松山北・松岡(右)は同級生部員ゼロの3年間を過ごした【写真:宮内宏哉】

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インターハイ柔道に出場、松岡龍司は松山北で唯一の3年生部員

 柔道の全国高校総体(インターハイ)は8日、競技3日目が行われた。個人戦の男子100キロ超級に出場した松山北(愛媛)の松岡龍司(3年)は、同校でたった1人の3年生部員。3年間、ずっと同級生なしで練習を続けてきた。理想より1つ上の階級で出場し、初戦敗退だったが、高校最後の試合は悔いなく終わった。(取材・文:THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 高校3年間、悩みを打ち明けたり、時にぶつかり合ったりする同級生部員はいなかった。だからこそ、松岡は柔道を通じて関わった全ての人へ、熱い思いを口にした。

「後輩には、ついてきてくれてありがとう、それしかないです。普段、一緒にいる時は先輩面してきましたが、後輩がいないと練習自体ができない。初心者から勧誘して入ってくれた子もいる。『先輩みたいになりたい』と思わせられるような試合がしたいと思い、頑張れた。先輩、周りの方々含めて感謝しかありません」

 小学4年生から柔道を始め、中学では90キロ級で四国大会8強入りするほどの実力をつけた。学年20位内に入る学力も持ち合わせていたため、柔道一本ではなく、文武両道を目指して松山北に入学した。

 校訓に「文武心」を掲げるなど、愛媛県内では進学校でありながら部活動も盛んなことで知られる松山北。ただ、運の悪いことに松岡の世代は他に柔道部に入る同級生がいなかった。「当時の自分には、凄くしんどかった」。2年生になり、後輩の勧誘にも力を入れた。

 部活前の30分程度、新入生のもとで柔道の魅力を語る日々。「初心者でもぜひ」と声をかけ、無事に複数人が集まった。今では後輩が11人いる。精神力、リーダーシップが自然と磨かれた。

1人だから気付けた、柔道は「ある種の団体競技」

「柔道をする子は自分の意思を持っている子が多いので、強めに声掛けしないとなかなかついてこない部員もいます。一方で、どうしてもモチベーションが低い子も中にはいる。だから、しっかり声をかけてアドバイスしながら、たまには楽しい練習もやっています」

 やみくもにキツい練習をするのではなく、時にはチームに分かれて競争的な練習をし、負けた方が罰で腕立てなど楽しめるメニューを組み込む。そうして部の雰囲気が良くなり、練習効率が上がる。柔道は個人競技だけれど、部内の団結は重要。「ある種の団体競技」であると、学年たった1人だからこそ気付けた。

 この日の松岡の体重は101.5キロ。最も適性のある階級は100キロ級だったが、愛媛県大会の同級の枠は後輩部員に譲ったため、1つ上の100キロ超級でエントリー。周囲に「無謀な挑戦」とも言われたが、勝ち抜いてインターハイの切符を掴んだ。

 全国の舞台は、初戦で10キロ近く重い相手を攻めきれず、反則負けで終わった。それでも「改善点とかはあるけれど、悔いはない」と言い切った。卒業後も柔道は続ける予定。「柔道は強い人と組んで『ヤバい』と感じても、下がらないことが大事。チャンスはあると思って前に出る。人生にも直結すると思っています」。目標の国立大合格に向け、残る高校生活は学業に力を注ぐ。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)