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「フラジール」「フィクサー」「ロウワー」などのボカロヒット曲で知られるほか、ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」の作編曲にも携わるなど(作曲はACAねとの共作)、幅広い活動で知られるボカロP・ぬゆり。彼がソロプロジェクトのLanndo(ランド)名義による1stアルバム『ULTRAPANIC』を完成させた。

ACAね(ずっと真夜中でいいのに。)、Eve、suis(ヨルシカ)、キタニタツヤ、Reol、びす、七滝今ら豪華ゲストボーカリストを各楽曲に迎え、中毒性の高いメロディと独創的なグルーヴを備えたポップチューンが詰め込まれた本作。そのうちTVアニメ『シャドウバースF』のOPテーマ「心眼」と、感傷的なバラード曲「冬海」で歌唱を担当したのが、バルーン名義の活動でも知られる須田景凪だ。

今回は、共にボカロP/アーティストとしての顔を持ち、2022年4月にはバルーン×ぬゆりとしてのコラボ曲「ミザン」を発表するなど、かねてより交流を深めていた2人の対談を実施。アルバム収録曲「冬海」「心眼」の話題を中心に、お互いのクリエイティビティについて幅広く語り合ってもらった。

友人同士の2人が感じる、お互いの音楽家としての印象



――お二人はTVアニメ『シャドウバースF』のOPテーマ「心眼」でコラボする前から面識はあったのですが?

須田景凪 2015〜2016年頃の「ボマス(THE VOC@LOiD M@STER)」(※ボーカロイドの同人イベント)で、お互い出展していたときに挨拶したのが最初でした。その数年後に共通の知り合いを介して、ネット上で一緒にゲームで遊ぶ仲になって。なので別に音楽を一緒にやろうみたいな話は全然していなくて、普通の友達という感覚でした。

ぬゆり そこから少し踏み込むではないですけど、僕がLanndoとして発表したい楽曲のなかに、須田さんに歌ってほしいと感じたものがあったので、「この曲を歌ってほしいんだけど」とお願いしたのが、今回のアルバムに収録している「冬海」だったんです。そのときにちょうど『シャドウバースF』のタイアップのお話をいただいたので、須田さんにお声がけして一緒に作ったのが「心眼」でした。

――「冬海」のほうが先にあったんですね。話を少し戻して、「ボマス」で直接知り合われた当時は、お互いの音楽や活動に対してどんな印象をお持ちでしたか?

須田 個人的には、当時ちょうど同じくらいの立ち位置にいたような気がしていて。ただ、お互いジャンルが全然違ったので、良い意味でライバル視するような気持ちはなかったし、シンプルに楽曲が好きだったので、映像作家のアボガド6さんと一緒に挨拶に行った記憶があります。

ぬゆり あのときはびっくりしました。僕は当時、バルーン(須田)さんのことを雲の上の人くらいに感じていたので。

須田 いやいや、そんなことないから(笑)。

ぬゆり たしかにそのときは「シャルル」(※須田が2016年10月にバルーン名義で発表した楽曲)よりも前のことだったんですけど……僕は当時、ニコニコ動画のマイリスト登録数が1,000を超えられない人だったんですけど、バルーンさんは1,000を超えていて、自分の中ではそのラインが大きかったんです。だから「有名な人」という印象があって。

須田 でも、そう言われると俺も同じようなことを思っていたかも。ぬゆりには「フラジール」とか有名な曲がたくさんあるけど、自分がぬゆりの存在を初めて知ったのは、「DE-Pression」という攻めたギターロックの楽曲で。その頃からエレクトロっぽいものも作っていたし、色んなことができる人という印象があったので、その意味でクリエイターとして尊敬していたから。自分は当時、いわゆるバンドセット+シンセサイザーという王道の編曲が特に多い時期だったので。

ぬゆり ありがとう(照れ笑い)。ただ、僕は当時、自分の固定ジャンルがないことに対してコンプレックスを感じていて。何か自分の芯になるジャンルを作ろうとしても、どうしても同じような曲ばかりになってしまっていたので、バルーンさんみたいに自分らしいギターロックの楽曲を何曲も作れる人に憧れもありました。

