戦車をコスパ良く足止めし、撃破できる対戦車地雷。その威力の大きさとは裏腹に、信管がなければ、蹴とばしても、投げ落としても、ノコギリで切っても爆発しないそう。ただ、一度埋められると、その処理は各段に難しくなるともいいます。

対戦車地雷の構造とは

 戦闘が長期化し、泥沼化しつつあるロシアとウクライナの戦い。戦車が足りないウクライナ軍は大量に押し寄せるロシア軍戦車に手を焼いているようです。そのため、ウクライナ軍はロシア軍の侵攻速度を遅らせるため、国内各所に多くの地雷を埋設している模様です。

 裏返すと、この埋設された地雷の処理は近い将来問題になるでしょうが、一口に地雷といっても用途に応じて対人用と対戦車用の2種類が存在します。両者のうち、戦車を始めとした装甲戦闘車両を足止めするために使われるのが、後者、すなわち対戦車地雷です。


ウクライナ国内で炎上するロシア軍戦車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 そもそも、対戦車地雷とは、分厚い装甲を持つ戦車や装甲車を破壊するほどの威力を持った兵器です。いくら強固な装甲を持った戦車といえども、基本的に車体下部は装甲が薄く、なおかつ走行するため必須となる履帯(キャタピラ)全体を装甲で覆ってしまうことなど無理です。そのため、ある意味では戦車の弱点は足回りともいえるでしょう。

 対戦車地雷を形容するなら「戦車の弱点を鋭く突く」兵器といえますが、中に詰められている爆薬は、強烈な爆発力を発揮する反面、作動するまでは非常に鈍感なものでもあります。

 ゆえに、信管が取り付けられていない対戦車地雷の本体は、たとえ蹴とばしても、投げ落としても、ノコギリで切っても、さらには小銃弾を撃ち込んだとしても爆発することはありません。

 一方、対戦車地雷に取り付ける信管には非常に敏感な火薬が充填されています。つまり、対戦車地雷とは、鈍感で威力がある爆薬に、敏感で威力が小さい信管を組み合わせることで、起爆するような仕組みになっているといえます。

踏むだけじゃない、地雷の起爆方法

 また、信管も起爆方法の違いによって様々な種類が存在します。代表的なものだと、踏んだ瞬間に爆発する「圧力式」、踏んだ圧力がなくなると爆発する「圧力開放式」、戦車などの重量物が走る時に発する振動を感知して爆発する「振動式」などでしょう。このほかにも、「磁気感応式」や「音波感応式」など実に様々な起爆方法があります。

 さらには、複数回踏まれてから爆発するモノや、地雷を除去するため地雷本体を動かした瞬間に爆発するモノ、さらには内蔵された電池を抜き取ろうとすると爆発するモノなどもあります。そのため、設置するのは簡単にできる一方、未使用の地雷を処理するのは非常に厄介であるとされています。


雪面に置かれた対戦車地雷。これだけでも戦車の行動を阻害することができるため、非常に効果的(武若雅哉撮影)。

 このように多くの起爆方法がある対戦車地雷は、仕掛ける場所と信管の選択をマッチさせれば、敵戦車を撃破するのに非常に効率が良い兵器ともいえるでしょう。また、費用に関しても一部の高価な対戦車地雷を除くと、1発あたり数万円から十数万円だとか。ミサイルなどと比べると極めて低コストで製造できるため、発展途上国などでも量産しやすい兵器です。

 見方を変えると、相手をビビらせつつ、もし1発でも踏んでくれれば確実にダメージを与えることができるため、戦車を倒すのに最もコストパフォーマンス(費用対効果)に優れた兵器であるともいえます。

 とはいえ、一度埋めた対戦車地雷は時間が経てば経つほど、その始末が大変になります。経年などによって何個の地雷をどこに埋めたのかわからなくなれば、今度は自国民に対して牙をむく“危険物” となり、戦後復興の大きな障壁になるのは間違いありません。

 そのため、各国では対戦車地雷の効果的な使用法とともに、効率的な処理方法もあわせて研究し訓練しています。なかでも、最も手っ取り早い処理方法は「起爆」してしまうことです。

 強烈な一撃をお見舞いする対戦車地雷ですが、一度でも起爆してしまえば、たとえブービートラップが仕掛けられていたとしても、その仕掛けごと吹っ飛んでしまいます。そのため、起爆してしまうのが最も効率的な処理方法だといえますが、当然この処理方法には多くの危険が伴います。

確実な地雷処理を目指すなら手作業がイチバン?

 そこで、現実的かつ確実な処理方法として挙げられるのが、訓練を受けた兵士が1個ずつ地雷を無効化していく手作業での処理です。信管を掘り出し、ブービートラップ(アクチベート)化されていないか確認し、万一されていたとすれば、そのブービートラップも解除します。訓練を受けてさえいれば安全に除去できるのですが、人力で行うため、非常に時間が掛かります。

 戦闘中の地雷処理であれば爆薬を用いて一気に誘爆させてしまうことも可能ですが、戦後であれば確実性も必要になるため、そうもいかない状況もあるでしょう。


軽易な処理には携帯障害処理器材なども使われる(武若雅哉撮影)。

 また対戦車地雷の信管は、中心部分は120kgから250kg程度の圧力が掛からないと起爆しないのですが、信管の縁部分を踏んでしまうとテコの原理で信管中央に圧力が掛かるため、人間が踏んだ時に起爆してしまう恐れがあります。

 では、いったいどうすれば対戦車地雷を安全に処理することができるのでしょうか。

 たとえば陸上自衛隊の場合には、対戦車地雷を埋める場所を予め計画し、実際にどこに埋めたのかを地図上に記録・保管していきます。また、地雷と地雷の間隔も計算しているため、周囲数mの区画に何個の対戦車地雷が埋まっているのかも知ることができます。

 つまり、陸上自衛隊ではたとえ大量の対戦車地雷を埋めたとしても、その全てを記録し保管します。これにより、戦後の安全化処理も非常にスムーズに進められるようになります。

 そもそも、対戦車地雷であっても埋設場所さえ特定できれば処理は比較的容易です。一番の問題は、無計画に対戦車地雷を埋め、その場所を記録しないことなのです。

 設置時の混乱や場所を記した書類の紛失など、様々な理由があるでしょうが、その結果として世界にはいまだに多くの地雷が埋まったまま放置されています。今回のロシアによるウクライナ侵攻でも、によってどれだけの対戦車地雷が埋められたのかはわかりませんが、一日も早い終戦と、確実な地雷除去が行われることを願うばかりです。