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1993年に「誰よりもずっと…」でデビューしたアニソンシンガー・奥井雅美が30周年ベストアルバム『Mas“ami Okui”terpiece』を発売。本作には彼女が30年の間に発表してきた楽曲の中から選りすぐりの48曲を収録。そのうち「Get along」「ONENESS」はセルフカバーを行った。本作の発売を記念して、彼女にインタビューを実施。3月12日(日)開催のライブ“奥井雅美 30th Anniversary Live 2023 EVE 〜一夜限りのBirth Live〜”を控え「歌詞を覚えるのに精一杯」と語る彼女に、これまでとこれからを語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY はるのおと

自身の活動のターニングポイントになった楽曲とは?



――月並みな質問ですが、まず30周年を迎えての気持ちをお聞かせください。

奥井雅美 もちろん「嬉しい」とか「ありがとうございます」という気持ちが前提にありますが、すごく不思議な感じがしますね。どうして30周年を迎えられたのかわからない(笑)。最初はコーラスの仕事をやっているときに買い取り契約(ショット)でアニソンを歌わないかという話がきて、「アニメの歌をちょっと歌って、自分の名前でCD出せちゃうんだ」くらいの気持ちで歌い始めたので、30年も続けるとはまったく思っていなかったし。でもどこかのタイミング……1stアルバムを出すあたりで応援してくださる方がいることがわかったくらいかな。そこでアニソンを歌うことや作ること、裏方仕事なんかも含めて私の生活の一部、人生の一部になった感じがします。

――その心境は、例えば10周年を迎えたときとはまた違いますか?

奥井 10周年のとき・・・。その少し前に「(プロデューサーの)矢吹(俊郎)さんと離れ、ちょっとアニソンを歌いたくないな」みたいな感じになってたんですよね。そこでキングレコードの大月(俊倫)さんから「あなたはアニソンを歌わなきゃダメだよ」と言われ、ちっひー(米倉千尋)と期間限定でror/sを組んだりJAM Projectに入ったりして、アニソンカバーアルバムの『マサミコブシ』を出して、またアニソンの世界にググッと戻ってきたころで。そのときは自分も若かったので「まだ10年か」なんて思っていたけど、それからは早かった。特にJAMが活発に動いて並行してソロをやっていたときなんかはすごく忙しくてあっという間に過ぎたので。30年は長かったけど、早かったという感覚です。

――ここからはベストアルバムの話を伺います。大きく分類して3枚のCDに3つの時代の楽曲を収録していますが、こうした形にした理由は?

奥井 1枚目がキングレコード(スターチャイルド)の時代、2枚目が自分の自主レーベルのevolutionの時代、最後がランティスの時代で。細かく言うと1曲だけ歌わせてもらったワーナーさんだったり別レーベルの曲も入っているんですけど。こういうふうに分けたほうが流れがわかりやすく、30周年でオリジナルアルバムを1枚出すよりこうしてベストアルバムを出したほうが記念になるし、久々に私の曲を聴いてくれる方も多いんじゃないかなと思ってこういう形にしました。3枚組だと豪華な感じもしますし。

――奥井さんのベストアルバムは15周年で出された『大奥』以来ですね。

奥井 あれはevolutionのときだからスタチャ時代の「REINCARNATION」や「輪舞-revolution」はアレンジを変えていました。でも、今回アレンジはそのままです。ただ全曲リマスタリングはしていて、できるだけ全体を通して違和感なく聴けるようにしています。



――ちなみに奥井さんってこれまで何曲歌われたんでしょうか?

奥井 全然わからないです。把握できない(笑)

――それだけ膨大な数の曲からどうやって選曲されたのでしょうか?

