「日本資本主義の父」渋沢栄一が現代の首相たちを見たらどう思うのか - 毒蝮三太夫
※この記事は2021年02月25日にBLOGOSで公開されたものです
NHKで新しい大河ドラマ「青天を衝（つ）け」が始まったね。初回の視聴率が20％とずいぶんと高かったみたいだけど、これは地震の影響でNHK全体が高くなってたんだろ？ それも含めてだけど注目が高いってことはいいことだと思う。オレは毎週見るのが楽しみだもの。なにしろ主人公が渋沢栄一だからね。今この時代に渋沢栄一という人を一年にわたって取り上げる意味はとても大きいよ。
一万円札の顔になる渋沢栄一
今さらながら渋沢栄一翁と言えば、江戸末期から明治、大正、昭和と活躍して数多くの企業や組織を設立して「日本資本主義の父」と呼ばれた偉人だ。ちょっと編集部、も少し説明してくれる？
編集部）渋沢栄一は明治以降470社以上の会社設立に関わりまして、「みずほ銀行」「東京ガス」「東京海上日動火災保険」「帝国ホテル」「キリンビール」などが代表的で、現在ある日本企業の大部分は渋沢栄一によって礎が築かれました。
渋沢栄一の故郷、埼玉県深谷（ふかや）は名産のネギだけじゃないよ。観光でも人気上昇中だ。オレも行ったよ。渋沢栄一に関しては大農家だった立派な家も残ってて見学できて、多くの資料を展示した渋沢栄一記念館もあって、これがまた立派な建物でね。
あと、深谷駅も人気だよ。外観が東京駅とそっくりなんだ。これも渋沢栄一が関わってて、東京駅って深谷のレンガが使われてるんだよな。ちょっと編集部、ここも少し説明してくれる？
編集部）当時の東京駅を建てるのに使われたレンガの9割が、深谷にある日本煉瓦製造で作られたものでした。日本煉瓦製造は国内初の機械式レンガ工場で、渋沢栄一が設立しました。
今年は大河ドラマがあって、さらに2024年には新一万円札の顔として、日本の隅々にまで渋沢栄一が行き渡ることになる。とくに一万円札の顔はオレも何枚でも拝みたいよ（笑）。
NHKは渋った「渋沢栄一で大河」
渋沢翁が書き残した著書「論語と算盤（そろばん）」も改めて見直されているよな。今の日本を何とかしたい、経済や経営を立て直すにはどうしたらいいのか、そういう危機感を抱いている人達の指針になる一冊として注目されてるよ。
「論語と算盤」に書かれているのは、要するに経済ってのは「儲け一辺倒」ではダメだってことを説いている。人間をないがしろにした儲け主義ではなく、経済活動を通して人間もきちんと育っていくことが大事であると。論語で語られる人間形成と、算盤でもたらされる経済活動の両立、バランスが大切だってことを言ってるんだよな。
何を今さらって話じゃないよ。今の日本を見渡せば、大企業が溜めこむばかりで、給料上がらないって話が、もう10年以上言われてるもんな。たぶん今の時代に渋沢栄一が甦ったら、最近の歴代総理を並べて説教するんじゃないの？（苦笑）
この渋沢栄一のファンだったのが、長いこと埼玉県知事（2003年～2019年）を務めていた上田清司さんだ。埼玉の誇りである偉人をもっと全国に知らしめたい、もっともっと見直されるべきだってんで、NHKに「大河ドラマに渋沢栄一を」って推薦してたんだって。
だけど、NHKからは「明治モノは当たらないんですよ・・・」って、けんもほろろだったってさ。なるほど大河ドラマって長年やってるけど、視聴率がいいのは戦国時代。信長・秀吉・家康の時代が人気。幕末や明治大正も時々やるけど、比べてみたら人気の差は一目瞭然だって。
そういう経緯もあったらしいけど、こうして渋沢栄一の大河ドラマが実現と相成った。たぶんNHKとしても企画を通すにあたって色んな思いがあったと思うよ。「日本の経済はこのままじゃマズイ」・・・、それを世に問う為にも、かつて命がけで国を憂いた人物・渋沢栄一がいたことを広く伝えなければ、と。
接待問題は「親の威を借る長男」
その一方で、現実ではガッカリするようなことが起きてるわけだ。最近の週刊文春で報じられたのが菅総理の長男による総務省官僚の「違法接待」。
これ、あまりにも典型的な「賄賂」「汚職」の構図だよ。菅さんは以前に総務大臣もしていて、長いこと与党中枢の権力者だ。この長男、菅さんにくっついて一時期、総務大臣秘書官もしてたんだろ。
そのあと映像事業を手掛ける老舗会社で役職について、総務省の幹部と何度も会食して手土産渡して、その結果、この映像会社はCS放送に関して総務省から特別扱い・・・というハナシ。「トラの威を借るキツネ」って言葉はあるけど、こりゃ「親の威を借る長男」だな（苦笑）。
