1000機以上製造されたマクドネル・ダグラス社のジェット旅客機「MD-80」シリーズには、アメリカのエアラインや航空ファンから「マッド・ドッグ」と呼ばれています。なぜこのような愛称がついたのでしょうか。

型式名の変更もいろいろあった

 かつてTDA(東亜国内航空)、その系譜をつぐJAS(日本エアシステム)が導入したのち、経営統合をしたJAL(日本航空)にも引き継がれ、2010年9月まで運航されていたMD-81をはじめとする、アメリカのマクドネル・ダグラス社が開発したジェット旅客機「MD-80」シリーズ。1970年10月18日に初飛行したこのモデルには、「マッド・ドッグ(狂犬)」という、なんとも物騒な愛称がついてます。


TDA/JASのMD-81(画像:JAL)。

 MD-80シリーズのベースルモデルとなったMD-81は、全長約45m、幅約35m、3000km以上を飛行することができます。おもに国内線などの短距離路線で運用され、1000機以上が製造されたヒット機となりました。

 機内は横に2-3列の座席を配することを基本としており、主翼の高揚力装置を有効に使用できるようエンジンを胴体尾部の左右に1基ずつ装備。水平尾翼はエンジンを避けるため、垂直尾翼上部へT字型に配置されているのが特徴です。

 このMD-80シリーズ、もとをたどると、ダグラス社の「DC-9」というシリーズの派生型となっており、デザインもほぼ同様です。ジェット旅客機の第一世代であるDC-8、ボーイング707などの次の世代後継機として、短距離国内線向けのジェット旅客機であるDC-9を開発し、1965年に初飛行しました。

 その後1967年に、ダグラス社はマクドネル・ダグラス社に。そこからDC-9の発展形として「MD-81」の製造が始まります。とはいえ、当初はMD-80シリーズではなく、「DC-9-81」とし開発が進められ、1983年に型式名を「MD-81」としました。

 マクドネル・ダグラス社を示す「MD」の型式名を当初から採用しなかったのは、その飛行機のモデルが一定の安全基準を満たしているかどうかを、国や地域ごとに当局が審査する制度「型式証明」の取得にあたって、DC-9シリーズとした方が許可を受けやすいと判断したためとされています。

 このような紆余曲折をもつ「マッド・ドッグ」ことMD-80シリーズには、なぜこのような名前がついたのでしょうか。その語源にはいくつか説があるようです。

「マッド・ドッグ」なぜ?有力説とは

 たとえば国際的航空メディア「Simple Flying」は、MD-80シリーズが「マッド・ドッグ」と称された理由を次のように紹介しています。

 ひとつ目はDC-9シリーズが離陸する際にエンジン・パワーを最大にした際の地響きと音が、他の機種と比べて大きく、独特な音を発していたこと。もうひとつは、アメリカの低価格ワインである「マッド・ドッグ20/20」に由来しているためとしています。これは、安価な航空券で利用できる国内線での使用を見越した機種であるためでしょう。

 日本ではこの愛称はあまり馴染みのあるものではありませんでしたが、アメリカでは航空ファンだけでなく、エアライン自らも親しみを込めて「マッド・ドッグ」と呼んでいたようです。


TDAのDC-9(画像:JAL)。

 MD-80シリーズは先述の通りヒット機になり、世界中の航空会社で運用されることになりましたが、最初に発注したエアラインはスイス航空で、当初アメリカではなかなか採用されませんでした。

 実は、MD-80シリーズは操縦士2人で運航できるために、エアライン側にとっては、運航コストが低く抑えられるモデルでしたが、アメリカのエアラインでは航空機関士を含めた3人乗務を乗務員側が主張していた関係で、このシリーズの導入ができませんでした。ただ、この制限がクリアされたことを皮切りに、アメリカの多くの航空会社でも採用されています。

 日本では、のちがJASとなるTDAがMD-81をDC-9-81として8機、MD-81として18機導入し、MD-81の胴体を短縮したMD-87や、それをさらに近代的な仕様にしたMD-90も運用しました。かつては、羽田空港にいけばいつでも見られる旅客機のひとつでもありました。ただ筆者としては、MD-80シリーズの往年の姿は、あまり「狂犬」感はない通好みのシブメの旅客機だったように記憶しています。

【映像】確かに音スゴイ! MD-80の離陸シーンを映像で(24秒)