家にあるのを忘れて、同じ本やマンガを買ってしまう…じつは理由があったんです
読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。
ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。
「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。
さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。
【今回の相談】買ったことを忘れて、同じ本やマンガを買ってしまう
この前、本屋で好きなマンガの最新刊を見つけたので、さっそく買って家に帰ったんです。すると、びっくり。同じ巻が家にあるじゃないですか。買ったことを忘れてもう一度買ってしまっていたのです。どうやったらこういう事故を防げるでしょうか。
(PN.土曜の夜の天使さん)
【作者さんの回答】ほんとうは初めて買った本かもしれない
その日、土曜の夜の天使さんは新しい本を買ってきました。
「よし、つぎの日曜日に紅茶でも飲みながら読もう」
そうつぶやいて、新しい本を本棚に差します。そしていつものように過ごして──晩ごはんを食べて、お風呂に入って、歯をみがいたら電気を消してベッドに入りました。
その瞬間、さきほど本棚に差した本が動き出します。
「おい新人、まだ早いぞ」
「いびきが聞こえてから動き出すんだ」
ほかの本たちがささやきます。人間の知識の結晶である本は、それ自体が知性を持っています。ひとの見ていないところでこうやって話したり、動いたりしているのです。
●新しい世界に胸を躍らせる本。ふと窓のそとを見ると…
ずっと本屋にいて、土曜の夜の天使さんの家に初めてやってきたかれは、新しい世界にわくわくしています。いったいどんなことが待っているんでしょう?
窓のそとを見てびっくりします。本たちが練り歩いているのです。あんな堂々とそとを歩いて大丈夫なのでしょうか?
「おい、あんなものは見るな」
「あいつらは本の不良グループだよ」
「お構いなしに外で遊んでいるんだ」
「まったく雨が降ってきたらどうするんだか…」
不良グループはひとの目につかない時間になると、街に繰り出して悪さをしていました。そして、ほかの本たちをそそのかして勢力を拡大していたのです。
しかし、この日のメンバーはものすごく多くて、道の端から端までを本が埋め尽くしていました。かれらはあらゆる本を仲間にしたのです。
本たちが街で破天荒に遊んでいます。店の看板に登って街を見下ろしたり、路上にある置物を動かしたりして遊んでいます。なにかたいへんなことが起きようとしています。
●不良グループたちを止めようと飛び出した本
「あんなのダメだよ、かれらを止めなくっちゃ!」
そうさけびながら、かれは家を飛び出しました。本たちは閉まったゲームセンターでメダルゲームをしていたり、ブティックで勝手に服を試着したりしています。このままでは街がめちゃくちゃです!
「おーい、みんな! 本棚に戻ったほうがいいよ!」
必死にさけびますが、だれも聞いてはくれません。かれはビルのうえによじ登り、さらにさけびますが聞く耳を持たれません。それどころかかれをせせら笑う本すらいます。ふと空を見ると、本が飛んでいます。ページを鳥の翼のように羽ばたかせて、滑空しているグループがいるのです。
これだ──そう思ってかれもビルから飛び降りて、ページを広げて飛翔します。
「みんな、聞いてくれぇ! このままじゃ世界はめちゃくちゃになってしまう!」
かれは空を飛びながら、そう訴えます。──が、やはりだれも聞いてくれません。
●諦めかけたとき、頭によぎったことば
もうダメなのだろうか、そう絶望かけたときにさっきの本のことばが頭をよぎりました。
「雨が降ってきたらどうするんだ」
そうです、本は水に濡れたら使いものにならなくなってしまいます。かれは地上に降り立つと、消火栓をぶっ壊します。つぎの瞬間、噴水のように水があふれだしました。
「うわぁ、身体が濡れちまう!」
本たちは慌てふためきながら逃げ出します。みんな急いで自分たちの本棚へと帰っていきました。
「あはは、これでぜんぶ解決だ」
安堵した瞬間、水しぶきがかれにもかかってきました。しまった! 自分も逃げなきゃいけません。かれは猛ダッシュで本棚にもどりました。
「ふぅ、なんとか間に合ったぞ」
●無事に街を救ったけど、周りの様子が変…!?
しかし、周りを見てみるとどうも変です。本たちの顔ぶれがまったく違います。そのうえ、家具の配置や部屋の形まで違いました。
たいへんです。慌てていたので、間違えて土曜の夜の天使さんの本棚ではなく、別の家の本棚に入ってしまいました。そのとき、その家の住人がちょうど本棚のまえにきます。
「あれ? この本、もう買っていたかなぁ…」
家の住人が首をひねります。その手には、買ったばかりの同じ本をもう一冊持っていました。
「あれ? あの本、どこいったのかなぁ…」
ちょうど同じ時間、土曜の夜の天使さんが本棚のまえで首をひねっていました。こういうことは、たびたび起こるのです。
【編集部より】
相談者のかたは、家にもう一冊あるのを見た瞬間に「前に買ったときのこと」も思い出しているんじゃないでしょうか。買ったことを忘れないために、スマホで写真を撮ったり、日記をつけたりするといいかもしれません。なにかワンアクションをつけたすと、記憶の定着がよくなるようですよ。
「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。