静謐と激情が同居した初のコラボ曲「冬海」



――ぬゆりさんはLanndoを立ち上げた当初、ご自身でボーカルも担当することが多かったですが、今回のアルバム『ULTRAPANIC』は、ほぼ全曲で須田さんをはじめとしたゲストボーカルを迎えています。これにはどのような心境の変化があったのでしょうか。

ぬゆり 最初は自分で歌うことに興味があったのですが、挑戦していくなかで、どうしても上手くいかないと感じることが多くなってしまって(苦笑)。もちろん自分で歌うこと自体にも意味はあると思うのですが、今回は自分が表現したいものに対して一番良いアプローチができる方にお願いしたくて、各楽曲のイメージに合う方々にお願いしました。ただ、アルバムを作るなかで、最後の1曲(「ロウワー」)だけは自分で歌おうと考えていました。

須田 自分の中では、Lanndoはぬゆりのソロ名義というよりも、ぬゆりが人間を介して音楽を作るプロジェクトという意識なのかな、と勝手に感じていて。

ぬゆり そうなんです。まずLanndoを始めるときにコンセプトとして考えていたのが、「できるだけ人の力を借りよう」ということで。というのも、ボカロPとして活動していると、マスタリングや一部の楽器演奏を外注するくらいで、どうしても1人での制作になってしまうので、それを続けているとマンネリ化してしまうと感じたんです。なのでLanndoでは、楽器の演奏やミックスなどは自分以外の方にお願いするスタイルを取っているんです。

――先ほどのお話によると、須田さんとは「冬海」で先にご一緒されたそうですが、なぜこの曲を須田さんに歌ってもらいたいと思ったのですか?

ぬゆり そもそも、作品を作るうえで、自分とコミュニケーションが上手く取れる人で、なおかつ音楽的にも信頼している方にお願いしたい気持ちがあって。須田さんの音楽は昔から大好きですし、歌声もすごくかっこ良くて、特にサビの爆発力がすごいじゃないですか。僕は須田さんの歌声を思い出そうとすると、まずサビの歌声が頭に浮かぶんです(笑)。「冬海」もA・Bメロは落ち着いた感じだけど、サビで一気に広がりが生まれる楽曲なので、この曲には須田さんだなと思いました。

須田 ゲストボーカルとして誰かの楽曲で歌うのは初めての経験だったんですけど、それが友達のぬゆりの楽曲でできたのはすごく嬉しかったですね。これがもし自分とは遠い人からのオファーだったとしたら、もう少し、仕事という感覚にもなっていたと思うので。

――「冬海」は、切ない雰囲気が漂うミディアムバラードですが、どんなイメージで制作したのでしょうか。

ぬゆり 今回のアルバムは、まず「こういう曲が作りたい!」という気持ちを優先して楽曲を制作して、そこからアルバムの形にまとめていったのですが、「冬海」に関しては、最初にピアノのイントロを作ったんです。そのメロディが今までの自分にはあまりないものだったので、それを活かせるような曲調、ゆっくりめのテンポでちゃんとした和声のストリングスを入れた楽曲に挑戦したいと思って作った曲になります。

須田 独特な曲だよね。

ぬゆり あまりにも今までの自分とはかけ離れた曲調だったので、最初は須田さんに「歌だけじゃなくて編曲も一緒にやってくれない?」とお声がけしたんですけど、「編曲はこれでいいと思うよ」って言っててくれて。

須田 そう。そのときにもらったのは、まだ生音で録っていないデモ音源だったんですけど、別にそのままでもめちゃくちゃかっこ良かったので、「これは俺が入る隙間はないよ」っていう話をして。

ぬゆり それを聞いてちょっと自信がつきました(笑)。

――いい話です(笑)。須田さんは最初に楽曲を聴いてどんな印象を抱きましたか?

須田 話をもらったときは、それこそ「フラジール」みたいなアッパーな曲がくるのかな?と思っていたんですけど、音源を聴いたら、今までのぬゆりの楽曲で言うと「さいしょへ」に少し近い感じ、いわゆるみんなが想像するぬゆり節というよりも、歌ものに全振りしたものがきたなと思いました。特に落ちサビの歌声を10人分くらい重ねるところは、とんでもないことをお願いしてくれたなと思いつつ(笑)、自分としては、我を出すよりもぬゆりの解釈通りに歌いたかったので、ぬゆりの見ている景色を誤差なく表現できるように臨みました。

