サウナに救われた!? 磯村勇斗がサウナにはまった理由とは? サウナの意外な健康効果
皆さんはサウナがもたらす体への効果や、サウナで“ととのう”という状態の正体について知っていますか? サウナが好きな人でも、そのメカニズムまでは詳しく知らないという人が多いのではないでしょうか。サウナの効果は少しずつ明らかになってきており、疲労回復・ストレス解消・集中力アップなど、さまざまなメリットを私たちにもたらしてくれます。そこで今回は、磯村勇斗さんも習慣にしているというサウナの効果について、サウナ学会代表理事の加藤容崇先生とともに考えていきます。
インタビュー:
磯村勇斗(俳優)
監修医師:
加藤容崇(慶應義塾大学医学部特任助教・日本サウナ学会代表理事)
2010年北海道大学医学部医学科卒業。医師・医学博士(病理学専攻)。北海道大学で特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部(Massachusetts General Hospital Cancer Center)に勤務。膵臓がんの創薬に関する研究を行う。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット、北斗病院腫瘍医学研究所に勤務し、癌ゲノム医療を行なっている。サウナを科学し発信していく団体「日本サウナ学会」を友人医師、サウナ仲間と作り、代表理事として活動中。
加藤先生
磯村さんがサウナ好きだということを知っている人は多いと思うのですが、サウナにはけっこう入りますか?
磯村さん
入りますね。ただ、サウナに行き始めた頃に比べると、少なくなりました。
加藤先生
週に何回くらい行きますか?
磯村さん
週に2回行けたら自分の中では、満足ですね。
加藤先生
以前はもっと行っていたんですね?
磯村さん
週に5回行かないと、気が済まなかったです。
加藤先生
サウナへの入り方は、変わってきていますか?
磯村さん
すごく変わったと思います。
加藤先生
どのように変わりましたか?
磯村さん
最初の頃は、サウナ室に8~10分入ってから水風呂に入り、休憩するサイクルを3セット繰り返すことが大事だと聞いて、その方法で入っていました。でも最近は、自分の心と会話しながら入ることが大切だと感じて、時間に縛られない入り方に変わりましたね。
加藤先生
時間や温度などの情報に縛られずに入るのは、医学的にも良い方法だと思いますね。磯村さんにとって、“ととのう”状態ってどんな感覚ですか?
磯村さん
浮いている感じです。
加藤先生
頭がスッキリする感覚はありますか?
磯村さん
頭がスッキリする感覚は、ととのった後に訪れます。“ととのう”状態は、医学的にも解明されているんですか?
加藤先生
完全には解明されていないです。自律神経を考えると一番わかりやすいので、まずは自律神経の説明をしますね。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は緊張している時に、副交感神経はリラックスしている時に活性化されます。
磯村さん
サウナや水風呂に入ると、それらはどの様に変化するのですか?
加藤先生
サウナや水風呂という環境は、体にとって異常な状態なので、まず交感神経が活性化します。サウナや水風呂の後に休憩をとると、人間はホッとするので、今度は反動をつけて副交感神経が優位な状態になります。
磯村さん
緊張状態から、リラックスした状態に変わるということですね。
加藤先生
はい。その時に重要なのが、体がリラックスした状態にあるにも関わらず、交感神経が活性化した時に血中に分泌された興奮物質がまだ残っているということです。この特殊な状態が、”ととのい”のメカニズムの一つと考えられています。人によって表現は異なりますが、体はすごくリラックスしているのに、ぐったりして眠い感じではなく、頭がスッキリした感覚になります。磯村さんのように浮遊感を感じる人も多いですね。
磯村さん
緊張とリラックスというギャップが大事なんですね。危機的な状況下にあれば、サウナ以外でも、“ととのう”状態になる可能性もあるのでしょうか?
加藤先生
ありますね。一番分かりやすいのが、ジェットコースターです。あとは、映画や音楽で感動して泣いた後のスッキリ感が“ととのう”状態に近いと思います。
磯村さん
“ととのう”感覚を説明するのって難しいですけれど、ジェットコースターや感動した後の状態を説明すると、分かりやすいですね。
加藤先生
磯村さんのお気に入りの施設や、印象に残っている施設などはありますか?
磯村さん
いくつもありますが、北海道にある白銀荘は、僕の中では良かったです。景色が良い場所や外気浴ができる施設は、印象に残ることが多いですね。
加藤先生
磯村さんは、いつ頃からサウナが好きになったんですか?