接待と見返り、そこに関わる人物が与党大物である菅さんの長男・・・と来たら役人もプレッシャーだよな。接待受けてその見返りを一切せず、公務員として正しく振る舞ったら、菅さんの一声で人事で飛ばされるかもしれないんだから・・・。
正直者がバカを見る社会って、オレは一番イヤだよ。この問題、菅さんは国会で追及されたけど、他人事みたいなこと言ったんだよな、編集部？
編集部）「私の親族であるとはいえ、公的立場にはない、いち民間人に関するものであり、本人やその家族などの名誉やプライバシーにも関わることであり、本来このような場で、お答えすべきことではないと私は思います」という答弁でした。
長男が民間人だとしてもさ、その長男が以前には総務大臣秘書官も務めてたわけで、ズブの素人って話じゃないだろ。元・総務大臣秘書官が、現・総務省幹部という国家公務員と「接待」「手土産」「特別扱い」で関わって問題になってるわけだ。国家公務員のトップは菅さんなんだから、そんな言い訳は通用しないだろ。
この総務省幹部が処罰されるみたいだけど、長男のいる映像会社に総務省から与えられた「特別扱い」はどうなるんだろうね・・・？
実弟めぐる疑惑も 一線を引けない菅ファミリー
そうそう、たしか菅さんのファミリーって、前に実弟の話もあったよな？
編集部）菅総理の実弟がかつて製菓会社に勤めていた時、東京駅のキオスクの販売スペースで厚待遇を受けていたり、その後、JR東日本の子会社に途中入社して役職に就いたり、菅総理とJR東日本のパイプが強いことから、まさに親族がコネを享受していた模様・・・という話です
JRだけに、コネの引き込み線が見事ってなもんか（苦笑）。
菅さんって安倍さんの後を継いで総理になったわけだけど、安倍さんをしっかりと継承してるよな。安倍さんは妻の昭恵さんがらみで色々と突かれた、菅さんも家族がらみで突かれている。どっちもファミリーに足を引っ張られるってことで、菅さんは安倍さんを正当に継承してるよ（苦笑）
いずれにしても政治家という権力者がいるファミリーは、権力に対してクリーンな距離を保つのは当然であって、それこそ「公平」とか「公正」を汚す振る舞いは言語道断だよ。国民は選挙を通して政治家に権力を託しているのであって、そのファミリーに権力を託したわけじゃないからね。
この一線をきちんとしなかったことから、森友学園の問題では近畿財務局の職員が責任を押し付けられて命を落としている。これって権力者のファミリーがその権力を軽々しく扱ったひずみだよな？
「一線を引く」「一線を画す」、この一線がどうなっているかで、その国のレベルが出るよな。
お茶も「結構です」 現場は徹底している公務員法
オレね、40年ぐらい前かな、区の税務署から特別監査だってんで、我が家を調べられたことあったんだ。オレは仕事で外出しててカミさんが対応したんだけど、税務署員が3人程来てウチのあちこちを6～7時間かけて細かく調べていったよ。衣装が経費で申告されてるけど、どれがどうだとかさ。
でね、昼メシ時になって、現場を途中にしたまま外に食べに出るわけにいかないのか、出前でカツ丼かなんか取ったの。これ、ウチのカミさんは向こうもウチのことで来てるわけだし、昼メシ代ぐらいはこっちで持つつもりだったんだけど、税務署の人達、食べた分はきっちりお金置いてったって。あと、お茶もコーヒーも「結構です」って断ったって。
そこで「なあなあ」にならないことを徹底してるんだなって感じたよ。官の役人というのも上から下までいるわけだけど、現場の一線で働いている役人はきちんとしている、公務員法をきっちり守ってる。それが上に行けば行くほど、法を守ることをないがしろにしていく。その最たるものが総理の一族じゃ笑えないよ。
だからこそ、今の近代日本を作るのに一生を賭して、いかにして資本主義によって得られた利益で国民を潤すか、庶民の暮らしを豊かにするか、決して自分が利権にあずかろうとか、私腹を肥やそうとか、そういうやましさとは真逆の精神だった渋沢栄一という人物を見直すことは、とても意味のあることだと思う。
これを読んでるあなた、今年は大河ドラマを見てじっくり考えましょうね、って、なんだかオレ、NHKの回し者みたいだな（笑）。言っとくけどNHKから接待も手土産も無いよ、クリーンな関係だからねオレは（笑）。
（取材構成：松田健次）
