つねに人でにぎわう竹下通りのごみは、いつどうやって回収されているのでしょうか(写真:Ryuji/PIXTA)

「ごみ」といえば、家庭から排出されるものを想像する人が多いだろう。しかし、ごみはそれのみでなく、事業から排出されるごみもある。環境省によると、2020年度の事業所から出る紙くず・生ごみなど事業系一般廃棄物(事業系一廃)の排出量は1165万トンであり、ごみ総排出量4167万トンの約4分の1にあたる。

前回の「店や病院の『ごみ収集』知られざる過酷な現場」で説明したとおり、事業系廃棄物は、自治体区域内の限定的なエリアで収集する一般家庭ごみ収集とは異なり、顧客先を個々に訪問して収集する形態を取っており、過酷な作業となっている。今回も事業系廃棄物の収集現場にスポットライトを当て、慢性的な人手不足にあるにもかかわらず効率化や体制変更が難しい状況を解説する。

寝静まった繁華街を走るごみ収集車群

深夜、昼間は大勢の人でにぎわう竹下通りを訪れると、粛々とごみを回収する作業員の方と何台もの清掃車が並ぶ光景を見ることができる。


深夜に原宿の竹下通りの店舗から排出されたごみを収集する清掃車群(筆者撮影)

今回、原宿表参道や神宮前、自由が丘駅周辺の店舗から排出される廃棄物の収集を行っている白井エコセンターの収集車に同乗させてもらった。

当然ながら、昼間には多くの人が行き交っているため、清掃車を通行させることができず、それらの繁華街から排出されるごみの収集は街が寝静まる深夜から早朝にかけて行われている。

その収集風景で目を見張るのが、行き交う事業系廃棄物の収集車の多さである。総量からすれば、清掃車1台で十分に収集できる程度のごみ量ではあるが、事業系廃棄物収集業者がそれぞれ契約している店舗を収集して回るため、何台もの清掃車が走っているのである。

しかも同一の場所に事業系の一般廃棄物と産業廃棄物を収集する2台が入るため、倍の清掃車が行き交うようになる。日中は人通りが多い竹下通りであるが、夜間はそれぞれの店舗が契約している廃棄物収集業者の車が行き来する道となる。

事業系廃棄物の収集は、基本的に契約している事業者のもとを一軒一軒回り、店舗やヤードの中に排出されたごみを収集する形となっている。よって、たとえ契約先が遠方で一軒のみであっても、主な収集エリアから清掃車を走らせて「飛び地」の現場に向かっていき、排出された事業系廃棄物を収集していく形となる。

筆者も乗務した収集車は、深夜のすいた幹線道路を15分程度も走行し、「飛び地」の現場へと向かっていった。到着後すぐに排出された数個のごみ袋を収集したのだが、時間をかけて来たからには、もう少しごみを積んで帰りたく思えてしまう。しかし、その付近には契約している事業者が存在せず、収集後は次の現場に向かうために遥々来た道を直ぐに戻っていった。

また、時間をかけて「飛び地」の事業者の排出場所に辿りついても、ごみが出ておらず、「空振り」に終わることもあった。

このような非効率な収集を減らすために、何らかの工夫により改善できるのではないかと思えてならなかった。ごみの排出者が排出の有無を収集者側にそれほどの手間にならず知らせられる仕組みがあると、収集事業者側は助かるのではないだろうか。

可燃ごみなどと一緒に処分される段ボール

さらに非効率な点がある。店舗から排出されるごみの中には、厨芥(調理場からでるごみ)や可燃ごみなどの事業系一廃と、プラスチックやペットボトルや缶といった事業系産廃があるが、それとともに、段ボールも排出されることがある。

段ボールは有価物の資源であるので、それだけを収集して、古紙リサイクル業者に搬入して換金し、リサイクルを進めていきたいところであるが、それを行おうとすると当然ながら収集用の清掃車と人員が別途必要となってくる。

それに加え、別途手配するコストに見合うだけの段ボールが一定量まとまって排出されてくる必要もある。これらの条件が満たされれば段ボールのリサイクルが推進されていくのだが、残念ながら現実的にはそうならない。よってやむをえず事業系一廃とともに段ボールも収集して、清掃工場で燃やさざるをえない状況となっている。

こうなるのも、店舗側の事情としては、店舗内に段ボールをまとめてストックしておくスペースが確保できず、日々の事業から段ボールが出れば、その日のうちに処分してもらいたいという思いでいる。

一方、収集業者側のビジネス背景として、段ボールの引き取り「相場」の不安定さが挙げられる。現在はキロ十数円で推移しているが、これが0円になる場合もある。相場の不安定さは、安定的な事業展開を困難にし、理想的な形にはならないが一定の利益が出る形を志向していかざるをえなくなる。

