スペイン戦に勝利し、笑顔を見せるサッカー日本代表の森保一監督(写真:AFP=時事)

FIFAワールドカップの対スペイン戦において、森保一監督率いる日本代表が勝利を収めました。試合後にインタビューを受ける監督を見ながら、「この監督は、もしかすると『これまで見たことのない景色』を見せてくれるかも!いや、もう魅せてくれている?」そんなふうに思えてきました。

筆者の専門分野である表情分析の知見から森保監督の感情と思いを推測します。分析に用いた動画は、スペイン戦後インタビューです。

インタビュー中、顔からは幾度となく笑みがこぼれ、「ヤッター!!」と勝利した喜びを全身全霊で表したかった心理が推測できます。しかし、監督の立場として冷静にインタビューに答えるため、あるいは、適切な勝者のふるまいを意識してか、幾度となく唇に力を込め、強い幸福表情が顔からこぼれ出ないように抑制しようとしています。

ドイツ戦勝利より喜びが大きかった?

「試合通して苦しい戦いでしたけど……」と監督がインタビューで述べているように、勝つか負けるかどちらにも転んでしまいそうな接戦であったからこそ、勝利の喜びが大きかったのだと思います。

この監督の幸福表情ですが、同じく勝利を収めた対ドイツ戦後のインタビューと比べると興味深いことがわかります。ドイツ戦後のインタビューを見ると、監督は軽く口角を引き上げた緩やかな幸福表情をしています。幸福を抑制する表情はほとんど見られません。これは、どういうことでしょうか。

感情と表情筋の強さは連動しており、感情が強いほど、表情筋も強く動くことがわかっています。つまり、対ドイツ戦は、スペイン戦に比べ、喜びの度合いが小さかった、そんなふうに推測できます。一般的には、日本がドイツに勝つことは凄いことです。しかし、監督の中では、「日本が勝つ……さもありなん」という期待が大きかったのかもしれません。

例えば、「日本&ドイツ&スペイン、各監督が互いの印象語る…ドイツは日本警戒、スペインは『よくわからない』(2022年4月2日スポーツ報知)にて、監督は、

「すでにドイツに関しては自然と見ているところがある。世界的に名前が認知されている選手ばかりなので。そういう意味では、分析としては我々はしやすいのかなと思います」と述べ、分析のしやすさに日本の強みを見出していました。

一方、スペインに関しては、「スペインは東京五輪でも対戦させてもらい、インテンシティーはもちろん高く戦ってくる中で、技術的、そしてチームの戦い方として、相手のプレッシャーを外しながら戦ってくる部分がある。五輪でも攻撃の形をうまくつくれなかったので、我々が攻撃の形をうまくつくれるようにしたい」と述べ、戦略・戦術次第という印象を残していました。

そして、もう1つ。今回のスペイン戦後のインタビューで興味深かったのは、インタビュアーに、「森保監督のいう『新たな景色』まであと1つというところまできました。そのあたりについてはいかがですか?」と尋ねられたときの表情です。

世界という舞台で戦う幸福感

順位的な新たな景色は「ベスト8」だと述べつつも、「世界という舞台で戦っていけること、選手たち、もう違った新しい景色を見せてくれていると思います」と、眉と口角を引き上げ、答えます。眉の引き上げは、驚きを意味し、口角の引き上げは、幸福です。「驚くべき、そして、歓迎すべき、新しい景色をすでに僕たちは目撃しているんだよ」というメッセージが伝わってきます。

監督のディレクション、メンバーのプレー、サポーターの思いの混合など、確かに2つとして同じ試合はなく、一瞬一瞬が新たに生まれては消えていく、そんな景色を私たちは目にしています。

とはいえ、「ここまでで満足している」というわけではないことを示すために、「ベスト8以上の新しい記録を勝ち取りたい」とまじめな表情に戻り、数字で目標を述べ、サポーターへの感謝の言葉と共にインタビューを締めています。

さまざまな策を駆使して日本代表を勝利に導く監督の手腕を私たちは目にしていますが、試合を心から楽しんでいる、そんな様子を監督の表情に垣間見るとき、私たちは純粋に感動できるのだと思います。

さぁ、次の試合は、12月5日(日本時間6日午前0時開始)。対戦相手国はクロアチアです。どんな「新たな景色」を見ることができるのでしょうか。

(清水建二 : 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役)