7月17日、東京。J1第22節、FC東京はジュビロ磐田と本拠地で戦い、2−0と勝利を収めている。試合後の会見室の記者は10人に満たなかった。

「浦和レッズ戦後は満員だったのに」

 FC東京の指揮官であるアルベル・プッチ・オルトネダ監督は軽口を叩きながら壇上につくと、滔々と話し出した。どこか先生が生徒を諭すような口調は、ユース年代の選手と長年、向き合ってきたからか。

「Proceso」

 アルベル監督はスペイン語で会見に応じると、何度となくその言葉を繰り返し使っている。「プロセス」という意味だが、自分たちがFC東京のサッカーを作っている過程にあることを強調していた。「今日は勝ったが、これからもいい試合、悪い試合がある」とも補足した。

 まったくの正論である。しかし、スペイン人指揮官が言うプロセスはどのゴールに向かっているのか?

「ボールを大事にする」

 アルベル監督は言い聞かせるように説明したが......。磐田戦のFC東京のプレーはどうだったのか?


今季からFC東京を率いるアルベル・プッチ・オルトネダ監督

 勝負を分けたものとしては、磐田のGK三浦龍輝のふたつのミスが単純に大きかった。開始早々、セットプレーの流れで、三浦は高く上がったボールを木本恭生にヘディングで決められている。自らアプローチしたボールに触れなかった点だけで、トップGKとしては批判を受けざるを得ないプレーだった。三浦は心理バランスが崩れたのか、続けて自陣で渡邊凌磨にボールをプレゼント。呆気なく2点目を叩き込まれている。

「ゴールひとつで試合は大きく動くもので、今日はそのひとつだった。前半は相手の攻撃のよさを消すことができた。そしてボールを持った攻撃ができたと思う」

 アルベル監督はそう言って満足げだった。

 ただ、前半の磐田は自滅に近い。GKのミスもそうだが、3バック1トップというシステムが噛み合っておらず、早々に形を変えるべきだったが、変えられなかった。プレッシングははまらず、中盤で優勢を与え、ビルドアップに四苦八苦していた。

 FC東京は得点シーンを含めて集中していたと言えるだろう。その点で、磐田を完全に凌駕していた。選手個人は局面で優位を見せ、たとえば長友佑都は歴戦の猛者らしく虚を突いていたし、紺野和也は果敢に仕掛け、安部柊斗は五分五分のところでファイトしていたのは間違いない。

攻撃的な戦いはできていない

 しかし、チームとしてのメカニズムは感じさせなかった。

 中盤にパスを入れる瞬間ひとつをとっても、周りの連動は乏しい。パスはつないでいても、フリックなど意外性は出せなかった。これはポゼッションを信奉するチームとしては致命的だろう。「ボールを大事にする」というのは、あくまで得点へのメソッド、あるいは理念であり、どうつなぎ、どう運び、どう崩すか、に眼目はあるはずだ。

 結局のところ、ゴールに迫る攻撃の大半は、レアンドロが個人で打開するなど、選手のフィーリングに頼っていた。フィーリングは、場当たり的とも言い換えられる。連係面の組織練度は低かった。

 そして後半になると、布陣や選手の入れ替えで修正してきた磐田を相手に、東京は守勢に回っている。

「後半はボールを多く失ってしまったのが課題。90分間、ボールを自分たちのものにできるようにトレーニングをしていかないといけない。これは監督就任初日から言い続けていることで、最後の日も語るだろう」

 アルベル監督は、名将の趣で総括した。

 ただ、最下位の磐田に主導権を握られ、完全に崩される形もあった。何度かあった決定機は、GKヤクブ・スウォビィクが立ちふさがることで失点を防いでいる。それが今シーズンのFC東京の本質だろう。

 失点数はたしかに少ないが、それは攻撃的に戦えているからではない。単純に各選手が体を張っているのと同時に、スウォビィクのゴールキーピング力が大きいだろう。磐田戦も直接的セービングは少なかったが、寄せの速さやポジショニングなどが際立ち、それがシュート精度を狂わせていた。

「今はプロセスにあって、3カ月前の我々と変わっているから、そこを見てほしい」

 アルベル監督はそう言って胸を張った。

「18歳の(松木) 玖生も台頭してきた。ブラジル人のレアンドロやディエゴ(・オリヴェイラ)も、アダ(イウトン)も必死に汗をかき、プレスをしてくれている。私は魔法使いではなく、チームの成長には時間がかかる。成功のプロセスは、長いスパンが必要だ」

 アルベル監督は会見のなかで、昨シーズンまで率いたアルビレックス新潟が今シーズン、J2で首位に立っていることを喜んだうえで、「1年目はコンセプトを理解してもらうのに大変だったが、今では長いボールを蹴るとスタジアムで不満が起こる」と説明し、「だから東京も、今はベースを作っているプロセスだ」と、話を落とし込んだ。

 そこで覚えた小さな違和感の正体を探るとすれば......。

 アルベル監督が「Jリーグ生まれの監督」で、母国スペインでは監督として采配を振ったことがない点にあるだろう。また、バルセロナ時代から、あくまで育成畑の人である。そのため、「プロセス」という表現になって、ひとつひとつの試合に向けて戦術練度を高め、修正、改善をし、戦えるチームにする、という執念が見えない。哲学や理念はすばらしいが、現場の指揮官特有の「勝負の切実さ」があまり見えないのだ。

 もちろん、選手編成の責任もあるだろう。現在の所属選手のキャラクターで、アルベル監督が目指すサッカーを体現できるのか。スウォビィクも含めて、昨年までの長谷川健太監督が率いたチームに必要だった選手補強が多かったようにも思えるのだ。

 いずれにせよ首都のクラブ、FC東京は7位に浮上している。次戦は30日、アウェーのサンフレッチェ広島戦となる。