奥井 まずスタッフさんが代表曲やライブでみんなが喜んでくれる曲、ランティス期だとCDになっていない曲なんかを選んでくれて、そこから私が好きな曲や思い入れが強い曲を少し入れ替えさせてもらいました。私はゲームの「マブラヴ」シリーズ、特に冥夜というヒロインが好きだから彼女をイメージした「紫音-sion-」を入れたり。あと「SYMBOLIC BRIDE〜Rebellion of Valkyrie〜」はアルバム表題曲ですけど、亡くなったドラマーのmasshoi(山内 優)君に叩いてもらったんですね。彼のプレイが大好きだし、みんなでレコーディングしたりPV撮ったりして思い入れも強いので「どうしても入れたいです」とお願いしました。

――そうした思い入れがある曲が並ぶなかで、難しいかもしれませんが収録曲から自分の活動のターニングポイントになったと感じる曲を5つ挙げください。

奥井 まずは1枚目から2曲目の「REINCARNATION」。これは初めて自分たちのチームでアレンジをやらせてもらったんです。そこで私もプロデューサーの矢吹さんも歌謡ロックが好きだから、とそんな楽曲にしたら、林原めぐみさんがラジオで「この曲はかっこいい」と言ってくれたんですよ。めぐちゃんは当時からすごい人気だったので、ファンの多くが「林原さんが言うんだったら」と聴いてくれるようになって。大きなターニングポイントでした。次は「TURNING POINT」。これはMr.Bigのベーシストのビリー・シーンと、TOTOのギタリストのスティーヴ・ルカサーに参加してもらって、MVも一緒に撮りました。それで洋楽ファンから「アニソンとか歌ってる人に参加してるの?」みたいな反応もありましたけど、私自身は「世界のミュージシャンってすごいな」と感じられた良い機会でした。そういえば当時来日したビリー・シーンにInterFMの英語の番組に連れて行かれたんですよ。そこでいきなりセッションが始まって「歌え」と言われ、私は英語とか全然歌えないのでずっとフェイクしてたという恥ずかしい思い出があります(笑)。

――そうだったんですか!すごい思い出ですね。

奥井 2枚目からは「Olive」で、これはevolutionを作った際に行った記者会見で披露しました。オリーブの実ってそのままだと硬くて食べられないけど、熟したり煮たりして食べると美味しい。当時は「evolutionでアニソンのフェスをやりたいね」と、後の“Animelo Summer Live”に繋がる話も出ていた頃で、evolutionがオリーブみたいに美味しい未来になればいいなという想いでこの曲を作りました。あとは「宝箱−TREASURE BOX−」。自分では絶対作らないし歌わないような曲で。作曲してくれたカヨコちゃん(現在は草野華余子名義)は当時から売れていたけど、その後めっちゃ売れて大先生になったし。ターニングポイントというか良い記念になった曲ですね。最後は3枚目に収録された「炎〜闇ノ飛翔〜HIKAGE」。「牙狼」はJAMでもお世話になってるけど、個人としてもシリーズ作品にヒカゲという役で出演して変な演技をしてしまって(笑)。でもそんな経験もあって今があるので、選ばせていただきます。

――なるほど。いくつか意外な曲があったりと、面白かったです。例えば「輪舞-revolution」が入るかなと思っていたんですが。

奥井 あー、でもあれは“作品力”ですね。「輪舞-revolution」は今では一番の代表曲だけど、作っていたときはそうなると思っていなかったので。本当に『少女革命ウテナ』という作品人気のおかげだと、特に海外で歌うと感じます。

――もう1つ、30周年で触れたいのが最新曲の「曖昧さ、幸福論」です。「only one No.1」や「Cutie」、「女神になって」といった過去に奥井さんが歌われていた『デ・ジ・キャラット』曲や「ぜったい」「邪魔」といったほかの奥井さんの曲も匂わせるフレーズが歌詞に盛り込まれていて、感激しました。

奥井 「みんながそうやって思ってくれたらいいな」とブシロードのプロデューサーの方とも話していました。

――あの曲はどういった想いで作られたのでしょうか?

奥井 『デ・ジ・キャラット』が24(にょ)周年記念で新作アニメを作るってことで、普通だったらブシロードさんはあれだけ売れてる声優さんを抱えているんだからそっちにいくと思うじゃないですか(笑)。でも声優さんも当時の方だし、主題歌も私に声をかけてくれて。その想いに応えるため、まず作曲とアレンジも矢吹さんにお願いするところから始まりました。でも矢吹さんが色気付いちゃって(笑)進化した少しややこしい曲を作ってきたんですよ。でも絶対にあの当時やっていたサウンドに近いほうがいいだろうと思い、もう1曲作ってもらったんです。歌詞は「成長はしたけど、当時のこともちゃんと忘れていない」という想いを歌に込めたかったので、自分が過去に出した曲の言葉を少しずつ入れてあんなふうになりました。

“奥井雅美”というアニソンシンガー



――その“当時のサウンド”について伺いたいことがあります。今の奥井さんのイメージを決定づけた曲は先ほども触れていただいた「REINCARNATION」からだと思います。あの曲のような、奥井さんや林原さんらが歌っていた当時のスターチャイルド楽曲の曲調はどこからきたものなのでしょうか?

