もはや日本で敵なし! N-BOXがいつまでも独走する理由とその裏にある弊害
この記事をまとめると
■いまホンダN-BOXが売れている
■ライバル多数のなか、N-BOXの強さの理由に迫る
■好調に売られるクルマの条件を満たした上で、高い快適性を備えている
若い世代にはスライドドアがクルマの基本スタイルになっている
本稿を執筆しているのは2022年12月下旬だから、本年の国内販売台数で明らかになっているデータは2022年11月までだ。12月は未定だが、国内販売の1位はホンダN-BOXで決定した。N-BOXは2022年1〜11月の1カ月平均販売台数が約1万6900台で、ヤリスシリーズの約1万5700台を上まわるからだ。
しかもヤリスの販売台数はシリーズ全体の数値で、SUVのヤリスクロスが約50%を占める。残りがコンパクトカーのヤリスと、少数のスポーティなGRヤリスだ。ユーザーニーズに基づいて考えれば、ヤリスクロスとヤリスは別のクルマだから、2022年の国内販売台数をボディタイプ別に算出すると、N-BOXが圧倒的な1位になる。ちなみにボディタイプ別の2位は、1カ月平均が約9300台のルーミーだ。
そしてN-BOXとルーミーには共通点がある。両車とも全高が1700mmを上まわり、スライドドアを装着することだ。この共通点を踏まえた上で、N-BOXは軽自動車、ルーミーはコンパクトカーに分類される。
N-BOXとルーミーの開発者に人気の理由を尋ねると、両方ともにスライドドアの装着を挙げている。「今の比較的若いお客様は、子供のころからスライドドアを備えるミニバンに親しんで育った。スライドドアは乗り降りしやすいが、若いお客様の場合、それ以前にクルマの基本スタイルになっている。そこで2列シート車にも、高い天井とスライドドアが求められる」。以前はセダンがクルマの基本形といわれたが、今は背の高いボディとスライドドアになっているわけだ。
現行N-BOXは先代型からの乗り替え需要を継承
N-BOXは「全高1700mm以上+スライドドアの装着」という好調に売られるクルマの条件を満たした上で、軽自動車のライバルとなるタントやスペーシア、さらにコンパクトカーのルーミーと比べても、快適性を高めた。内外装は上質で、乗り心地も優れ、なおかつエンジンなどのノイズは小さい。
N-BOXがここまで快適性を高めた理由は、大量の販売を目的とするからだ。N-BOXは、先代型の時点でも国内におけるホンダの主力車種だった。従って現行型が失敗すれば、大きな打撃を被ってしまう。また成功すれば大量な販売を見込めるから、現行N-BOXは先代型以上に多額のコストを費やして開発された。
その成果により、現行N-BOXは先代型からの乗り替え需要を継承できた。先代型も車内は十分に広く、4名乗車が快適で自転車も積めたが、販売店で現行型を試乗するとさらに快適になっている。現行型では安全装備や運転支援機能も進化したから乗り替えも進んだ。
その結果、N-BOXの月別販売状況を見ると、国内で売られるホンダ車全体の30%を超える。多い時には40%に達する。そこに1.5リッターエンジンを搭載するコンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルを加えると80%近くに達するのだ。
ホンダのN-BOXやコンパクトな車種の好調な売れ行きは好ましいが、弊害も生じてきた。それはホンダのブランドイメージが、N-BOXなどの高人気によって小型化されたことだ。前述のとおりN-BOXとコンパクトな車種が売れ筋になり、上級車種が衰退した。ホンダがスズキのようになってきた。
ただしスズキは長年にわたり軽自動車を中心に販売してきたから、低価格の車両を大量に扱って利益を出せる体質になっている。ホンダはそうではない。
従って今のホンダはブランドイメージをアップサイジングする必要に迫られており、新型のステップワゴンやZR-V、シビックe:HEVなどに力を入れている。とくにステップワゴンは、ブランドイメージの改革に大切な認知度の高い人気車だから、今後も特別仕様車の追加などによって着実に進化させる。