カウンター席での食事デート中、男が興ざめした女の“あるマナー”。どんなに可愛くてもこれだけは…
男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。
出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。
-果たして、あの時どうすればよかったのだろうか？
できなかった答えあわせを、今ここで。
今週のテーマは「グループ交際から始まった恋。けれども男が早々に諦めた理由は？」という質問。さて、その答えとは？
最初に沙由里に会ったのは、同じマンションに住む友人の雄大が開催してくれたホムパだった。
透き通るような白い肌に、華奢な体型。大きな瞳に長いまつ毛…と、周りがかすむくらい綺麗で、僕の視線は思わず彼女に釘付けになった。
「沙由里、友達の晴翔。会ったことなかったっけ？」
雄大に沙由里を紹介された時、直視できなかった。
「沙由里です。初めまして」
「晴翔です」
近くで見ると、さらに可愛い。とにかく僕は沙由里に惹かれた。あまりにも可愛かったので、後日雄大に「俺、沙由里ちゃんめっちゃタイプだわ」と言ったほどだ。
そして何度かみんなで会ったあと、僕は思い切って彼女をデートに誘ってみた。
デート中ももちろん可愛くて、楽しかった。けれども、「やっぱり彼女とは付き合わなくてもいいかな」と思ってしまうことになる。
A1：ノリが良くて、よく飲む子だと思っていた。
沙由里と二度目に会ったのも、雄大の家だった。
「晴翔はもともと友達の友達だったんだけど、ひょんなことから一緒のマンションだと知って。そこから仲良くなったんだよね」
実は雄大と僕は同じマンションで、違う階に住んでいるものの、歳も近いし気も合うので仲良くしていた。
「2人とも、こんな家に住んでいてすごいね…」
沙由里の言葉に、僕は慌てて首を横に振る。
「そんなことないよ。たまたま、その部屋が空いていただけだから」
タワマン住まいを自慢するほどダサイことはない。けれども沙由里は納得いかないのか、急に僕の顔をじっと覗き込んできた。
「晴翔くんって、すごいよね」
「全然だよ。何もすごくないよ」
その近すぎる顔にもドキッとしたけれど、この会の間中、なぜかずっと沙由里は僕を見ていた。少し席を離れても、彼女の視線を感じる。
「沙由里ちゃん、すごく見てくるじゃん（笑）」
「え！ごめん（笑）。無意識のうちに、目で追っちゃっていたみたい」
― 何これ。もしかして、沙由里も僕のこと気になっているのかな。
そう思うと、単純に嬉しい。そして自然と顔がニヤけてきた。こんな可愛くて、しかも自分のタイプの子に好意を寄せてもらえるほど幸せなことはない。
そんなことで脳内がいっぱいになっていると、雄大から声をかけられた。
「晴翔、沙由里。この後どうする？もう少し飲むなら残ってもらっても構わないけど。食事も余ってるし」
テーブルの上を見ると、せっかく雄大が用意してくれた食事がまだ残っている。
「もったいないから、食べるよ。お酒もまだあるんでしょ？」
そう言って、立ち上がろうとした時だった。沙由里が、急に僕の洋服の裾を掴んで、上目遣いでこんなことを言ってきた。
「私も！もう少し飲みたいな。とりあえず、今あるお酒だけ空けちゃおうよ」
― え…。マジで可愛いじゃん。
「沙由里ちゃん、それ無意識でやってるの？男は勘違いしちゃうから気をつけて」
「え〜何が？」
「いや、何でもない。意外にお酒強いんだね」
あざといなとは思った。けれどもあざとくでも全然いい。喜んで騙される。
「どうだろう。弱くはないけど…ひとりだと飲まないかな」
結局どれくらい飲んだだろうか。気がつけば夜はふけていた。
一緒にいると楽しいし、もっといたい。そう思ったので、僕は彼女をデートに誘ってみたのだ。
A2：食事に対するマナーがなっていなかった。
初デートは、僕が普段からよく行く中目黒にあるイタリアンにした。
