アメリカから3年ぶりの帰国。複雑な入国審査、久々のマスク必須生活に驚きも
連日多くの新型コロナウイルス感染者数が報道され、「日本での感染者数が世界最多になった」というニュースも記憶に新しいのでは? ほかの国では今どんな対策をとっているのでしょうか。ここでは、アメリカ・シアトルに住んで十数年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに「日米のコロナ対策」についてレポートしてもらいました。
アメリカから3年ぶりの帰国。感じたこととは?
厳しい日本の水際対策に恐れをなし、長らく帰省を見送っていましたが、第7波直前の6月に日本へ一時帰国しました。
強制隔離がなくなり、公共交通機関も即日利用可能になったのが大きな理由です。前回の帰省から3年。外国人はビザの取得が必要と聞き、今回は日本のパスポートを持つ私と息子のみの帰国です。
●日本への帰国で必要なもの
たとえ「日本人」であっても、スムーズな日本入国のためにはワクチン接種証明書、出国前72時間以内の陰性証明書のアプリへの登録が必要です。この「ファストトラック」なる手続きを入国前にすませることで、検疫手続きが簡素化されます。
確かに、ちょっと前まで日本入国には面倒な複数のアプリ登録、検査も隔離も公共交通機関利用の自粛もと大変な苦難を乗り越えていたことを思えば画期的なシステムです。それまでは「空港を出るまで数時間かかった」という声もよく聞きます。
水際対策が緩和されたとはいえ、“陰性証明書の取得”という難関が待ち受けています。有料の検査しか見つけられなかったり、日本政府が指定する書式での対応を希望したりした方は、それなりのお金と手間がかかったようです。
筆者の場合は幸い、近所に検査を無料で提供する機関があり、そこでもらった陰性証明書の内容を日本政府が指定する書式に合わせて自分で書き直しました(クレームがあったのか、現在は簡素化されたようです)。
手書きの書類を撮影し、アップロード…。ツッコミどころの多いアナログすぎるやり方ですが、アプリの画面が審査完了を知らせる緑色に変わり、ひと安心。公式サイトの説明は難解で一度読んだだけではわからず、変更も多いので、現地の状況を踏まえた具体的な手順はネットや口コミなどで知るほかありません。外国人にはハードルが高いことが容易に想像できます。
●ついに、成田空港へ到着
いざ成田空港に着いてみると、飛行機は満席だったのに、ほとんどの客が乗り換えで別の国へ向かう様子。店もレストランも多く閉まり、まったく高揚感のない日本の玄関口。
ガランとした空港で、とってつけたような張り紙の矢印を頼りに、水際対策用の味気ない特設通路を進みます。やはり味気ない特設検疫所で緑色の画面を見せると、今度は入国審査官に提示するための青い紙を渡されます。検査証明書だそうです。
もはや、デジタルなのかアナログなのかわかりません…。長く入り組んだ特設通路で随所に立っている誘導専門のスタッフの人件費も気になりました。
●アメリカとカナダの入国方法
アメリカも入国には陰性証明書を求めていましたが、ちょうど6月から撤廃。私はグリーンカード(永住権)保持者、二重国籍の息子は米国市民でもあるので、ワクチン接種証明さえも不要です。
それ以外のステータスの外国人は原則、ワクチン接種証明が必要で、米国行きの飛行機に乗る前に、各航空会社の搭乗手続きカウンターで提示することになっています。アメリカ入国自体は、あっけないほど普段通り。
7月に旅行をした隣国、カナダの例も紹介しましょう。カナダ入国には、日本同様にアプリの登録が必要です。陰性証明書の登録は不要となりましたが、ワクチン接種証明は変わらず求められます。
アプリの登録情報は入国管理局のデータと連動しているようで、入国時にアプリ画面の提示は不要でした。入国審査もあっさり。ただしトリッキーな点も。入国時、ランダムに選出された人のみ検査キットを渡され、滞在期間中、リモート診療により検査結果を報告する義務がありました。
アメリカやカナダの街中でマスクを着用する人はほとんど見かけません。観光名所やイベントはもちろん、レストランもバーも大にぎわい。公共交通機関もマスク着用はオプションとなっており、よいのか悪いのか、普段通りの生活に戻っています。
●マスク、医療機関…日米の違いは?
