えっ、砲塔だけ? ド定番「戦艦大和」プラモの新趣向 マニアも嬉しい究極の“割り切り”?
艦船プラモデルにおいて屈指の人気アイテムである戦艦「大和」。これまでタミヤをはじめ、様々なメーカーがリリースしていますが、フジミ模型が2022年7月に発売した新キットには、同社独自の工夫が多々見受けられます。
伝統ブランドから分岐? 革新的な「大和」プラモ誕生
フジミ模型は2022年7月、新製品として「1/700 超『大和』型戦艦 幻の改造計画」を発売しました。すでに市場には、数多くの戦艦「大和」のプラモデルが流通していますが、このキットは他社製品には見られないユニークな工夫が見受けられます。そこで、フジミ模型オリジナルの工夫を掘り下げながら、艦船プラモデルの流れを振り返ってみましょう。
艦船のプラモデルというと、1/700スケールに統一された「ウォーターライン」シリーズが有名です。タミヤ、ハセガワ、アオシマ、フジミ模型の4社でひとつのシリーズを分担して発売するという大規模な企画としてスタートし、1971(昭和46)年から現在にいたるまで続いています。
これにより、同一縮尺で様々な艦艇がリリースされるようになり、「ウォーターライン」シリーズという一種のブランドが構築されるようになります。そのなかで、一番人気の戦艦「大和」はタミヤの担当でした。
フジミ製「超『大和』型戦艦 幻の改造計画 フルハルモデル」の完成見本。喫水線から下は赤のパーツで成型されている(画像:フジミ模型)。
このシリーズに変化が訪れたのは1990年代です。まず、1998(平成10)年にタミヤが戦艦「大和」のキットをリニューアルしたこと。そして、もうひとつの大きなトピックが、1990年代前半にフジミ模型が「ウォーターライン」シリーズから離脱し、独自に「シーウェイモデル」シリーズとして1/700スケールの艦船模型を製品化しはじめたことです。
当初はフジミ模型が自ら担当していた「ウォーターライン」シリーズのキットを中心にラインナップしていた「シーウェイモデル」シリーズですが、新たに「シーウェイモデル特」という名で、1/700戦艦「大和」のキットを完全新設計・新金型で発売したのです。
2004(平成16)年に始まった同シリーズより、フジミ模型の艦船プラモデルにおける独特の展開が始まります。その後、喫水線より下を再現したフルハル仕様にモデルチェンジされた「大和」が、「帝国海軍」シリーズという名で発売。同社はそれ以降も、「大和」のプラモデルを積極的に開発しつづけます。
2009(平成21)年には、きわめて精密な戦艦「大和」のキットをひと回り大きな1/500スケールで発売しました。これにより、フジミ模型による「大和」のキット化は、このまま重厚長大化する方向へ向かうのかと思いきや、2010年代にある変化が訪れます。
「誰でも簡単」と「超精密」を両立
2015(平成27)年、フジミ模型はランナー単位で数色に色分けされ、接着剤不要で手軽に組立が可能な「艦NEXT」というブランドを立ち上げます。そして今回、同シリーズの第1弾として1/700スケールの戦艦「大和」をまったく新たに開発しました。
かつては、プラモデル上級者が徹底的に手を加えるマニアックなジャンルだった艦船模型が、塗装せず接着剤さえ持っていない初心者でも手軽に楽しめるものへと舵を切った瞬間でした。
このように“開かれたホビー”へと艦船模型を昇華させようと動き始めたフジミ模型は、その後、1/200「装備品」シリーズを2017(平成29)年よりスタートさせます。このシリーズは主砲のみ、艦橋のみ……といった具合に、大型スケールで戦艦「大和」の構造物をブロック単位で模型化したことで、業界内では話題になりました。
なお、この「装備品」シリーズもランナー単位で色分けされており、一部をのぞいて接着剤不要なため、誰にでも簡単に組み立てられる仕様になっています。「大和の砲塔だけのプラモデルなんて面白い」と感じるライトユーザーに訴求するのに十分なシリーズだといえるでしょう。
以前に発売されたキットにも付属していたが、ランナーごと組み立てる25mm3連装機銃のパーツ。簡単かつ精密な組み立てが可能(画像:フジミ模型)。
では、フジミ模型の戦艦「大和」が完全に初心者向けに振り切ったのかというと、そうとも言い切れません。最新キット「超『大和』型戦艦 幻の改造計画 フルハルモデル」は、「帝国海軍」シリーズとして発売されたキットをベースに新規パーツの追加などをしたもので、新設計の25mm3連装機銃のパーツは2020年の発売時に追加されたものです。
このパーツは機銃の銃身と基部が別のランナーに彫られており、組み立てに際してはランナーのままパーツを組み合わせて、接着剤を流し込んだ後に切り離せば、多数の機銃が一瞬で完成してしまう、という目からウロコの仕組みになっています。しかも、銃身部分はあらかじめメタリックの樹脂で成型されているため、塗装しなくても密度と質感が再現されるようになっています。
つまり、「誰にでも簡単に組める手軽さ」と「艦船模型ならではの精密感」が両立しており、模型愛好家からすると、極めて面白さを感じる構造になっているのです。
艦船模型の魅力は、細かいパーツを根気よく組み付けていくことです。しかし、戦艦「大和」ほどの人気アイテムは、多様なユーザーの存在を意識しなくてはならないため、メーカーにとっては売れ筋であるとともに難儀する題材だとも言えるでしょう。
接着剤で少しずつ組み上げる醍醐味を残しつつも、ランナー同士を1回貼り合わせるだけで複数の精密な機銃が一度に完成してしまうフジミ模型の25mm3連装機銃のパーツは、これからの艦船模型のあり方のひとつの解答という気がします。