磯村さん
サウナが好きになったのは、ドラマ『サ道』への出演がきっかけですね。自分が「ととのった~」というセリフを言うのに、その状態を知らなかったら嘘になりますから。クランクイン前にサウナに行き始めて、そこからはまっていきました。
加藤先生
磯村さんが感じる、サウナの最も大きい効果はなんでしょうか?
磯村さん
肉体的・精神的に疲弊していても、体が冷えていても、サウナに入るだけでマイナスの状態がゼロに戻るという感覚は、サウナでしか味わえない感覚だと思っています。
加藤先生
何か具体的なエピソードはありますか?
磯村さん
はい。冬場の雪の中で雨を降らしながら深夜ずっと撮影をする過酷な現場があったんですよ。その時も、撮影終わりにサウナに入って、寝るという生活をしていたら、体がずっと元気でしたね。あの時、サウナに出会っていなかったら、たぶん風邪を引いていただろうなって思います。
加藤先生
過酷な撮影ですね。そんな磯村さんにとってサウナとは、どんな存在ですか?
磯村さん
僕にとってサウナは、命の恩人ですね。サウナに出会っていなければ、挫折していただろうなって感じる場面がいくつもあります。それを救ってくれたのが、サウナです。
加藤先生
磯村さんは俳優なので、見た目も大事だと思うのですが、サウナは美肌に効果があると感じますか?
磯村さん
最初の頃は、サウナに入った後の肌のツヤ感の変化は感じていましたね。ただ、サウナに入ると水分が奪われるので、乾燥するじゃないですか。入った後のケアがなければ美容効果には繋がらない気がするのですが、どうですか?
加藤先生
さすがですね。結論を言うと、サウナの直後から肌はすごい勢いで乾燥します。なぜかというと、皮膚の温度が上がることや体を洗うことで、皮膚をコーティングしている油分が取れて、水分が蒸発してしまうからです。
磯村さん
やっぱり、サウナ後のケアが大事だということですね。
加藤先生
その通りですね。スキンケアを考える上で大事なのは、シンプルに言うと水分と油分だけです。ただし、水分は蒸発して無くなってしまうので、表面を油でコーティングすることが大事です。保湿に加えて、ワセリンを使用すると良いと思います。
磯村さん
サウナに入って血流が良くなることも、美肌につながりますか?
加藤先生
つながりますね。なぜかというと、サウナに入ると体を冷やすために、毛細血管が発達するためです。毛細血管は、肌へ栄養や酸素の受け渡しをしている血管なので、その密度が上がることで、美肌につながる可能性がありますね。
磯村さん
医学的に考えても、効果があるんですね。
加藤先生
そうですね。役柄によっては、体重管理も重要になると思うのですが、サウナも活用しますか?
磯村さん
減量のための追い込みで、サウナを使うことはありますね。しっかり水分を摂らないと倒れてしまうので、水分も摂りながら微調整のために使うことが多いです。
加藤先生
ボクサーの減量に近い感じですね。
磯村さん
そうですね。サウナは減量にも効果はありますか?
加藤先生
「ダイエットに効きますか?」と聞かれた時は、「△です」と答えています。エネルギー消費は上がるので、痩せる体質に変化する可能性はありますが、サウナの後ってご飯が美味しいじゃないですか。サウナ後はついつい食べ過ぎてしまい、体重が増えるという論文も出ているので、食事の量には気を付けたほうがいいですね。磯村さんは食べ過ぎたりしないですか?
磯村さん
サウナ後は、たくさん食べることよりも、質の良い物を食べるようにしていますね。海鮮系のものが好きなので、地魚や白身魚を食べることが多いです。
加藤先生
まさにアスリートですね。食べ過ぎについては、コレステロールの値にも注意が必要です。コレステロール値は、運動で下がると思っている人が多いのですが、実は運動だけでは下がりません。食事コントロールをしないと低下しないことが、医学的にも分かっています。
磯村さん
食事のコントロールが苦手な人は大変ですね。
加藤先生
その通りですね。ただ、そんな人にも朗報があります。実は、サウナと運動を併用すると、コレステロールの値が20も低下すると言われているんです。
磯村さん
そんなに下がるんですか!?
加藤先生
でも、食べ過ぎは良くないですね。運動の後や減量、あとは仕事で肉体的に疲れた時に、磯村さんはどういった方法で疲労の回復をしていますか?
磯村さん
なるべくその日のうちサウナに行って、ストレッチをしてから寝るようにしています。そうすると次の日は、サウナに行かなかった時と比べて、体が軽い気がします。サウナには、疲労を回復する効果もあるのでしょうか?
