「触れてはいけない手」をつかんだ女性。奇妙な同居生活の果てに待つもの/画像提供:芽茶はらぺこさん(@harapeko_mettya)

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8月も下旬を迎えたものの、まだまだ厳しい暑さが続くこの頃。おでかけするのも何かと億劫なこの時期、ウォーカープラスでは涼を感じられる夏に読みたい漫画を特集。今回は『YEARNING』で「サンデーうぇぶり新人賞」を受賞するなど漫画家として活動中の芽茶はらぺこ(@harapeko_mettya)さんのホラー漫画「手々」を紹介しよう。

【ホラー漫画】「手々」を読む

■心霊現象との奇妙な生活と、恐ろしい選択と結末のギャップにゾッとする

「手々」は、芽茶はらぺこさんが朝日ホラーコミック大賞に応募した作品を、今年2月に自身のTwitterアカウント上で投稿し、6000件以上のいいねを集めた作品。

主人公の女性が「家賃1万円」の格安物件に引っ越しを決めたところから物語ははじまる。その破格の安さにはもちろん裏があり、その部屋の押し入れに住んでいたのはなんと人間の「手」。この同居人の存在が家賃の理由だったのだ。

ふすまから「手」が出ている間は開けないこと、食事は1日2回与えること、そして「手」に触らないこと。不動産屋から説明された3つのルールを課せられてスタートした主人公の新生活。「手」は言葉も発さぬ怪異そのものであるものの、ボディーランゲージを通して意外なほど感情表現は豊かで、女性の手伝いをすすんで行うなど気の利くところも見せ、一見悪霊の類には思えないほど。その様子に主人公も「良い同居人に恵まれて」と、不可思議な新居に馴染んでいった。

そんな平穏を揺るがしたのが、主人公の妹の来訪だった。何度引っ越しても姉を頼って金の無心に訪れる妹から逃げるように賃貸を転々としていたものの、今回もとうとう新居を突き止められてしまったのだ。

落ち込む主人公をなぐさめようとしながらも、その時は彼女に触れることもできずにいた「手」。だが、しばらく経った後、妹と、彼女に金を貸しているという男が部屋に現れた時は様子が違った。男に殴られ呆然としていた主人公の前に、「手」はまさに“差し伸べる”ように現れた。放心状態の主人公は、ルールを破ってこの手に触れたらきっと死や消失が待っていると気付いていた。

だが、これまでも妹や現実から逃れようとし続けていた彼女は、「願ったり叶ったりじゃん」と手をつかんでしまう。そして襖の奥からは無数の腕が伸び、彼女を押し入れの闇の中に引きずり込むのだった。

■“何も解決していない”“暴挙”を結末に。何度も読みたくなる魅力の源

破滅的な結末を迎えながらも、主人公を追いつめてしまった妹自らが後に襖にとらわれた姉を救い出そうとするなど、「手」を含めた登場人物の複雑な心境が垣間見えることで、“不思議なストーリー”、“このお話、ハッピーエンド、バッド・エンド、どっちだろう”、“「手」よりも妹の方が恐い”など、読者からさまざまな反響を呼んだ作品。

物語やその結末の解釈が分かれることは作者の芽茶はらぺこさんも意図したところだったそうで、「妹が悪いと思ったら妹の、姉が悪いと思ったら姉の、それぞれの立場になって考え直してみてほしいです」と、登場人物それぞれの心情に寄り添って読み直すことでまた見え方が変わるのではないかと話す。

また本作について「良い意味でも悪い意味でも悩みが何も解決していない」と言う芽茶はらぺこさん。フィクションでは事件や問題が解決するのが王道でも、現実にはなかなかすべてがうまく行くことはないと考え、「嫌な悩みを抱えた現実に、ファンタジーが突如現れ、ただめちゃくちゃに体を奪い去ってしまうみたいな暴挙というのも解決の1つなのかもしれない」という考えから本作の結末について構想を練っていたと教えてくれた。

また、前述の通り、ある意味で読者の期待を裏切る展開となっている本作。自身の作風を「自分で考える内容はあまり人に好まれるような展開ではないことが多い」と自己分析する芽茶はらぺこさんは、そうした作風とホラーを掛け合わせることで組み合わせの妙が生まれるのではないかと考え、この作品でホラーに挑戦したと語る。

そうしたストーリーだけでなく、鍵となる存在である「手」の、ほのぼのとした仕草やその印象を裏切るようなおぞましさといった“人物描写”も本作の大きな魅力の一つ。芽茶はらぺこさんにはもともと人の手を見る癖があるそうで、人それぞれ手つきやその印象が異なり、手だけでも不快な気持ちや心地良い気持ちなどの感情を見出せると思ったことが本作の着想や手の描写に活かされているという。

本作の他にも「読む方が何度も読み返したくなるような作品を描けるようになりたいと思います」と、作品制作を続ける芽茶はらぺこさん。

今年5月には、サンデーうぇぶり新人賞の2022年4月フリー部門にて努力賞を受賞した「YEARNING」がサンデーうぇぶり上で無料公開された。世界を襲う魔王と戦いながらも、守るべき人々から嫌われてしまった魔法少女のマホちゃんを描いた短編で、同作にも「何度も読みたくなる」「読むと元気もらえるような気がして」と、読者からの声が寄せられている。繰り返し読みたくなる、読むたびに見え方が変わるかもしれないその作品世界に注目だ。

取材協力:芽茶はらぺこ(@harapeko_mettya)