「お母さんみたい」と思っていたのに…怪しい勧誘を受けて逃げた顛末
社会問題化しているカルト宗教問題。危険な団体はたくさんあると言われています。今回は怪しいビジネスの勧誘を受けたことがあるESSE読者を取材。どんな場所でどのような人物からどのような手口で誘われたのか、そしてどのように回避したのか、詳しく聞きました。
同じ習い事に通っている人にすっかり心を許してしまい…
品川区の専業主婦のミドリさん(仮名・27歳)のお話です。
私の日々の楽しみは、フランスの伝統工芸・カルトナージュという、きれいな柄の布や紙を使って箱をつくる習い事。教室には20〜60代までの幅広い年代の主婦が毎回5〜6人参加しており、おのおの厚紙で箱などを組み立てたり、布や紙を柄やサイズを考えながら切ったりはったりしながら、おしゃべりをして和気あいあいと過ごしていました。
そんなある日…。
「帰りにお茶でもしてもう少し話せない?」と、同じクラスのAさんから話しかけられました。同じ生徒ではあるけれど年齢は50代くらい。少しびっくりしつつも、作業中はいつも気さくにおしゃべりしているし、断る理由もなかったので教室の帰りに駅前のカフェに行くことになりました。
●まるでお母さんみたい。夫の健康にまで気を配ってくれるいい人
Aさん「じつはこの間、ミドリさんのお母様がガンですでにお亡くなりになってるって聞いて、きっと私と同じくらいかなと思ったからすごくショックだったの。それから、私、ずっとミドリさんのこと娘みたいに思っちゃって、ゆっくりお話ししたいなと思っていたからやっとお誘いできてよかった」
そんな風にきり出されて、すごく親近感がわきました。しかもAさんと私は、最近ハマっている食べ物や好きなアーティストなど、趣味が驚くほど一緒で、まるで本当の親子みたいだなと錯覚するほど。そして帰り際、Aさんが最近健康のために飲んでいるというサプリのサンプルを渡されました。
Aさん「ミドリさんのご主人、尿酸値が高いんでしょ。これ、とっても効くから試してみて」
ミドリ「私だけでなく、夫の健康のことまで気遣ってくれるなんて、本当にお母さんみたい!」
Aさん「このサプリの成分が入っているスムージーが飲めるカフェを経営している友人が新宿にいて、今度ホームパーティがあるんだけど、今度一緒に行かない? 知り合いを招待できることになっているの」
ミドリ「いいですよ。そしたら、一度家に帰ってスケジュール確認して連絡しますね」
このような流れで連絡先を交換。喫茶店をあとにしました。
スーパーに寄って夕飯の買い物でもして帰ろうとしたそのときです。肩をポンポンと叩かれて、驚いて振り向きました。
●後をつけてきた人の正体とは?なにもかも下調べ済み!?
そこにいたのは同じ教室に通うBさんでした。
「大丈夫だった? サプリ売りつけられそうにならなかった?」と話しかけられてキョトンとする私に、Bさんは続けました。
Bさん「あのサプリの会社、私調べたんだけど、消費者庁から業務停止命令食らっているのよ。私も前に、『年齢が近いから話したい』と言って、Aさんとお茶しに行ったことがあったんだけど、結局マルチに引き込もうとしていると気がついて距離をおくようにしていたんだ。そしたら、今日、ミドリちゃんが誘われていたから、心配になってこっそり後をつけちゃったの。ごめんね、びっくりさせて」
あまりの急展開に、戸惑う私。素直に「サプリのサンプルはたしかにもらったんですけれど、今度新宿のだれかの家でホームパーティやるから一緒に行こうと誘われて…」
そこまで言いかけると、Bさんは「そこは行っちゃダメ! 向こうの本拠地に単身で乗り込むようなものよ! 危なすぎる」と強く止められました。
立ち話のまま、趣味がすごく似ていて驚いたことなど、会話した内容をいろいろ伝えると、Bさんに「そんなの、ミドリちゃんのSNSみればだいたいわかるような話だし、全部、事前リサーチして話を合わせているのよ。お母様のことだって、私たち中年の人間がいつも病気の話してるからミドリちゃんが雑談のなかでチラっと話したのを聞いていて、弱い部分につけ込もうとしている可能性のほうが高いと思うな」と言われて、ハッとしました。