ぬゆり 歌入れのレコーディングの前日に、須田さんが「こんな感じでいい?」って確認の音源を送ってきてくれて。その歌を聴いたときに、これはキーを上げたほうが良くなるかも、という直感があったので、「ちょっと苦しいかもしれないけど……」って相談させてもらって(笑)。結果的に理想通りのものが出来上がりました。

――歌詞に目を向けると、感傷的な気持ちが描かれているように感じました。

ぬゆり 僕はいつも楽曲を全部書き上げたあとに歌詞を書くタイプで、書きながら「この曲って何なんだろう?」と考えるタームに入るんです。「冬海」もそうやってできた曲で、激情的な曲ではありますけど、最終的には失望で終わる曲にしたいというのがありました。

――須田さんの歌声も、温かみを含めた感情の揺らぎを感じさせつつ、ある種の喪失感というか、諦めのような部分が滲んでいるように感じました。

須田 それは、自分というよりも、ぬゆりのメロディと言葉の親和性が強いからだと思います。ぬゆりの楽曲は失望や諦めをテーマにしたものが多い印象ですけど、個人的には今回初めて歌わせてもらったことで、このメロディと言葉の組み合わせだからこそ、より悲しく聴こえるんだということに気づいて、腑に落ちた感覚がありました。



ぬゆりらしさ全開の独創的なアニメソング「心眼」



――「心眼」のお話もお聞かせください。こちらはTVアニメ『シャドウバースF』のタイアップのお話ありきで作ったとのことでしたが。

須田 それこそ最初は「冬海」も候補に入っていたんですけど、色々考えた末に、ぬゆりが「新しく作る!」と言ってくれて。で、紆余曲折あった末に完成したのが「心眼」でした。

ぬゆり 「心眼」とは別にもう1曲、今回のアルバムにも入っていない楽曲のデモを作っていたのですが、須田さんから「ぬゆりのカラーがあるのは「心眼」のほうだよね」と背中を押してもらって、「ならこれでいこう!」と決心した流れがありました。

須田 もう1曲のほうも、いわゆるアッパーな感じですごくかっこ良かったんですけど、せっかく一緒にやるのであれば自分はぬゆりっぽさを大事にしたいという話をして。

――そのもう一方のデモ曲は、よりアニメタイアップを意識した曲調だったということでしょうか?

ぬゆり そうですね。楽曲を作るにあたって歴代の『シャドウバース』のテーマ曲を予習したのですが、そのときに自分の楽曲だと浮いてしまいそうな気がして、アニメタイアップ自体が初めての経験ということもあって、すごく不安だったんです。それで自分のカラーを抑えたデモも作ったんですけど、須田さんにアドバイスしてもらったことで、自分に任せていただけるのであれば自分のカラーをちゃんと出さないとダメだなと考え直して。それでできたのが「心眼」でした。

――それこそ須田さんが担当した『炎炎ノ消防隊』のEDテーマ「veil」も、作品に寄り添いつつ須田さんらしさが如実に出たタイアップ曲という印象が強かったので、その経験も踏まえたアドバイスだったのではないかなと。

須田 そんな先輩面をするつもりはないですけど(笑)、自分がやるのであれば、自分らしさを出しつつ人とは違うことをやりたいし、もし自分らしさを消してしまうのであれば自分でなくてもいいと感じるタイプなので。だからそういう話はしました。

――お二人でかなりやり取りを重ねた末に生まれた楽曲だったんですね。

ぬゆり 僕が楽曲を作っては、須田さんに「こんな感じでどう?」って1回1回アドバイスを聞きにいくような感じで。なかでもBメロは、何回も作り直していたんですけど、そのときに「あまりにも苦しいようだったら自分が手伝おうか?」と提案してくれて。ありがたかったです。

須田 Bメロだけ「自分ならこうするかな?」っていうメロとオケを提案したら、それをぬゆりが気に入ってくれて。でも、自分が曲作りで直接関わったのはそれくらいです。

――「心眼」はエレクトロスウィングなどの要素も取り入れられた、いわゆるアニソンらしさに捉われないインパクトの強い楽曲ですが、ぬゆりさんがこの曲を作るにあたって意識したことは?