日本では酷暑の中で多くの方がきちんとマスクを着用し、手指の消毒、検温も変わらずに徹底している様子。すでに規制ゆるゆるのアメリカから来た身には、あまりのギャップに驚きでした。
私も日本に帰省中、常にマスクを着用していましたが、機能性の高いマスクだと湿度の高い日本では中がかなり蒸れます。この過酷なマスク生活を2年半以上続けているなんて…と軽くショックを覚えました。
アメリカではマスク着用が全面解除となり、ここシアトルでも医療機関や飲食店従業員を除けば、マスクをしている人を見かけることはまれです。濃厚接触者はマスクを着用すれば、自己隔離不要。
どんどんwithコロナに舵を切っている印象ですが、シアトルに限れば入院者と死亡者の数はほぼ横ばい状態が続いているので、やはりオミクロン株の特性を見極めての判断なのかと思います。
●シアトルのコロナの向き合い方
日本は第7波の真っただ中で、感染者の全数把握の必要性について議論されています。このオミクロン変異株BA.5期においては、陽性と判明しても、重症化リスクのある一部の人以外、大方無症状か風邪のような症状どまり。
市販の解熱剤や咳止めなどを服用することはあっても医療機関にはかからず、アメリカでは申告義務もないので、日本のように感染者を全数把握するのはそもそも現実的ではありません。
シアトルに住む場合、検査キットがアメリカ政府とワシントン州から無料で定期的に提供され、家庭で検査が無料でできます。「もしかしてコロナ?」と思っても、わざわざ医療機関や検査場を訪れることなく陽性かどうかを確かめることができ、実際に多くの人がそうしています。
その場合、自己申告がなければ、その人が陽性なのかどうか、ほかの人は知りようがありません。濃厚接触者についてもしかり。おそらくウイルスは街中の至るところに存在し、マスク着用機会の減る中、多くの人がばらまき、多くの人が感染していることでしょう。
でも、高齢者やリスクの高い人を除けば、大半のアメリカ人は感染対策をそこまで気にしていないように見えます。ワクチンは接種しているし、重症化しても今は薬がある、という安心感でしょうか。
実際、シアトルのあるワシントン州ではコロナ患者のリモート診療が保険の有無にかかわらず無料化され、経口治療薬の適用範囲も広がり、処方が受けやすくなっています。もっともこれは、開発国ならではの強みかもしれません。
日本は圧倒的に高いマスク着用への意識にかかわらず、今や新規感染者数世界最多国です。このオミクロン期にマスクなしの自由な暮らしで感染し放題、結果としてオミクロン変異株に対抗する抗体を多くの人が手に入れたらしいアメリカ。マスクありきの不自由さを我慢し続けても、ワクチン接種の抗体をすり抜けるオミクロン変異株の感染力の強さには結局勝てなかった日本。国外より国内のほうが感染率は高いかもしれない状態で、日本の水際対策がどうなっていくのかも気になります。
と思っていたら、日本入国前の陰性検査義務や感染者の全数把握について一部見直されるとか。ようやく、ですね!
●3年ぶりの日本で感じたこと
3年ぶりの帰省で、あと何回会えるかわからない年老いた両親に、成長した孫の顔をようやく見せることができた今年の夏。
改めて感激したのは日本のおもてなしと豊かな食の文化です。日本特有の行動制限がある中、標的にされた形となってしまった観光業、飲食業の方々はよくここまで持ちこたえてきたなと頭が下がる思いがします。
サル痘、ポリオと新たなウイルスの脅威が心配されますが、外国の方がもっと自由に日本を旅する時代がまた訪れることを切に願います。