難聴になると補聴器なしでは音や会話を聞き取ることが難しくなりますが、一般的な補聴器は非常に高価です。そこで、台湾の研究チームがApple製ワイヤレスイヤホンのAirPods Proの聴覚補助機能をテストしたところ、AirPodsの聴覚補助性能が補聴器に匹敵するレベルであることがわかりました。

Smartphone-bundled earphones as personal sound amplification products in adults with sensorineural hearing loss: iScience

https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)01708-4

Losing your hearing? Wireless headphones can work as well as hearing aids - Scimex

https://www.scimex.org/newsfeed/losing-your-hearing-wireless-headphones-can-work-as-well-as-hearing-aids

Surprise Discovery Shows AirPods Can Work as Well as Expensive Hearing Aids : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/surprise-discovery-shows-airpods-can-work-as-well-as-expensive-hearing-aids

加齢や大きな音の聴きすぎなどで難聴になってしまうと、意思疎通が困難になって生活の質が低下したり、認知症のリスクが増加したりすることが知られています。安価な補聴器であれば5万円〜10万円ほどで買うこともできますが、それなりの性能を求めようとすれば数十万円以上の予算が必要です。

また、補聴器は定期的なチューニングやフィッティングのために何度も医療機関を受診しなくてはならないほか、見た目を気にして補聴器の着用を避けたがる人も多いとのこと。アメリカで行われた調査では、難聴患者の75%が補聴器を使用していないことがわかっています。

そこで、台北退役軍人総合病院や国立台北大学などの研究チームは、Apple製ワイヤレスイヤホンであるAirPodsの聴覚補助機能を補聴器と比較する実験を行いました。台北退役軍人総合病院の耳鼻咽喉科医であるYen-fu Cheng氏は、「補聴器に関連する社会的スティグマもあります」「多くの患者は老人だと思われたくないので、補聴器の着用をためらいます。そこで、よりアクセスしやすい代替手段があるかどうかを模索し始めました」と述べています。

AirPodsには「ライブリスニング」という聴覚補助機能が搭載されており、iPhone・iPad・iPod touchなどをリモートのマイクとして使用して聴覚をサポートすることができます。



研究チームが性能を比較したのは、台湾市場での価格が129ドル(約1万8000円)の「AirPods(第2世代)」、249ドル(約3万5000円)の「AirPods Pro」、1500ドル(約21万円)の「ベーシックタイプの補聴器」、1万ドル(約140万円)の「プレミアムタイプの補聴器」です。AirPodsも決して安くはありませんが、補聴器と比較すれば大幅に安価で入手可能となっています。

実験では軽度から中度の難聴を持つ21人の被験者を集め、4つのデバイスをそれぞれ着用してもらいました。この状態で研究者が「最近電気代が上がった」などの短い文章を読み上げ、被験者に同じ文章を繰り返すように求めたとのこと。

静かな環境で実験を行ったところ、AirPods Proはベーシックタイプの補聴器と同様に機能し、プレミアムタイプの補聴器よりわずかに劣る程度の性能を発揮しました。第2世代AirPodsは4つのデバイスの中で最もパフォーマンスが劣りましたが、補聴器を装着しない場合と比較して、被験者がよりはっきりと文章を聞き取ることができました。

また、騒がしい環境で実験した結果、被験者の横方向から騒音が発生する条件では、AirPods Proはプレミアムタイプの補聴器に匹敵するパフォーマンスを発揮することが判明。しかし、被験者の前方から騒音が聞こえる条件では、いずれのAirPodsも聴力を改善することはできなかったとのことです。



第2世代AirPodsとAirPods Proはいずれも音声を増幅するライブリスニング機能を搭載していますが、一部の外部音声を検出して遮断するアクティブノイズキャンセリングを備えているのは、上位モデルであるAirPods Proのみです。この点が、第2世代AirPodsとAirPods Proの聴覚補助性能の差につながっている可能性があるとのこと。

今回の研究結果について、国立陽明交通大学のバイオエンジニアであるYing-Hui Lai氏は、プレミアムタイプの補聴器が搭載する高度な信号処理アルゴリズムも、聴覚補助性能の違いをもたらした可能性があると指摘。「この発見が、エンジニアが特定の方向により敏感な補聴器や、パーソナル音声増幅デバイスを設計するきっかけになることを願っています」「ワイヤレスイヤホン市場は世界的に急成長しており、一部の企業は、音声増幅機能を持つイヤホン設計の可能性に関心を持っています。私たちの研究は、このアイデアがもっともらしいことを証明しています」と述べました。