ぬゆり 自分が好きなものを作ろうとは思ったんですけど、やはり作品に寄り添うキャッチーさは必要だと感じたので、最終的にはサビも全編書き直しました。自分は普段結構ひねくれた曲を作っているんですけど(笑)、『シャドウバースF』は少年向けの作品なので、真っ直ぐなものが一番いいなと思って。なので自分の我を出しつつも、メロディで作品に寄り添うことを目指しました。特にサビメロは普段の自分であれば書かないようなメロディになった感覚があって。それは作品にアドバイスをいただいた結果だと思います。

須田 たしかに。自分もぬゆりのカラーはあるけど、今までのぬゆりではない印象がありましたね。

――須田さんはこの曲を歌うにあたって、どんな意識で取り組みましたか?

須田 アニメのタイアップではありますけど、そこは一旦置いておいて、楽曲の密度をより上げていくにはどうしたらいいかを考えました。例えば、より切迫感が伝わる感じにしたかったので、自分が普段歌っているキーよりも、あえてキーを上げてもらうよう自分からお願いして。さっきお話したBメロも、よりサビが爆発するためにはどうすればいいのかを相談するなかでできたもので、そのときにぬゆりと共作している気分にもなれたし、友達の曲を歌うという意味でも感慨深かったですね。

――歌詞もぬゆりさんの楽曲らしいネガティブな感情も滲ませつつ、最終的には前を向くようなところが感じられます。

ぬゆり アニメ自体が仲間と助け合って戦うお話なので、そういう歌詞を書きたくて。世間一般から見るとまだ絶望寄りかもしれないですけど(笑)、自分の中ではかなり前向きな曲になりました。それもタイアップじゃないと自分の中からは生まれない要素だったので、すごく新鮮な体験でした。

須田 今まで、ああいう言葉を使う楽曲はなかったもんね。



“誰か”と一緒に制作することで見つけた新しい“自分”



――アルバムには須田さんのほかにも、様々なゲストボーカルが参加していますが、ぬゆりさんが特に印象深い楽曲は?

ぬゆり 自分からは生まれなかったという点では、「さいはて feat.キタニタツヤ」です。この曲では今までの自分にはないものを作りたくて、「すごく幸せな曲」というコンセプトを最初に決めたんです。なので、歌詞、メロディ、曲調、編曲も含めて全体的にハッピーな感じにしていて。自分の中にはあまりない要素を頑張って出したので、「こういうところもあるんだ」と感じてほしいです。

――アルバムの最後は、アプリゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下、「プロセカ」)に提供した「ロウワー」のセルフカバーで締め括られますが、「さいはて feat.キタニタツヤ」はその1曲前に収録されていて、アルバムの締め括り感がありますよね。

ぬゆり そうなんです。まさに締め括りということで、タイトルも「さいはて」にしました。人生のエンディングにほしい曲というか、自分の葬式でかけたい曲みたいな。

須田 それだと絶望じゃん(笑)。

ぬゆり たしかに(笑)。これはなんとなく思っていたことですが、アニメのエンディングみたいな感じ、物語の最後に流れるハッピーな曲をイメージして作ったんです。なのでぜひ聴いてほしいです。

――キタニさんの歌も含めて晴れやかな空気感があって、素敵な楽曲だと思います。ちなみに須田さんは今回のアルバムを一通り聴いてどんな印象を受けましたか?

須田 それこそキタニやReolみたいに、自分も交流のある人もちらほらいますし、自分が昔から好きで聴いている、びすさんも参加していて、どの曲も「たしかにこの曲にはこの人の歌だな」っていう説得力があるなと感じました。その意味で、ぬゆりが表現したいものをぬゆりのビジョン通りに当てはめている感覚があって、ぬゆりのやりたいことが如実に見える作品だと感じましたね。

――ぬゆりさん的にも、自分の理想のアルバムになった感覚、達成感はありますか?

