なんだかとても後味の悪い記者会見だった。説明するための情報がまだ揃っていない段階での会見だったからだ。

7月3日の日曜日、手元のメールボックスに配信されたKDDIの広報部からの説明会開催の案内メールは7時35分に受信されていた。当日、11時から記者会見を実施するという(会見の内容はレポート記事「KDDI最大の通信障害、なぜ起きた? 緊急会見で分かったことを整理する」で紹介されている)。

KDDIが7月3日に開催した緊急記者会見。代表取締役社長の郄橋誠氏(右)と、執行役員専務 技術統括本部長の吉村和幸氏が謝罪した

○「復旧未定」KDDI始まって以来の大規模通信障害

7月2日(土)の深夜から発生したKDDIの通信障害は、同社始まって以来の規模だという。

24時間を超え、会見開始時刻の7月3日11時時点では、関西エリアで復旧作業は完了、50%の規制をしつつ徐々に平常のネットワークへの復帰が進行中、関東エリアの復旧作業完了は7月3日17時30分予定ということだけが告げられていた。

完了するのは復旧作業だけだ。復旧のために必要な作業を完了し、そこからネットワークを調整しながら平常運転に戻していく。それにどのくらいの時間を要するのかはわからない。それがわかってから●月●日●時に復旧完了という日時が決定する。実際、月曜日(7月4日)の午前中になっても、一部で障害が残り、音声通話がつながりにくい状況は続いている。これは通信規制によるものだ。

いずれにしても、記者会見の開催時は、まだ詳細が判明していない状況だった。わかっているのは、メインテナンスのためにルータを交換したら障害が発生、元の状態に切り戻したが、交換機で輻輳が起こり、さらにその副作用として加入者DBでも輻輳(ふくそう)が起こったということのみ。

その対症療法として長時間にわたる通信流量規制が行われた。つまり、原因は、この時点で何もわかっていない。同社としても想定外だったとしている。

au障害の概要

○正常な通信を前提とした2段階認証が落とし穴に

電気通信事業者を監督する立場としての総務省は早期の会見を要請していたようだが、詳細がわからない段階であるにしても、KDDIの情報提供は、その内容、頻度について十分だとはいえなかった。

街中のauショップには、エンドユーザーが殺到していたようだが、各ショップの店頭に事故の経緯や回復作業の進捗を知らせる貼り紙くらいはあってもよかったのではないだろうか(障害自体の告知は一部ショップであったようだが)。

障害が影響した回線数の概要。なお7月5日0時時点で、通信は音声通話・データ通信含め「全国的にほぼ回復」したという

今回の事故で、日本でのシェアが高いiPhoneが仕組み上、障害中もデータ通信が平常通り使えたのはよかった。Androidは機種によってデータ通信もできないものがあったらしい。そのあたりの状況も、これから同社が詳細報告の中で明らかにしてくれるはずだ。

通話ができなくてもデータ通信ができれば各種SNSの音声通話機能でなんとか目的は果たせるかもしれない。auは、povoのサービスイン時、同社の20代のauユーザーの6割以上が、一カ月当たり10分間しか通話していないという事実を公表したが、データ通信ができていれば音声通話ができないことに気がつかないというケースもありそうだ。

いちばん困ったのはSMSが使えなかったことだろう。IoTで使われている回線のうち約150万回線に影響があったそうだ。同社国内全IoT回線のほぼ1割だ。意外と影響が少なく感じる。これは、IoT回線の多くはデータ通信に依存しているからだという。影響を受けたのはSMSがIoTの仕組みの中で使われているケースだったという。

一般ユーザー的にも、何かとつきまとう二段階認証が困ったらしい。二段階認証のために携帯電話に送られてくるセキュリティコードなどを確認することができず、利用しようとしているサービスにログインできないといったトラブルが頻発していたようだ。

二段階認証の仕組みは、電話会社の通信網が止まるはずがないことを前提に作られているといってもいい。ここは、SMSではなく、SNSのメッセージ機能や電子メールでの認証を補助的に使う方法を、きちんとエンドユーザーに伝える試みが必要だ。

○災害が起こらなくても通信障害は起こる

さらに、土日ということもあって、各地でのイベント会場は、電子チケットの表示ができないなどのトラブルが起こりたいへんな状況だったようだ。そりゃそうだ。推しのアーティストを目の前に阿鼻叫喚というのも無理はない。電子チケット表示のために、通信環境のある場所でWi-Fiを使おうとしたら、その会員登録でSMSによる登録時の確認などがあって詰むといった具合だ。

災害などが起こらなくても通信障害は起こる。というよりも、通信障害もまた、ある意味で災害のひとつだといっていい。一般的には、その被害を軽減するには、日常から予備の回線を別の会社でもうひとつ確保しておくといった方法がある。それをいうなら、端末にしても複数台あったほうがいい。でも、エンドユーザーにそれを求めるのは難しい。

今回は、多くの端末でデータ通信ができていたので最悪の事態というわけではないが、でも、いざというときに備えて、どこでも使えるWi-Fi網を確保しておくといったことならできそうだ。そういう意味ではauユーザーは、日常的に使う、使わないは別としても、ユーザーが無料で使えるau Wi-Fiへの接続ができるようにしておくくらいの対策はしておいてもソンはなさそうだ。

著者 : 山田祥平 やまだしょうへい パソコン黎明期からフリーランスライターとしてスマートライフ関連の記事を各紙誌に寄稿。ハードウェア、ソフトウェア、インターネット、クラウドサービスからモバイル、オーディオ、ガジェットにいたるまで、スマートな暮らしを提案しつつ、新しい当たり前を追求し続けている。インプレス刊の「できるインターネット」、「できるOutlook」などの著者。■個人ブログ:山田祥平の No Smart, No Life この著者の記事一覧はこちら