国別対抗戦の公式練習で調整する村元哉中と高橋大輔

●「不安要素はない」「いい意味で力が抜けている」

 4月12日、東京体育館。フィギュアスケートの世界国別対抗戦の開幕を前日に控えて、名前の頭をとって"かなだい"と呼ばれるふたりは、肩の力が抜けてリラックスした様子だった。

 第1グループの選手たちはすでに全員がリンクを下りていたが、空っぽになった氷の舞台に飛び出す順番を、リンクサイドで待っていた。

 村元哉中(30歳、関西大学KFSC)は柔らかい表情で場内をゆっくり見渡し、隣に立つ高橋大輔(37歳、関西大学KFSC)は会場に流れるポップスに乗って体を縦に揺らした。

「(今回は)不安要素がないほどで。世界選手権まで練習してきた"貯金"があるので、それにのって楽しみたいなって」

 村元は明朗な声で言った。

「いい意味で力が抜けていて。フリーダムというか、心のままに滑っています。それが体にも反映して、気持ちよく練習できていますね」

 高橋もストレスがない様子だった。

 曲かけ練習はリズムダンス(RD)で、『コンガ』の明るい音楽にふたりは体を弾ませた。動きは軽快で、呼吸も合った。高橋が村元の手をとってくるりと回すと、一本に束ねた髪が揺れた。

 今季、全日本選手権で初めて優勝し、2年連続出場となった世界選手権でもトップテンに迫ったカップルは、シーズン最後となる大会で何を見せるのか?

●「すべてここにつながっていた、と言えればいいな」

 3月、埼玉で行なわれた世界選手権、かなだいは11位という好成績を収めている。結成3シーズン目のカップルとしては快挙だった。

 アイスダンス史上日本勢最高タイの順位だ。とりわけ、10位に入ったフリーダンス(FD)『オペラ座の怪人』は、大勢のファンの記憶に焼きついた。

「(曲の)世界観に入り込むことができて、エネルギーを切らさず、久々の感覚でした。プレッシャーもありましたが、納得の演技で、『やっとできた!』って。3シーズン、ここまで納得した演技は初めてでした。それを世界選手権で出せたのがうれしい」

 世界選手権後、高橋は喜びに満ちていた。そして大会後、かなだいは充実した2週間を過ごしたようだった。

「世界選手権終わって2週間、自信を持って、楽しく練習できてきていますね。(国別対抗戦の)会場に入ってからも、身体が動いていました」

 村元はそう言って、手ごたえを感じていた。

 取材エリアでは、かなだいの過去と現在を運命の糸のように結びつけようとする質問が多かった。

 東京体育館での2007年世界選手権で、高橋が『オペラ座の怪人』を滑って初めてメダルを獲ったが、そのプログラムに感動したのが少女時代の村元だった。

 その巡り合わせに何か意味があるのではないかーー。

「まさか16年ぶりに、とは思っています。全然、狙っていたわけではなかったのですが(笑)。終わったあとに、すべてここにつながっていた、と言えればいいな、と思っています」

 高橋は大会に向け、淡々と意気込みを語った。"運命"だとすれば、それは終わったあとに感じるものだ。

●縁がつながる国別対抗戦へ

 世界選手権後、かなだいは日本国内にとどまってトレーニングを続けてきた。マリナ・ズエワコーチがアメリカに帰国したため、与えられたプランをこなしてきたという。

 ふたりきりだっただけに、メンタル面での難しさはあったようだが、「どう過ごすのか」という問いにふたりで向き合って、着実に練習を積み上げてきた。

 一方でズエワコーチの推薦もあって、高橋がシングル時代を二人三脚で戦った長光歌子コーチが、リンクサイドに立つことになった。師弟が再び組むのも、ひとつの運命か。

 高橋は20年近く、フィギュアスケートの最前線で戦ってきただけに、こうした縁の中心にいる。何かに導かれるようなスケート人生だ。

「断られるかな、と思ったんですが、お願いしたら『喜んで』って言ってもらえたんで。一緒に試合の場に立てるのはうれしいです!」

 高橋の言葉だ。

 国別対抗戦は順位がポイントになるが、焦っても空回りするだけだろう。まずは、自己ベストへの挑戦が基本になる。

「世界選手権、リズムダンスは100%ではなかった」とふたりは口をそろえるだけに、リズム、フリーのふたつをそろえるのが目標だ。

 4月13日夕方、ふたりはまずRDでラテンダンスを踊る。ライバルは、アメリカ、カナダ、イタリア、フランス、韓国。日本チームの先陣を切る格好だ。

「ふたりとも顔が濃いので、ラテンダンスとかは合うかも。面白いかもしれませんね」

 2019年9月にカップル結成を発表した時、村元はそう語っていた。3シーズン目の結実に、ラテンダンスでも最高の演技をーー。それも、ふたりにとっては運命になるだろう。