ぬゆり すごくあります。1人で作っているとどうしても到達できない完成度があると思うんですけど、そこを超えられた感覚があって。1人で作って歌はボカロに任せたり、自分で歌うだけとはまた違うところに到達できたと思います。



ボカロPとアーティスト、両方の活動を行う意味と意義



――あと、ぬゆりさんが今回のアルバムでセルフカバーした「ロウワー」は、「プロセカ」のニーゴこと25時、ナイトコードで。に提供した楽曲ですが、須田さんもニーゴに「ノマド」という楽曲を書き下ろしていて。せっかくなのでそれぞれどんなイメージで制作したのかを聞いてみたいです。

ぬゆり 「ロウワー」はシナリオの内容を意識したうえで、仲間の中の1人が絶望してしまったけど、それを周りのみんなが理解して元の形に繋がっていく、というイメージで書かせていただきました。そのテーマは「心眼」にも少し通じるところがあって、「絶望だけではないけど、絶望もたしかにある」という感じが、自分が当時書きたかったものとすごくマッチしていたんです。それもあってお引き受けさせていただいた経緯があります。



須田 自分が担当させていただいたのは、東雲絵名(CV:鈴木みのり)ちゃんというキャラクターがメインで描かれるシナリオだったのですが、彼女は絵を描く人で、そこにある種の挫折も感じている子だったんですね。その気持ちはモノを作る人ならば必ずぶち当たる壁なので、自分にとっても本当に痛いほど理解できるテーマで。だからシナリオを読んで曲を書きたいと思いましたし、自分が書くならば、ただ「悲しいけれど頑張っていこう!」というものではなくて、あくまで自分が書く意味があるものにしたくて。もちろん頑張っていきたい想いはあるんだけど、誰もわかってくれなくてめちゃくちゃ辛いときもあるし、そういう記録を残しておきたい。それを音楽で表現したのが「ノマド」です。



――「プロセカ」への楽曲提供は、ある種、キャラクターソングを書き下ろすという側面もあると思うのですが、それは作品のタイアップ曲を制作するのとはまた別の感覚や気づき、新鮮さがあったりするのでしょうか?

須田 自分は東雲絵名ちゃんというキャラクターにフォーカスして楽曲を書きましたけど、いまだに「プロセカ」のことを耳にすると「絵名ちゃんはあれからどうしてるんだろう?」って思いますし(笑)、普通に感情移入はしちゃっていますよね。

ぬゆり 自分もテーマをいただいたときから、ものすごく共感できたんです。だからキャラソンではあるんですけど、「このキャラはどんな悩みを抱えていて、それに対してどんな歌詞を書くべきなんだろう?」みたいな悩みはあまりなくて。本当にスルッと書けたんですよね。

須田 わかる。自分を投影しながら曲を書けたよね。

ぬゆり そうそう。なので普段の楽曲とのギャップも多少はありますけど、そこまでそれを感じることなく書けましたし、自分の楽曲をちゃんと聴いていただいたうえでオファーしてくださったことをすごく感じました。

――それは「プロセカ」の楽曲全般に言えることかもしれないですね。ちなみにお二人は、アーティストとしての活動とボカロ楽曲の発表を並行して行っていますが、自分の中でそれぞれのクリエイティブの違いをどのように考えていますか?

須田 自分がボカロで楽曲を作る場合は、ボーカロイドカルチャーの入り口が「歌ってみた」だったこともあって、誰かに歌ってもらったり、踊りや演奏といった二次創作のところまでを見据えて楽曲を制作することが多いんです。なので平たく表現すると、誰が歌ってもかっこよくなるということを一番大事にしています。須田景凪という自分の名義に関しては、より自分の感情やパーソナルな部分をわかりやすく気持ちとして載せたいと思っていて。そこは名義を分けないと、自分の中で混乱してしまうので、別のものとしてやっています。

ぬゆり なるほど、めちゃくちゃ納得してしまった(笑)。僕はもっと感覚的に捉えていて、今回のアルバムにしても、とりあえず楽曲を作るときは、仮歌も兼ねてボカロで全部打ち込んでしまうので、ボカロの楽曲としても完成できる形になっているんです。で、それを聴いたときに、「これはもう一段階進化できる気がする」と直感的に思ったものに対して、そこで初めて「じゃあこの曲は誰かに歌ってもらったほうがいいかも」と考えるんです。

――須田さんとは違って、楽曲を作っている段階では、それがボカロの楽曲なのかLanndoの楽曲なのかは意識していないと。

ぬゆり でも、それは今、須田さんが話したことと一緒で、ボカロ曲として完成したときにかっこいいなと感じるものは、最終的に誰が歌ってもかっこいい形になった楽曲で、そうじゃないものは、さらに伝えたいこと、表現したい幅がある曲なんだなって、今お話を聞きながら思いました。

