コンサドーレ札幌で活躍した内村圭宏さん(右)。松本洋介社長が興したコラボスタイルで第二の人生を歩む【写真:コラボスタイル社提供】

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コンサドーレ札幌で活躍した内村圭宏さん、インタビュー後編

 現役時代はチームのエースとして活躍し、現在はIT企業で開発に携わっている異色の元Jリーガーがいる。J1北海道コンサドーレ札幌などでFWとして活躍し、2020年に引退を発表した内村圭宏さん。「ワークスタイルの未来を切り拓く」を理念にする名古屋のIT企業「コラボスタイル」に入社し、開発チームの一員として業務に勤しんでいる。

 元Jリーガーが、セカンドキャリアにITエンジニア職を選択するのは珍しい。指導者としてサッカー界に残る選択肢もあった中で、なぜ前例のない道を選んだのか。前後編でお届けする後編では、コラボスタイルに入社するに至った経緯、同社がコンサドーレ札幌のスポンサーとなった背景などを、代表取締役社長・松本洋介氏の話と併せて聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 20年に引退を発表後、別のIT企業で約2年の経験を積んだ内村さん。更なるスキルアップを目指し、今年コラボスタイルに転職した。最終面談で初めて対面した松本社長は、事前に開発側の役員からこんな評価を聞いていた。

「スペック、経験的には他の候補者の方がいいけれど、何かを感じる。芯もあるし、松本さんと合うと思う」

 採用にあまり関与しない松本社長だが、依頼を受けて面談に同席。寡黙で誠実なイメージを抱いた内村さんから、最後に受けた質問に熱を感じた。

「異業種からIT業界に飛び込んで、社長をやっている松本さんの記事を見ました。凄く興味があるので、お話を聞かせていただけませんか」

 松本社長は大学卒業後にバーテンダーになったが、その後ITエンジニアに転職。2013年に起業し、コラボスタイルを立ち上げた。異なる業種からIT業界に飛び込んだという共通点について、内村さんは興味津々。その姿勢が松本社長の印象に残った。

「内村に良いなと感じた点は、アスリートのセカンドキャリアを切り拓きたいという気持ちが汲み取れたところ。弊社もワークスタイルを切り拓くという考えがあり、ここならそれができるんじゃないかと内村なりに考えていたんだと思います。

 確かに経験は浅く、年齢的な懸念もある。企業として、同じ船に乗せるメンバーは厳選したい。どうかな……とは思っていましたが、面談で僕も一緒に仕事したいなと感じさせられました」

J1札幌のスポンサーになった理由「胸を張ってユニホームを着て欲しい」

 37歳。エンジニアとして一流を目指すには正直、もう遅いと言わざるを得ない年齢だとは互いに分かっていた。

「サッカーと同じで、下からどんどん優秀な社員、最初から試合に出られる人が入ってきて、チームから外さなければならない人も出てくる」。そんな中で、何ができるのか。面談終盤は進路相談のような雰囲気で、一緒にどう働いていくかに話が移っていた。

 コラボスタイルは2013年の立ち上げ当初から、多くの開発者が各地でリモート勤務をしていた。20年に新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発出された時も、その前から出社を一度禁止し、営業活動もフルリモートで行うことを社員に命じている。

 取引先からすると、対面で直接やり取りした方が安心できる。デメリットはあったが、「それによって落とす案件や商談があっても構わない」と安全を最優先した。理念でもある「ワークスタイルの未来を切り拓く」を自社から実践。結果的に、リモート対応はパートナー企業などからも好評を得ることができた。

 これまでにない、柔軟な働き方を考える同社だから、内村さんの強みも活かせる。その取り組みの1つが、古巣であるJ1コンサドーレ札幌のスポンサー企業になることだった。

 きっかけは、松本社長がツイッターで繋がっている経営者などのアカウントを、研究熱心な内村さんもフォローしたこと。偶然、そのうちの1人が大ファンだった。「うっちーからフォローされたんだけど、コラボスタイルに入ったの?!」。その興奮具合に、連絡を受けた松本社長も驚くしかなかった。

 その後、内村さんがイベントの写真撮影でユニホームを着用した姿を見て、松本社長は感動した。「腕を組んでポーズを決めた内村がめちゃめちゃカッコ良かったんですよね……これは胸を張ってユニホームを着てほしいと思った」。その日のうちにスポンサーになると決めていた。

「内村を応援すると考えた時、コンサドーレを丸ごと応援した方がいいと思ったのが始まりです。会社としても、内村がユニホームを着られた方がいいし、気持ちの問題としてきちんとスポンサーとして関わった方がいい。内村の発言もバージョンアップされていくと思いますが、重みが違ってくる。個人的に内村を応援しているのと、会社としてスポンサーになるのは意味合いが全く違う。迷いはありませんでした」

第二の人生で感じるサッカーの時に近い感覚「脳みそがムキムキに…」

 内村さんと出会うまでサッカーにあまり関心がなかった松本社長も、今ではコンサドーレが大好きに。スポンサーになって改めて分かったのが、道民に非常に愛されたチームだということ。サポーターの高い熱も感じていた。

「北海道はこれから事業としても大切にしていきたい地域。そういう意味だと、内村は『星』なんです。当然、エンジニアとして経験は絶対に積んだ方がいいけれど、彼は特に道民に愛されているので、北海道を攻める時は内村が何らかの陣頭指揮を取る方がいいし、ユニホーム着ている方が絶対にいい。会社の利益にも、彼の自信にもなる」

 元Jリーガーのセカンドキャリアとしては異例のITエンジニアとして活躍しながら、サッカーにも携わりたいと考えていた内村さん。「一目惚れ」した転職先で、その夢に向かって日々研鑽を積んでいる。

「王道のキャリアも素敵だし、夢があっていいけれど、自分の挑戦がある程度形になって、今の現役選手に報告できれば『そういうやり方あるの?』とかなり明るい話題になるんじゃないかなと思います。無理だと思われるような、考えもしないキャリアだと思うので。そういうのは燃えますし、しんどい時に励みになります」

 引退後について今も不安を抱える選手は少なくない。かつてその1人だった内村さんも、現役時代はそこまで考えられず、人の話を聞く機会もなかった。行動から実績を得て、後進に発信できるようになりたいと考えている。

 スパイクもユニホームも脱いだ今の社会人生活も「サッカーの時に近い」と語る。「日に日に、脳みそがムキムキになっている感じ。鍛えるのが好きなので」。Zoomの画面越しに笑顔を見せてくれた。前例なきセカンドキャリアの行く末に注目したい。

■内村圭宏(うちむら・よしひろ)

 1984年8月24日、大分生まれの37歳。大分高では全国高校サッカー選手権に出場するなど活躍。2003年から大分トリニータに入団した。07年からは愛媛FCで3シーズンを過ごし、10年からコンサドーレ札幌に完全移籍。札幌では236試合で59ゴールを記録するなどエースとして活躍した。19年にFC今治でプレーし、現役引退。転職活動ではハローワークを活用し、IT企業に就職。約2年間経験を積み、「コラボスタイル」に転職した。現在は開発チームに所属し、エンジニアとして勤務している。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)