NASAが2021年12月に打ち上げたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、「木星のオーロラ」「深宇宙の天体」「最古級の銀河」など、天文学的に貴重な画像を次々と撮影しています。新たにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した「タランチュラ星雲(30 Doradus/かじき座30)」の画像が公開され、ビッグバンからおよそ20〜30億年後の「宇宙の真昼」の謎に迫る手がかりとして注目されています。

A Cosmic Tarantula, Caught by NASA’s Webb | NASA

https://www.nasa.gov/feature/goddard/2022/a-cosmic-tarantula-caught-by-nasa-s-webb

Stunning Webb View of Tarantula Nebula Captures Details Never Seen Before : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/stunning-webb-view-of-tarantula-nebula-captures-details-never-seen-before

地球から約16万光年ほどの距離にある「かじき座30(30 Doradus)」という星雲は、複雑な内部構造がタランチュラのように見えることから「タランチュラ星雲」とも呼ばれています。タランチュラ星雲は非常に明るい天体であり、天の川銀河が所属する局所銀河群で最大かつ最も活発な星形成領域だとのこと。

以下の画像が、過去にヨーロッパ南天天文台(ESO)が建設した超大型望遠鏡VLTとVISTA望遠鏡によって撮影した画像を合成したもの。確かに毛むくじゃらのタランチュラのように見えます。



by ESO, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Wong et al.

NASAは2022年9月6日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影したタランチュラ星雲の鮮明な画像を公開しました。以下がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されたNIRCam(近赤外線カメラ)で撮影した画像です。従来の観測機器では確認できなかった大量の星が見えるようになった結果、タランチュラ星雲の中心には若い星団(淡い青色に輝く部分)が存在し、これらが放射する恒星風によって中央部分に空洞が形成されていることが確認されました。また、NIRSpec(近赤外線分光器)の分析により、密度の高い周辺領域から中央に向かって伸びる柱の中に、形成中の原始星が含まれていることも判明したとのこと。



以下の画像は、より長い赤外線波長をMIRI(中赤外線観測装置)が捉えたもの。MIRIの画像では高温の熱い星が見えなくなり、冷たいガスとほこりがしっかり見えるようになるため、NIRCamが撮影したものとはまた異なったタランチュラ星雲の様子を知ることができます。



タランチュラ星雲が天文学者にとって興味深い理由の1つに、「宇宙の真昼(cosmic noon/宇宙の正午)」と呼ばれる時期の天体と類似した化学組成を持っているという点があります。宇宙の真昼とは、ビッグバンからおよそ20億年〜30億年後の急速に銀河が成長した時期を指す言葉で、この時期の巨大な星形成領域は地球が存在する天の川銀河とは異なる化学組成を持っています。

しかし、タランチュラ星雲は地球からわずか16万光年ほどの距離にありながら、宇宙の真昼における星形成領域と似た化学組成を持っているとのこと。そのため、タランチュラ星雲を分析することで、宇宙の真昼で何が起きていたのかを知る重要な手がかりを得られると期待されています。

NASAは公式声明で、「人類は数千年にわたって星を観察してきましたが、星の形成過程にはまだ多くの謎が残っています。その多くは、星が生まれる厚い星雲の向こう側で何が起こっているのかを知るための、鮮明な画像を得られなかったことに起因しています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はすでに、これまで見たことのない宇宙の姿を明らかにし始めていますが、これは星が誕生する物語を書き換えるための第一歩にすぎません」と述べました。