――面白いですね。その意味では両方の活動を行っていく意味も意義もあるし、それぞれが相互に良い影響を与えあっているような気がします。

須田 自分は結果として良い影響があることを強く感じていて。わかりやすく説明すると、昔にバルーン名義で「レディーレ」という曲を書いたんですけど、そこからしばらくはずっと須田景凪という名義だけで曲を作っていたんですね。というのも、自分は同時に色んなことをできない性質なので、一度須田景凪の名義を集中してやるようにしていたんです。で、自分のアルバム制作が落ち着いたときに、久しぶりに「パメラ」という曲を(バルーン名義で)書いたんですけど、そこでいざボカロと向き合ったときに、過去の自分とは全然違うものが出てきたんです。そのとき、両方で活動する意味があることを改めて感じましたね。

ぬゆり 僕は出来上がった楽曲に対して、ボカロか人間が歌うかを都度考えていくタイプなので、相互の影響という意味では、両方が溶け合いすぎていて、あまり実感はないかもしれないです。でも、今回のアルバムが完成して改めて、人に歌ってもらうことで完成度や伝えたいものが変わることに気付いたので、次にボーカロイドの楽曲を作るときは、どうアプローチするべきかを考えながら作ってみたい気持ちがあります。

須田 アルバムを作ったことで、クリエイティブの幅もすごく広がっただろうしね。

ぬゆり そう。自分で言うのもあれですけど、次が楽しみです(笑)。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

【Lanndo 1stアルバム『ULTRAPANIC』レビュー】

一癖も二癖もある作り手たちが集い、独創的な音楽の坩堝となっているボカロシーンにおいて、ひと際中毒性の高い、仄暗くもアッパーな作風で名を上げてきたぬゆり。2019年より始動させたLanndo名義においては、当初は自らボーカルを取ることで繊細な色味を深めていたが、2021年2月に発表した「vivid a」(今回のアルバムには未収録)でbis(びす)を迎えたのを皮切りに、楽曲ごとにゲストボーカルを迎えるスタイルにシフトチェンジ。それら「様々な歌声とのコラボレーション」の成果であり、「できるだけ人の力を借りて作る」というLanndoというプロジェクト自体の集大成とも言える作品が、今回の1stアルバム『ULTRAPANIC』だろう。

Eveとsuis(ヨルシカ)というトップランナー2人が歌う「宇宙の季節」の、寄る辺ない感情を群青色の宇宙へと放つような美しくもエモーショナルな質感は、それまでのぬゆり楽曲にはないスケール感が感じられるし、その奥行きの深さは須田景凪を迎えた激情的なバラード「冬海」にも確実に息づいている。その一方で、七滝今を迎えたアグレッシブなピアノロック「クレイ」は従来のぬゆりらしさを感じさせつつ、外部ミュージシャンによる生演奏が圧倒的な熱気を上乗せ(ぬゆりが影響を受けたという東京事変の如きテクニカルな爽快感も得られる)。ACAね(ずっと真夜中でいいのに。)とのデュエット曲「青く青く光る」の前のめりなグルーヴ感も特筆に値するし、Reolが艶味と凄みを使い分ける「仇なす光」も含め、ぬゆり名義の代表曲の1つ「命ばっかり」(2017年)からの延長線上にある表現にも感じられる。

インタビューで触れている通り、かつてないポジティブさに満ちた晴れやかなロックチューン「さいはて」の存在が象徴しているのは、新しいことへの挑戦心。この曲ではキタニタツヤに歌を託しているが、歌詞にある“潜む後悔を隠して遠くまで行ってみたい”というフレーズは、きっと今のぬゆりが心から感じていることなのだと思う。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報

Lanndo 1st アルバム

『ULTRAPANIC』

2022年12月7日(水)発売



価格:\3,300(税込)

品番:AZCS-1110

発売元:FAVES

01. インクルージョン feat. びす

02. クレイ feat. 七滝今

03. 心眼 feat. 須田景凪

04. 実行中毒 feat. びす

05. 全部 feat. びす

06. トーキョーハウンドfeat. 七滝今

07. 青く青く光る feat. ACAね(ずっと真夜中でいいのに。),ぬゆり

08. 仇なす光 feat. Reol

09. 冬海feat. 須田景凪

10. 宇宙の季節 feat. Eve,suis(fromヨルシカ)

11. さいはて feat. キタニタツヤ

12. ロウワー feat. ぬゆり

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■Lanndo

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