロワー数を増やすためだけに作られたと思われるアカウントの総数が15億近くあることを示唆しました。


休止状態にあるTwitterアカウントの強制削除は2022年末から検討されていた


Twitterの総アカウント数は公開されておらず、月間アクティブユーザー数では全世界で約3億3000万と推定されるのみですが、これらの数字を見ても、アカウントを作成しただけで実際には利用されていない(あるいは何らかの事情で長期間利用されていない)アカウントの数が圧倒的に多いことが理解できるかと思います。

そういった「運用実体のないアカウント」にストレージコストや管理コストを掛け続けるのは大きな負担です。営利企業としてはなんとしても圧縮したいコストでもあり、その他のリスクも考慮すればアカウント削除という少々強行的な手段に出たとしても致し方がないように思えます。


オンラインサービスにおけるアクティブユーザー数は、総アカウント数のほんの一部に過ぎない


■「半永久的」ではないオンラインサービス
一方で、ユーザーとしては当然ながらアカウントの強制削除にはデメリットもあります。

1つは情報のアーカイブ化がしづらくなることです。例えば故人のTwitterアカウントがあったとして、ログイン情報が分からず家族や親族が管理することはできないものの、そこにある故人の情報は半永久的に閲覧できるとして安心していた人もいたようですが、今後はそういったアカウントは真っ先に削除対象とされ、次々に消えていくことになります。

これがTwitterのアカウントのみであれば影響は軽微かもしれませんが、ブログやウェブサイト作成サービスなどで同様の措置が取られた場合、貴重な情報が丸ごと消えるといった事態に発展しかねません。

当然ながら現状ではそのようなリスクには直面していませんが、過去にはジオシティーズやニフティといったウェブサイトサービス自体が終了し、貴重な情報がサービスとともに大量に消えるという問題が何度も起きています。

今後、休眠アカウントの強制削除の流れがこういったウェブサイトサービスやブログサービスなどに波及しないとも限りません。大切な情報やアーカイブして残しておきたい情報がある場合は、定期的にログインを行い正しく管理する習慣をつけておいたほうが良いかもしれません。


アカウントを自身で管理する、ということの大切さを理解しよう


例えば単なるショッピングサイトであれば、利用していない期間が永くなりアカウントを強制削除されたとしても、再び利用する際に作り直せば良いだけかもしれません。

しかしながら、GoogleやTwitter、Instagram、Facebookのような「情報を記録・保管しておく場所」としてのオンラインサービスのアカウントの場合、アカウントの削除は大きな損失へと繋がります。

前述したようにGoogleアカウントやFacebookアカウントなどは他のオンラインサービスのログイン連携サービスとして利用されていることから、万が一アカウントが削除されてしまった場合に他のオンラインサービスへログインできなくなる可能性もあります。

「使わないアカウントがあるけど放置でいいや」と安易に考えず、自分から「このアカウントは要らない。このアカウントは残す」といったように整理を行い、自発的に管理を行っていく必要があります。

さまざまなオンラインサービスの登場によって非常に便利な時代になりましたが、今度はアカウントの管理という若干の手間が増えたのです。

大切な情報にアクセスできなくなったり、保管していたはずのデータが消えてしまうことのないよう、管理の手間を面倒臭いと嫌がらず、率先して行えるように日々心がけておきたいものです。


オンラインサービスは半永久的ではない。維持するための努力が必要であることを忘れないようにしたい


記事執筆:秋吉 健


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