ソワソワしながら待っていると、沙由里がやってきた。そんな彼女の姿を見た途端、思わず心の声が漏れる。
「沙由里ちゃんって…本当にかわいいね」
「ありがとう♡晴翔くんもかっこいいけどね」
可愛い沙由里に、僕の心は掴まれかけていた。しかしデートが進むにつれて、僕はどんどん冷めていってしまうことになる。
「お腹空いてる？何か苦手な食材とか、食べたい物とかある？」
「今日はお昼から何も食べていないから、何でも！でも美味しそうなメニューがたくさんあって、迷っちゃうな〜。とりあえず晴翔くんにお任せしてもいい？」
そう言って、僕に天使のような微笑みでメニューを渡してきた沙由里。でもそもそも、これが間違いだったのかもしれない。
「じゃあ適当に頼んじゃうね。他に追加で食べたい物があったら言ってね」
最初に僕が3品くらいオーダーをすると、沙由里も追加で3品くらい言ってきた。
― 意外によく食べるんだな。
そう思っていた。
ワインを飲みつつ、美味しい料理とともに沙由里にさまざまな質問をする。
「沙由里ちゃんってモテそうだよね」
「私より、晴翔くんのほうこそモテそうだよ」
「いや、僕はどうだろう」
この会話をしている最中、やたらと沙由里の距離が近いのが気になったけれど、僕がさっきから気になっていたのは別のことだった。
「絶対にモテるよ。だってカッコいいし優しいのに謙虚だし…。晴翔くんと付き合える子が、羨ましいな」
今日もあざとさ全開の沙由里。しかしそれよりも、先ほどから料理にまったく手をつけていないのだ。
「沙由里ちゃんって…。いろんな意味ですごいね。そして熱い食べ物苦手だった？」
「あ…。すっかり冷めちゃったね」
「ごめん。僕が話しかけ過ぎたかな」
「全然。晴翔くんと話していると、楽しくてつい時間忘れちゃうな」
こう言ったあとに、料理に手をつけるものだと思っていた。
けれども沙由里はおもむろに、温菜の乗ったプレートをテーブルの端に追いやったのだ。
そんな沙由里を見て、シェフが気を利かせて次の料理を運んできてくれたのだけれど、沙由里は変わらない。
「わぁ、美味しそう♡」
「このお店は肉が美味しいんだよね。どれくらい食べる？」
温菜を全然食べていなかったので、僕としては先に量を聞いて調整するつもりだった。しかし沙由里は「食べられる」と言う。
「半々くらいかな」
「わかった。うまく盛りつけられないかもだけど…」
こうして半分より少ない量の肉を沙由里に取り分けてみたものの、相変わらず沙由里のナイフとフォークは積極的に動かない。
カウンター席に残された、食べかけの料理を見て僕は心が痛んだ。沙由里が自らの意思で頼んだ物ですら、ほんの一口食べた程度だったから。
「ちょっと量が多かったかな？」
カウンター席は、シェフが目の前にいる。僕は作ってくれたシェフに申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、沙由里はまったく気にしていない。
「お腹いっぱいになっちゃった」
悪びれる風もない沙由里。僕はそんな態度の彼女に驚くと同時に、人間性を疑ってしまった。
― 作ってくれた人に対して悪いとか思わないのかな…？そもそも食事を粗末にし過ぎじゃない？
小食なことは構わない。人それぞれ食べられる量も違うだろうし、無理強いはまったくしない。
けれども僕が嫌だと思ったのは、自分の胃袋のキャパはわかっているはずなのに、ポンポンと料理を頼んだことだった。
人のお金だから気にしないのかもしれない。食材の廃棄など気にしないのかもしれない。
でも僕は、他人への配慮の欠如を感じてしまった。育ちの悪さにも思えてしまう。
結局このあと何度かデートをしても同じことのような繰り返しで、僕はすっかり冷めてしまった。
― 可愛くても、人として大事なところはちゃんとしてほしい。食べ物を粗末にする人は嫌だ。
心底そう思った。
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