1918年のベーブ・ルース以来となる「2桁勝利&2桁本塁打」はもう時間の問題だろう。予期せぬ故障以外に、大谷翔平の偉業達成を阻止する要素は見当たらない。昨季に46本塁打、今季もオールスターブレイクまでに19本塁打を放ち、メジャー屈指のパワー打者となった打撃に加え、今季の大谷は投手としての段階をひとつ上げた印象がある。


7月26日に21号本塁打を放った大谷。20号の時と同様に、笑顔を見せずにダイヤモンドを一周

 前半だけで9勝をマーク。7月22日(現地時間。以下同)のブレーブス 戦では、エンゼルスの"後半戦の開幕投手"も任された。この日は7回に6点を失って負け投手になり10勝目とはならなかったものの、6回までは昨季の世界一チームの強力打線を1安打11奪三振とほぼ完璧に抑えていた。

「(大谷の投手としての素晴らしさは)ストライクゾーンの中で攻めてくるところ。打者にプレッシャーをかけてくるんだ」

 オールスター期間中、ヤンキース投手陣の大黒柱ゲリット・コールは、大谷の投手としての素晴らしさをそう説明した。

 実際に最近の大谷は、約162.8キロ(101.2マイル)を記録した速球、ブーメランのように曲がるスライダー、切れ味鋭いスプリットといった持ち球を堂々とストライクゾーンに投げ込んでいる。多少のコントロールミスも致命傷にならない球威を持つ右腕は、今季終了時に、先発投手としてもエリートとして認められるようになるだろう。

 ただ、それでもエンゼルスの勝利にはなかなか結びついていない。昨季に続いて低空飛行を続けるチームは、7月27日のロイヤルズ戦を終えた時点で借金16。7シーズン連続の負け越しと、8年連続でプレーオフ進出を逃すことがすでに濃厚となっている。

 7月23日、大谷が20号本塁打を放ったゲームは象徴的だった。アトランタでのブレーブス戦で弾丸ライナーの右越え弾を放ったものの、チームは2−7で完敗。節目の一発にも、背番号17はほとんど笑顔を見せないままダイヤモンドを一周した。

 こんな場面を見れば、シーズン途中から大谷のトレード話が噂されるようになったのも、ある意味で仕方なかったのだろう。

「マイク・トラウトと大谷翔平を救うべきだ」

 7月18日、ニューヨーク・タイムズにそんなダイレクトなタイトルのコラムが掲載された。内容もなかなか刺激的だ。

「巨大なホームラン、完璧なピッチングが無に終わる彼らの苦悶を考えてみろ。『今のプレーを観たか?』とファンを驚かせるプレーを見せてくれるトラウトと大谷は、負けの連続ではなく、より楽しく喜びに満ちた野球人生を過ごすべきなのだ」

 そこで提示された"2人を救う"ためのアイディアは、「トラウトと大谷には、試合中に3度のマッサージの機会が与えられるべき」「ゲーム中にダグアウトでバーベキューを開催し、ビール、ハンバーガーの飲食を許可する」「トラウトを選手兼監督にする」といったアメリカンジョークが満載だった。ただ、野球ファンであれば、このコラムを書いたライターの真意が理解できるだろう。

 球界のベスト5に入るだろう選手を2人も抱えながら、所属チームは不甲斐ないゲームの連続。トラウト、大谷がすごいプレーを見せれば見せるほど、ファンのフラストレーションも増幅していく。メジャーリーグにおける最大の舞台は紛れもなくポストシーズンであり、そこで2人のプレーを観られないのは損失だ、と言っても大袈裟ではないはずだ。

 どれだけ噂話が飛び交おうと、8月2日に迫ったトレード期限までの大谷の放出は現実的ではないだろう。「ベーブ・ルースの再来」とまで称されるスーパースターをトレードすれば、地元ファンからの強烈な反発があることは必至。スポンサー関連の事情なども考慮すれば、シーズン中の大がかりな動きは考えにくい。

「複数のチームが大谷のトレードを打診したが、エンゼルスには8月2日のトレード期限までにスーパースターを放出する意思はない」

 7月23日、MLBネットワークのジョン・ポール・モロシ記者が自身の公式ツイッターにそう記したことが明らかになった。

 エンゼルスにアプローチしたのは、おそらく今季の優勝を狙うヤンキース、メッツ、ドジャース、あるいは日本人選手と結びつきが強いマリナーズ、レッドソックス、パドレスなどか。トレード期限前の交渉はこのまま沈静化することが濃厚。惨敗が続くエンゼルスで「改革論」が噴出するだろうオフに、あらためて話し合いが催されるはずだ。

大谷のトレードがエンゼルスにもたらすメリット

 ただ......いずれ再燃する話であれば、急転直下でトレードがまとまってほしいと願うファンも多いに違いない。"鉄は熱いうちに打て"と言うではないか。

 現時点で大谷を放出することは、エンゼルス側にもメリットが大きい。トラウト、アンソニー ・レンドンという主力選手と高額の契約を結んだため補強が難しくなっているが、大谷のトレードの見返りとして一挙に複数の有望株を手にできる。

 大谷は2023年オフにFAになるため、そこで移籍する可能性があるとすれば、トレード価値が最高潮な今のうちに放出し、最大限の見返りを得るということも方向性としては正しい。低迷脱出の糸口が見つかっていないなら、いち早く実行する価値はある。

 辛抱強く"二刀流"に挑ませてくれたという点で、エンゼルスを選んだ大谷の判断はおそらく正しかった。しかし、メジャーでも投打で成功できることを証明した時点で、アナハイムでやるべきことは完遂した。

 次のステップは、より真剣に優勝を目指しているチームに移籍し、ひたむきに勝利を目指すこと。"二刀流"で勝利に貢献できると証明すること。それならば――。
 
 全米のベースボールファンが騒然とするトレード期限まで、1週間を切った。可能性が低いことは承知しているが、ここで大谷が優勝候補チームに移籍するという夢のシナリオに、心のどこかで期待を寄せたくもなる。

 そんな流れが現実となれば、ベースボールはよりエキサイティングに、ポストシーズンもより面白くなる。このスポーツの未来のためにも、誰もが「観たい」と感じるスター選手は相応のステージに立つべきなのだ。