奥井 矢吹さんと当時のチームのキーボードだった大平 勉さんが、大月さんに「好きにアレンジしていいよ」と言われて、当時の流行りや洋楽も含めて彼らが聴いてきたサウンドをアニソンに取り入れたからでしょうね。「REINCARNATION」は1994年の曲ですけど、制作当時はB’zさんが売れてTK(小室哲哉さん)サウンドも流行り始めた頃だったので、当時のアニソンでは珍しいそういったテイストの入ったモノにしたんです。彼らは林原さんのアレンジもたまにしていたので、それがスタチャの色になったんじゃないでしょうか。

――海外アーティストの参加の話などでも感じるのですが、当時のチームには本格派志向みたいなものがあったのでしょうか?

奥井 いや、単にファンなだけじゃないですか?(笑)。ミュージシャンやアーティストにとって海外の人とやるのは夢だろうし、矢吹さんも少しお金に余裕が生まれたしパイプもできたのでやってみたかったのかな?と。

――というのも奥井さんがアニソン系のライブでは最初にダンサーやコーラスを取り入れたという話を以前どこかで拝見したので、「アニソンでも本格的なものを」みたいな考えがあったのかなと以前から思っていて。

奥井 これは矢吹さんの考えですけど、本格的というよりはあの当時「アニメファンは普通のアーティストのライブに行かないんじゃないか。だからアニソンのステージでもそういうライブでやっているようなことを見せてあげたらどうかな」くらいの感じでした。ライブでタオルを使うようにしたのもアニメ界では多分私が最初ですけど、それも矢沢永吉ファンの矢吹さんの提案だったし。

――奥井さん自身はそうした演出をどう感じていましたか?

奥井 私はユーミン(松任谷由実)のところで踊りながら歌っていたから、踊ったりダンサーを入れたりすることに違和感はなかったし、楽しかったです。ただ「ちょっと人数多すぎない?」とは思ってましたけど(笑)。矢吹さんの演出自体が派手すぎたから、逆にシンプルなものもやりたくなったんですよ。それは音楽的にもですけど。だから先ほど話した10周年の前くらいは、色々とシンプルな方向に自分が変わっていった時期でした。

――ベストアルバムに話を戻します。ボーナストラックで「Get along」「ONENESS」の2曲をセルフカバーしていますが、この選曲には悩みましたか?

奥井 いえ、ほかの人気のデュエット曲「MASK」は過去にカバーしていたし、「セルフカバーするならこれかな」という曲は絞られていました。ソロでの「Get along」はライブで歌うことはあっても音源はなかったから、「キングさんとめぐちゃんが『いいよ』と言ってくれたらカバーしよう」という感じですぐ決まって。「ONENESS」はアニサマ初年度と2014年度のテーマソングですけど、30年の活動の中であのイベントの立ち上げに関われたことはすごく大きいことだったし頑張った時期だったので選びました。

――「Get along」は曲の印象も大きく変わっていますね。

奥井 めぐちゃんとデュエットしたときは歌謡曲っぽく軽く歌ったんですけど、今回は自分のカラーで歌いたくてロック色を強めたかったんです。だからアレンジはそのままなんですけど、リズム系を前面に出したりギターを少し大きくしたりしてトラックダウンし直して。それと当時のコーラスも私が入れたんですけど、「ここもあったほうがいいんじゃないか」っていう部分は少し足して。そして歌い方も変えたおかげで自分らしい「Get along」になりましたね。

――「ONENESS」は元々大勢が歌っていた曲だから、ソロとして歌うのは大変だったのでは?

