文筆家・大平一枝さんが見つけた、音楽と季節の花に包まれたレトロな生花店
文筆家の大平一枝さんが、グリーンフィンガーとの出会いを求めて、植物専門店・音空花店を訪ねました。場所は東京都・世田谷の住宅地。木造長屋の風情が残る元薬局だった店舗を、ほぼセルフリノベしたそう。店内には、店主・川瀬涼子さんの大好きな音楽が流れ「ときめく花」であふれていました。
古くからある木造長屋の味わいを生かした生花店
正確な築年数はわからないが、「1961年に祖母がここで薬局を営んでいました」と、来客から教えられた。古い建具をあしらい、仲間と床のビニールクロスをはがしてニスを塗り込んだ。壁には陰影のある炭色のペンキを。木造長屋のあじわいを生かした、ほぼセルフリノベだ。
店主・川瀬涼子さんは2018年、経堂の住宅地に音空花店を開いた。それまでは映像美術制作会社に勤務。セットをつくる大道具や大工のプロにリノベを手伝ってもらった。
花は、CMやミュージックビデオの現場でスタイリングによく使っていた。川瀬さんは述懐する。「会社のお金で好きな花を買えて楽しかったけれど、広告の仕事は季節を感じさせない花をというオーダーがいちばん多く、旬の美しさを扱えないジレンマもありました」。
中央の黄色い花はエキナセア。「市場では、どんなに自分が好きでも、活きがよくないと仕入れません」。
インテリアショップのハウス オブ フェール トラヴァイユにオーダーしたカウンター。「アイアンと和家具を組み合わせてもらいました。リノベでいちばん高い買い物だったかも」。
花器が並ぶガラスケースはダルトンのもの。
音楽と花。大好きなものを詰め込んだ彼女の夢のあとさき
幼い頃から本当は花屋をやりたかった。しかし「美大に行かせてもらったので、その道に進まないと、親に悪いなと」。
50歳からでは遅い。思い切って45歳で開店した。店内はロックやJ-POP、ときにアニソンも流れる。音楽と花。大好きなものを詰め込んだのだ。
仕入れの際は「自分のときめき」を大切にしている。小1の母の日にカーネーションをあげた。「花をもらうと人ってこんなにうれしいものなのか」と驚くほど喜ばれた。幼い日の原点を今も大事にする彼女は、はつらつとして終始朗らか。そんな人が扱う季節の花が元気でないわけがない。
階段下をディスプレイエリアに。月ごとに音楽テーマを変えてレコードを飾る。
お気に入りのレコードジャケットを額装。客との会話のきっかけにも。
店主の川瀬さんが好きな植物
「どの花が、というよりそのときどきの季節の花が好きです」と川瀬さん。この日はコスモス。チェリーピンクの縁取りから白いグラデーションが美しい。「コスモスらしくない色合いもいいなって」。