加藤先生
ありますね。サウナに入ることで、疲れの原因となる乳酸値が、サウナに入らない時と比べて10倍早く低下すると言われています。
磯村さん
え? 10倍ですか。
加藤先生
10倍ですね。筋肉痛をやわらげる効果もあるので、まさに合理的な入り方ですね。
特に、運動直後にサウナに入ると筋肉痛をやわらげる効果も出やすいので、磯村さんのように直後に行く方が良いと思います。サウナの入り方で工夫していることは、何かありますか?
磯村さん
入り方については、探っているところです。体を軽くしたい時は、サウナも水風呂も短めに調整して、温度差が生じないような入り方にしていますね。
加藤先生
良い入り方だと思います。明確な方法はまだないのですが、温度差が生じると体への負荷が大きくなるので、サウナ室は下段でゆっくりした後、そこまで冷たくない水風呂にゆったり入るほうが、疲労は取れやすいと思います。
加藤先生
サウナの効果として、睡眠の質の改善も挙げられることが多いのですが、磯村さんはどう思いますか?
磯村さん
それは、僕も正しいと思っています。ただ、サウナって入り方によっては、覚醒させてしまう瞬間もあるじゃないですか。なので、ゆっくり寝たいなと思う時は、覚醒しない入り方にしています。
加藤先生
覚醒する入り方って、どんな入り方ですか?
磯村さん
一度、舞台の稽古中にサウナへ行った時に、サウナも水風呂も頑張って、深く入ってしまって、頭が冴えて逆に眠れなくなってしまったことがあったんですよ。その経験から、しっかり眠りたい時は、深い入り方はやめるようにしています。
加藤先生
正しいと思います。睡眠に関するサウナの入り方で大事なのは、深部体温と表面の温度の差です。人間はその温度の差で覚醒や眠気をコントロールしているんです。
磯村さん
どのようにコントロールをしているんですか?
加藤先生
例えば深部温度が高くて、表面が冷たい状態は、眠くなりにくいです。逆に深部温度が低くて、表面が温かい状態は、眠くなりやすいです。
磯村さん
しっかり眠りたい時は、どうすれば良いですか?
加藤先生
血液は20~30秒で体内を一巡するので、水風呂を20~30秒程度でとどめておくと良いと思います。直後は、深部温度が高く表面が冷たくなり、頭がすっきりします。90分後~2時間後には徐々に深部温度が下がり表面が温かくなるため、よく眠れると思います。磯村さんの場合は、水風呂で急激に体を冷やしすぎたことが、覚醒してしまった原因だと考えられますね。
磯村さん
なるほど。ゆっくり眠りたい時は、深部温度は温かい状態を保って、徐々に下げていくと良いんですね。
加藤先生
その通りですね。サウナや水風呂の入り方で多少コントロールできると思います。寝る時間やその後の予定に合わせて、微調整すると良いですね。
加藤先生
俳優という仕事には、集中力が必要だと思います。磯村さんが特に集中をする場面は、どういう時ですか?
磯村さん
お芝居の中でも特にアクションシーンは、相手も自分も怪我をしないように集中しますね。あとは、感情を剥き出しにするシーンなど、一発で勝負をしたいという場面では、かなり集中力を使うと思います。
加藤先生
サウナが集中力アップに効果があると感じる場面はありますか?
磯村さん
サウナに入る時に、集中力アップを意識したこともありますが、あまり実感はないですね。実際にはどうなんですか?
加藤先生
集中力がアップする人と、しない人がいると思います。磯村さんのように集中のスイッチの切り替えがもともと上手な人は、あまり実感はないかもしれないですね。切り替えが苦手な人が、サウナで効果を感じる程度かなと思います。
磯村さん
どういうメカニズムで集中力がアップするのでしょうか?
加藤先生
高性能な脳波計でととのった状態の脳をスキャンすると、面白いことが3つ分かりました。1つ目は、異常なアルファ波が半分に減るということです。本来はリラックス状態で出現するアルファ波ですが、疲れると異常なアルファ波がみられるようになります。サウナに入るとこの異常なアルファ波が減り、リラックス状態となることが集中力アップにつながると考えられます。
磯村さん
脳の疲労感が減ることで、集中力がアップするということですね。
加藤先生
その通りですね。2つ目は、磯村さんが言っていた様に、覚醒するということです。サウナに入ると、体はリラックスしながら、覚醒する状態になります。この特異的な状況は、頭をスッキリさせて、集中力につながるのだと思います。
磯村さん
正反対の状況なので、サウナって本当に不思議ですよね。
加藤先生
そうですね。3つ目は、右脳の頭頂葉のみ活性化するということです。この実験はサウナ後の寝ている状態で脳波を測定しているので、脳が働く時に出るベータ波は抑制されて本来は無くなるのですが、サウナに入った後は右脳の頭頂葉という場所だけが活性化していました。
磯村さん
右脳だけ、しかも頭頂葉という場所だけなんですね。
加藤先生
そうなんです。これは、脳科学的にもかなり変な状態です。右脳は左利きの人にとっての利き脳なので、右利きの人は右脳をあまり使わないんですよ。しかしサウナに入ると、この右脳の頭頂葉の一部のみ活性化することが分かりました。頭頂葉は、記憶や外部の情報、体調などを感覚的に認識する働きを持つ場所なので、サウナ後には、いつもと違う変わった感覚になります。
磯村さん
なるほど。どういった感覚になるんですか?
