飛行機の不時着時やトラブルが発生したとき、乗客の脱出に用いられる「緊急脱出スライド」。JALグループのLCC、スプリング・ジャパン協力のもと、実際の訓練スライドを体験しました。この滑り方、一般的なすべり台とは異なるポイントが多く存在します。

博物館にある「ホンモノの訓練施設」

 飛行機の不時着時やトラブル発生時、地上に降りた機体は乗降口のドアのほか、普段は閉じられている「非常口ドア」が開き、乗客はそこから「緊急脱出スライド(滑り台)」を用いて機外へ脱出します。今回、実際にCA(客室乗務員)の訓練で使用されている「緊急脱出スライド」を滑ることができました。


スプリング・ジャパンの旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 成田空港の至近にある航空科学博物館には、JAL(日本航空)グループで中国への国際線などをおもに担当するLCC(格安航空会社)、スプリング・ジャパンの訓練施設があります。ここにある同社機の「原寸大模型(モックアップ)」は一般人の見学も可能となっていますが、日によっては正真正銘の「訓練施設」として用いられ、ここでCAをはじめとする乗員たちは、安全運航のための技能を習得しています。

 スプリング・ジャパンが使用している旅客機はボーイングのベストセラー機「737-800」。189席を配し、8か所の非常口ドア(乗降口として使用しているものを含む)を備えます。「緊急脱出スライド」の訓練設備は、大型の可動式階段に脱出スライドがついたものですが、その高さなどは実機と同様。滑り始める最上部には、ドアの大きさとほぼ同等の枠がついており、実際の緊急脱出シーンを再現するような設計が施されてます。

 同社協力のもと、実際にスライドを滑ってみました。

実際に滑ったら、高いし速いし「怖い」!

 滑り出す地点から陸地を見るとおもったより高く、しかもスライドが急で、少なくとも一般的な滑り台とはまったく違う感覚です。正直、少し怖く感じます。おそらく、スライドの両サイドの壁が低く、コースアウトすると地面に落ちそうなイメージを受けるためでしょう。

 実際に訓練を経験した同社のCAも「初めて滑ったときは怖かったです」と話すほどです。そして、実際に滑ると「予想より速い」というのが第一印象で、人によっては滑っている途中からスピードがさらに上がるケースも見られました。

 しかし、本当のトラブル時には、全旅客がこのスライドを躊躇なく滑ることが求められます。どのように滑ったらいいのでしょうか。


スプリング・ジャパンの訓練施設がある航空科学博物館(乗りものニュース編集部撮影)。

 緊急脱出スライドを滑るときは足を肩幅程度に広げ、両手は胸の前でパンチをするように真っすぐ伸ばし、上体を90度近くまで、しっかり起こした状態で滑ります。手をスライドに付けないのは摩擦で手を痛めるのを防ぐため。そして上体を起こすのは、寝そべった上体に近い姿勢で滑ってしまうとスピードが出すぎて、怪我につながるためだとか。目線は滑り終わる地点へと向けます。

「正しい姿勢でスムーズに脱出」のためのコツとは

 意外とこの「上体を起こした」まま滑り続けるには、しっかりと腹筋に力を入れる必要がありました。というのも、スライドは空気で膨らませた浮き輪のような素材でできているので、途中で思ったより弾んだり、スピードが出たりします。脱力した状態だと、こういったケースだと姿勢が崩れてしまうのです。


航空科学博物館のスプリング・ジャパンの訓練施設(乗りものニュース編集部撮影)。

 滑り始めと滑り終わりもコツがあります。滑り出しは、立った状態から片足を踏み出すように軽くジャンプし、お尻からスライドに着地します。そこで地上で待つ援助者に体を起こしてもらい、その勢いでそのまま駆け抜けるようにスライドから離れます。

 このほかのポイントとして、同社の訓練教官は「スライドを傷つけてしまうことから手荷物を持たないこと」などを、注意点として話してくれました。

 多くの旅客が恐らく「一生使うことがない設備」である旅客機の脱出スライド。この滑り方は、通常の「公園のすべり台」とは、だいぶ違うポイントが多く存在します。実際、これを使う際に旅客が怪我をしてしまうケースもあるそうです。たしかにトラブルでパニックの際に、初見でうまく滑れるか?といわれると「ちょっと難しいかも……」と思う人も多そうです。

 一方CAはこれに対する訓練を十分に積んでおり、これはスプリング・ジャパンも同様です。来てほしくないときが来てしまった場合、乗客は「しっかりとCAの指示を聞き、それを忠実に行動へ移す」というのを念頭に置く必要があるでしょう。