これらの事情から、段ボールは事業系一廃とともに収集して焼却処理していくビジネス形態となってしまう。店舗から排出された段ボールが事業用一廃とともに収集されているのを見ていると、まるで宝物を捨てるような感覚になり、何とかしたいという思いがこみ上げてくる。スタッフの方に尋ねてみたが、やるせない気持ちで段ボールを収集しているとのことであった。


事業用一廃として収集される段ボール(筆者撮影)

一つの解としての連携収集

事業用廃棄物収集のビジネス形態からすると、個々の収集運搬会社がそれぞれの事業を展開していく形にならざるをえない。その結果、社会全体で捉えると、非効率性が構造的に生じる形となってしまう。

現在では、先ほどの竹下通りのように、同一エリアに各会社の清掃車が入り込み収集していく業務形態となっているが、そこでは1台の収集車があれば十分に収集できる量の廃棄物を、各社の清掃車を走らせてそれらを奪いあって収集している状態となっている。

社会全体から俯瞰すると、ムダな燃料が消費され、CO2の排出もされ続けている状態となっている。また、「飛び地」にある少量のごみを収集するために、清掃車を長距離走らせる非効率的なビジネス形態であるとも言える。

このような事業系廃棄物の収集形態に鑑みると、事業者同士が連携して協力しながら収集にあたるような形に変えていくと、ある程度の非効率性の改善へとつながり、事業者同士の共存共栄も見込めるようになる。

白井エコセンターでは、この連携収集に活路を見出し、すでに同業者同士の協力による収集を始めている。顧客がWEBでの受付システム(ごみ.Tokyo)にて入力を進めていくと、連携収集に関わる各社と顧客との間に産業廃棄物処理委託契約が自動的に締結されるような仕組みを構築して業務を進めている。

連携収集の具体的な手法としては、事業者それぞれが連携収集の対象エリアに抱えている顧客をいったんテーブルに乗せ、事業者間で担当するエリアを配分し、そこにいる顧客のごみを収集する形を構築していくようにする。これにより、同一エリア内には1台のみの収集車が収集業務を行うようになり、燃料の消費やCO2の排出も削減されていくようになる。

ただ、このような収集形態を構築するにあたっては、経営者の思惑が一致するかが大きな問題となる。事業を拡張して会社を成長させたいという思いが強ければ、連携収集の受け入れは難しくなる。また、業者間での利益の分配についての手順の確立も課題となる。これには連携業者間で議論を積み重ねて調整していくコストも生じる。

限られたリソースを上手につかうには?

事業系廃棄物の連携収集が広がっていけば、各社の収集効率の改善が見込めるようになる。そうすると、これまでは排出量が少量のため収集を断られていた小規模事業者も収集の対象となっていく。結果、東京23区のように小規模事業者から排出されるごみを有償で収集している行政側の負担が改善されるだろう。

また、この連携収集による効率化により捻出された清掃リソースを活用していけば、新たな資源収集の可能性が見込めるようになる。今回の事例で言えば、段ボール収集に充て、広域的なエリアで収集して回れば、一定量を確保できるようになり、ビジネスとしての成立が見込まれる。

今回視察した白井エコセンターでは、少しでもドライバーやそれを采配・サポートする配車係、マニフェストなどの管理を行う事務担当者の負担を軽減すべく業務のデジタル化を進めていた。前述のWEB受付システム、AIによる配車、ごみの量を記録する車載器などである。

これらは、負担を軽減するに留まらず業務の合理化によりビジネスを大きく好転させているようだ。もし、より多くの廃棄物収集業者が連携収集の趣旨に賛同し、各社が同様にデジタル化を進めていくならば、さらに効率的に廃棄物と資源を収集することができるようになるだろう。

廃棄物の収集は資源循環の要であるにもかかわらず、多くのルールと経済性の低さにより理想どおりに進んでいない側面がある。連携収集と事業系廃棄物の処理業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、資源循環型の街づくりに貢献するに違いない。

廃棄物業界では慢性的な人手不足の状態が続いている。これは、競い合ってごみを収集するのでなく、限られたリソースをどのように有効に使って事業を継続させていくかを検討する時代になったということであろう。

事業者間の連携が進めば、捻出されたリソースの活用により、新たな資源循環の形が構築される可能性も広がる。今後の事業系廃棄物の収集業界の協力のあり方が、新たな資源循環社会を作っていくといっても過言ではない。


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(藤井 誠一郎 : 大東文化大学法学部准教授)