加藤先生
目がキラキラして見えたり、体の動きが滑らかになったりしますね。あとは、普段と違ったものが着想でき、アイデアが生まれたりすることもありますね。
磯村さん
ととのって休憩している時に、何か見えたという話も聞きますよね。僕も白銀荘で聖母マリア様が見えたんですけど、それもこれが原因ということなんですね。
加藤先生
はい。認識がいつもと変化するので、何かが見えるという可能性もありますね。
磯村さん
そういうことなんですね! 全部解決しました。
加藤先生
ここからは精神的な疲労、いわゆるストレスについて聞かせてください。今までに、精神的にきつかったエピソードなどはありますか?
磯村さん
ありますね。撮影現場では、シーンが上手くいかず、納得できずに落ち込むこともありますし、人間関係でも喧嘩してストレスが溜まることもありますね。
加藤先生
その時は、どうやって対処することが多いですか?
磯村さん
サウナ一択ですね。
加藤先生
サウナに入ると、けっこうスッキリしますか?
磯村さん
全然違いますね。気が付いたら笑っています。自分の中で反省も出来るので、心に余裕が生まれますね。精神的なストレスを緩和するために入るサウナは、僕にとって重要です。
加藤先生
かなり助けられているんですね。その分、俳優という仕事は、ストレスを溜め込んで、うつ病になってしまう人は多いと思いますか?
磯村さん
俳優は、けっこう心が病んでしまう人が多いと思います。
加藤先生
そんな中で、サウナ好きにはそういう人が少ないイメージがあるのですが、どう思われますか?
磯村さん
そうだと思います。サウナ好きの俳優は、ニコニコしている人が多いです。自分をコントロールできている人が多いと感じますね。
加藤先生
実際にフィンランドの疫学的な研究では、50年間サウナの効果を追った結果、うつ病になるリスクが78%減るということが分かっています。
磯村さん
そんなに減るんですか。なぜ、うつ病のリスクが減るんですか?
加藤先生
それは、てんかんの人がうつ病になりにくいのと同じメカニズムだと考えられてます。
磯村さん
てんかんの人は、なぜうつ病になりにくいんですか?
加藤先生
てんかん発作が、脳への刺激になるためです。てんかん発作とは、脳の神経細胞が、一時的に異常な電気活動を起こすことによって起こる発作です。その刺激自体が、脳を活性化させるので、うつ病になりにくいと言われています。
磯村さん
サウナに入ることも脳の刺激になるので、うつ病になりづらいということですか?
加藤先生
その通りですね。
磯村さん
脳への刺激にはメリットがあるんですね。ただ、サウナに入ると脳の血管や心臓にも負担がかかると思うのですが、大丈夫なんでしょうか?
加藤先生
もちろん過度な負荷は体に悪いと思います。サウナは運動と一緒で、その人にとって適切な負荷で利用することが重要です。適切な入り方ができれば心筋梗塞や脳卒中のリスクが下がるという論文も出ています。
磯村さん
どのぐらいリスクが下がるんですか?
加藤先生
心筋梗塞は50%以上、脳卒中に関しては62%リスクが減ると言われています。適切な入り方でサウナを利用することが大事ですね。
磯村さん
サウナを利用することで色々な効果が得られるんですね。ありがとうございました。
編集部より
サウナには美容効果や疲労回復、うつ病のリスク減少など、さまざまなメリットがあることが分かりました。しかし、効果的な入り方や自分にあった利用方法を知らずに続けていると、効果が逆にデメリットになってしまう可能性もあります。日本は今、まさに第3次サウナブームと言われています。以前からサウナ好きだった人も、最近サウナにはまった人も、その効果のメカニズムを知った上でサウナとのより良い関係を築いていく、良いタイミングなのかも知れません。今回の対談記事を読んでいただくことでサウナの正しい知識を身に着け、サウナとの付き合い方を見つめ直すきっかけとなることを願います。