奥井 はい。歌う人がどんどん変わる前提の曲だから息継ぎする間もないくらいで、1人で歌うのは大変でした。あと自分が何回もオリジナルを聴いているので、ちょっとモノマネしちゃうんですよ。お奈々(水樹奈々)さんのとこはお奈々さんぽくなったり、(栗林)みな実ちゃんのモノマネしちゃったり。それを自分らしく歌うのに時間がかかって。難しかったけど、ちゃんと納得のいくものが録れました。

――ありがとうございます。それではベストアルバムから離れての質問です。30周年を迎えた今の奥井雅美というアニソンシンガーを、客観的にどう見ますか?

奥井 自分ではそんなに大したもんじゃないと思うんですけど(笑)。客観視するのは難しいな……よく歳下の同業者からは「背中を見てますからね」と言われるんです。というのも、演技もできる声優さんと違ってアニソンシンガーって歌うことしか仕事がないじゃないですか。最近では歌詞や曲を書くのも当たり前みたいになってきましたけど、そういうこともできないとなかなか長くはいられない世界だし。そういう世界にいる女性がどういう生き方をしていくのか、仕事以外のことも含めて先々のことを不安に思っている人がこの業界でも他の職業と同じようにいらっしゃいます。あとみな実ちゃんからは「奥井さんが私たちの仕事を作ってくれたんですよ」みたいなこともよく言われて。そういうことを言われる人間としては、不安がっている同業者たちに、反面教師でもいいから、背中を見てもらえるようなシンガーでありたいと思っています。そのためには、それこそ“潔く カッコ良く 生きて行こう”って「輪舞-revolution」の歌詞の通り、かっこ悪くは生きられないですよね。

――この先の活動も注目させてください。最後に「生涯現役、80歳まで歌う」という奥井さんがずっと言われている目標に向けての意気込みをお聞かせください。

奥井 それも矢吹さんが好きな矢沢永吉さんが「生涯現役、云十歳までやる」と言ってたから、若い頃の私も調子に乗って「80歳まで」って言っちゃっただけなんですよ(笑)。ただ現実的に考えると、今歌ってる楽曲やロックとかは年齢的にこれまでと同じように歌えるかは難しいかもしれません。だから音楽性は変わっていくかもしれませんが、歌を歌って、音楽に関わっていきたいです。

――そのためには健康第一で。

奥井 その通りですよ。水木(一郎)のアニキも空に帰ってしまいましたし。アニキも気が若い人だったので、まだまだ長生きしそうな雰囲気だったじゃないですか。だから今でもその辺にいるような気がしますけど……私も健康に気を付けながら、80歳まで歌えるかどうかはわかりませんけど、そこを目標に『生涯現役』を目指して頑張ります。

●リリース情報

奥井雅美 30周年ベストアルバム

『Mas”ami Okui”terpiece』

2023年3月8日(水)リリース



品番:LACA-9954〜9956(CD3枚組)

価格:¥7,700(税込)

<INDEX>

Disc1

1.誰よりもずっと…

2.REINCARNATION

3.邪魔はさせない

4.輪舞-revolution

5.そうだ、ぜったい。

6.Birth

7.太陽の花

8.朱 −AKA−

9.Key

10.天使の休息

11.only one, No.1

12.TURNING POINT

13.空にかける橋

14.女神になりたい〜for a yours〜

15.Shuffle

16.DEPORTATION〜but, never too late〜

Disc2

1.Olive

2.TRUST

3.蜜-mitsu-

4.God Speed

5.zero-G-

6.WILD SPICE

7.SOLDIER 〜Love Battlefield〜

8.Remote Viewing

9.It’s my life

10.-w-

11.RING

12.紫音-sion-

13.INSANITY

14.LOVE SHIELD

15.Flower

16.宝箱 -TREASURE BOX-

Disc3

1.Good-bye crisis

2.Dive To Future

3.リアル☆Starter

4.ソラノウタ

5.WOLF〜FINAL, THE LAST GOLD〜

6.ヒカリノハナ

7.静ノ炎

8.SYMBOLIC BRIDE〜Rebellion of Valkyrie〜

9.イノセントバブル

10.ソフィア

11.炎〜闇ノ飛翔〜HIKAGE

12.Blood Blade -光と闇の彼方に-

13.希望の翼

14.曖昧さ、幸福論

15.Get along (Self Cover)

16.ONENESS (Self Cover)

関連リンク



奥井雅美 official website

http://makusonia.com/

奥井雅美 公式Twitter

https://twitter.com/LoveLoveDragon