たしかに話ができすぎていた…。すべては筋書きがある展開だったのかもと気がつきました。
●世代は違えどあんなに気が合うと思ったのに…
こうして、私はBさんのおかげでホームパーティはお断りをし、サプリについても「調べてみたら、結構怪しい会社だと思いました」とダイレクトに伝えて事なきを得ました。Aさんとは今も教室でたまに顔を合わせますが、この一件以降、なにも連絡がありません。
「娘みたいに思っちゃって」と言われて、すごくうれしかった半面、Bさんの言う通り、本当のところは、私のことをなにもかも下調べしたうえでお茶に誘ってきた可能性が高かったのだなと思うと、すごく怖い経験でした。
料理教室に誘われ、お鍋の話になり、長文のLINEにドン引き…
続いては大田区の会社員の亜紀さん(30歳)のお話です。
勤めている会社が勤務時間を自由に調整できるフレックス制度を導入していて、毎週火曜日のお昼は近所のスーパーの片隅で開催されている料理教室にランチを兼ねて参加していました。
参加者は私と同じ近隣のオフィスに務めている会社員の男性が多い教室でしたが、近所で起業していて、時間の自由がきくというキレイな30代くらいの女性もいました。彼女と私は年齢が近かったこともあり、すぐに打ち解け、LINEも交換。
そんなある日、彼女から「日曜日にやっている別の料理教室に行ってみたいんだけれど、はじめての参加でひとりぼっちだと心もとないから一緒につき合ってほしい」と誘われ、とくに予定もないから快諾しました。
●突然始まったセールストーク。本当の目的は一体…?
彼女はLINEで、その料理教室では無水調理をするから栄養価の高い料理がつくれるようになるなど、特徴を丁寧に教えてくれました。
私は無水調理専用のお鍋を持っていなかったので、ふと「道具も使ってみてよさそうだったら、帰りにデパートで買っちゃおうかな」と返信。すると、そこから怒涛の長文が送られてきたのです。
そのお鍋はデパートでは売っていない特別なものであり、料理教室の会員になると割引で買えること、10万を超える鍋だけどメンテナンスもラクで一生ものであることなど、まるでテレビショッピングの宣伝のような文面にびっくりしました。
勤務中ではありましたが、ふと隣にいた同僚に「料理教室誘われたんだけど、なぜか無水鍋のプレゼンしてくる友人がいてさ〜」と話しかけてみると、同僚の顔色が一瞬でパッと変わりました。
「それってマルチじゃない? ネットで検索してみたよ。ほらほら、この鍋じゃない? 今も被害者いっぱいいるみたいよ。在庫持っちゃうと大変なのよ。この会社、いまだにこんな商売しているのか。あきれたなぁ。関わっちゃだめだよ、絶対」
そう言われて、私もあわてて検索。ネズミ講のようにピラミッド状にお金が巻き上げられていくシステムに驚愕しました。
●誘ってきた人の本当の正体も目的もわからず…
彼女は当初、私に対して「初めてその料理教室へ行く」と言っていた割に、商品にやたらと詳しく、正直だまされている側なのかだます側なのか、判断がつかないなと思いました。でもどんなにすばらしい商品だったとしても、悪徳商法のビジネスに加担するのはよくありません。
私は考えていることをそのまま率直に伝え、「会社の同僚にも今強く止められていて、私は怖いから行くのをやめる」と伝えると、「了解」とだけ返事が来て、やり取りが終わりました。
その後、彼女は、いつもの料理教室にも顔を出さなくなってしまったので、どうなったのかはわからず。起業したという会社は本当に近所なのか、普段はどんなビジネスをしているのか、今となっては知る由もありません。
●自分で「調べる・考える・行動する」を徹底することが対策に
今回ご紹介した2つのエピソードは、身近な人がたまたま助けてくれたというとても運がいいケースでした。
怪しい人たちは、相手に調べさせない、考えさせない、行動させない傾向にあります。一方的な情報を大量に伝えてきたり、長時間の勧誘や説得に持ち込まれて思考が停止しまうケースも。少しでもおかしいなと違和感を持ったり、わからないことがあった場合には、常に自分で調べ、考え、行動することが大切ではないでしょうか。